弁護士達はなぜ共産党の公約を「性行為の原則違法化」と言ってるのか。中村剛弁護士の解説。
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atochi_kanri
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共産党の公約について、弁護士達がなぜ「性行為の原則違法化」と言ってるのか、ちょっと解説したいと思います。 これについては、①文字通り条文上性交等が原則違法とされる、②被害者の同意が一般的に違法性阻却事由に挙げられている、③法的効果として原則違法化されるの3点があると考えています。
2019-07-05 11:18:59
刑法は、一般的に①構成要件、②違法性、③責任の流れで検討します。言い換えれば、まず①条文に該当するかを検討し、該当すれば原則違法(かつ有責)な行為であると判断され、例外的な事由がないかということで②③を検討します。
2019-07-05 11:19:15
例えば、傷害罪を例に取ると、まず条文に書いてある「人の身体を傷害した」に該当するかが検討されます。それに該当した場合は、原則違法かつ有責な行為であるとされます。例外的に、正当防衛などが成立する場合に、違法性が阻却され、適法な行為となります。責任についても同様です。
2019-07-05 11:19:29
「被害者の同意」は、一般的に②違法性阻却事由と考えられています。他人を怪我させたけど、その被害者本人から怪我をさせることについて同意をもらっていた時は、原則的に違法な傷害行為を行っているが、例外的に被害者の同意があるので違法性が阻却される、ということになります。
2019-07-05 11:19:49
被害者の同意は、一部の例外を除き、特に条文で定められていなくても違法性阻却事由とされています。相手の同意を得て暴行をしたときも、相手の同意を得て物を壊したときも、原則として違法だが、相手の同意があるので例外的に適法だと解釈されます。
2019-07-05 11:20:07
さて、今回の共産党の公約には「強制性交等罪の『暴行・脅迫要件』の撤廃と同意要件の新設」と書かれています。そして、現在の強制性交等罪の条文は、「十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交(中略)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。」と書かれています。
2019-07-05 11:20:23
これをどのような条文に変えるつもりなのか、現時点で共産党から具体的な条文案が出されておらず、不明です。論者によってもバラバラであり、証明責任を転換させる、書面作成を義務付けるなど、いろんな人がいろんなことを言ってるのでよくわかりません。
2019-07-05 11:20:38
一番単純なのは、暴行脅迫要件のみを撤廃し、「十三歳以上の者に対し、性交等をした者は、性交等罪とする。」と規定するものです。被害者の同意は、条文に書かなくても違法性阻却事由となるので、条文に書く必要性は必ずしもありません。これは、文字通り性交等を犯罪化しています。
2019-07-05 11:21:00
次に「十三歳以上の者に対し、性交等をした者は、性交等罪とする。ただし、相手方の同意を得た場合はこの限りではない。」という規定が考えられます。本文が原則でただし書きが例外なので、この場合も文字通り原則性交等が犯罪化されています。これが冒頭の①文字通り違法になることの意味です。
2019-07-05 11:22:23
また、上記のとおり、被害者の同意が一般的に違法性阻却事由とされ、違法性阻却事由は例外的な事例とされているので、「性交等が原則違法」ということもできます。これが、冒頭の②被害者の同意が一般的に違法性阻却事由に挙げられているということの意味です。
2019-07-05 11:22:37
最後に、③法的効果の観点から見てみます。これも条文の規定の仕方次第ではありますが、仮に証明責任を転換させるとしたら、被告人は「同意を得ずに性交等を行ったから処罰される」のではなく、「(同意を得ていたとしても)同意があったと証明できなかったから処罰される」ことになります。
2019-07-05 11:22:51
この場合は、まさに性交等を行っただけで処罰され、例外的に同意があったと証明できた場合に処罰を免れるのですから、「原則性交等の違法化」ということができます。
2019-07-05 11:23:07
では、証明責任を転換させず原則通り検察官が証明しなければならないとした場合はどうでしょうか。これは実際の運用次第だと思います。検察官に証明責任があるとしつつ、不同意の認定がガバガバで実際上は被告人が同意の証明をしなければならなければ、結局は証明責任の転換がなされた場合と同じです。
2019-07-05 11:24:03
逆に、不同意の認定をかなり厳格にした場合、結局は今と同様、暴行・脅迫のようなものがない限り、不同意とは認定できない、ということになると思われます。そうなれば、今改正を訴えている人達は納得できないので、当然緩やかに解すべきと主張しているのでしょう。
2019-07-05 11:24:31
刑事弁護をやっていると、捜査機関側はかなり強大な権力を持っていて、被告人や弁護人はかなり非力であること、裁判所は捜査機関側の主張を無批判に受け入れることがかなりあることを実感しているので、刑事弁護人としてはかなり警戒してしまうのです。
2019-07-05 11:24:39
また、不同意性交等罪を主張する人達が、どこまでの処罰を考えているのかもバラバラです。酔った勢いで性交等に応じたけど、後から考えたらやっぱり嫌だった、結婚してくれるからと性交等に応じたけど、結婚してくれないなら嫌だった等の場合に、処罰の必要性を感じているのか、人によって分かれます。
2019-07-05 11:25:05
さらに、今回の公約ではないものの、強制わいせつについてどうするかも気になっています。強制わいせつはキスでも成立するので、「不同意わいせつ罪」なるものができたら、ドラマ等でよく見る不意打ちのキスなどは限りなく犯罪行為に近くなっていきます。
2019-07-05 11:26:08
また「結局処罰されなければ問題ないじゃん」という考え方もあるかもしれません。ただ、刑罰法規は処罰されなければいいという問題ではなく「社会のあるべき姿を示すもの」であるともいえます。つまり、刑罰法規は人々にやってはいけない行為を示すことによって望ましい社会を示しているとも言えます。
2019-07-05 11:26:42
そのような中、生物の種の存続の根源とも言うべき性行為を「原則としてやってはいけない行為」として示すことが、社会のあり方として望ましいとは思えません。 以上が、弁護士が共産党の公約を「性行為の原則違法化」と説明する理由です。あくまで私個人の見解なので、違う人もいるかもしれません。
2019-07-05 11:27:05