「母語が局所であること」茂木健一郎

「母語が局所であること」についての茂木健一郎氏の連続ツイートです。
0
茂木健一郎 @kenichiromogi

局所(1)デンマーク、コペンハーゲンの空港で、トランジットの時間が長くてうろうろしていたら、のどいたひりひりになった。やっと時間が来て、ふうと思って廊下を歩いていると、「god rejse」と書いてある。

2011-05-18 13:17:25
茂木健一郎 @kenichiromogi

局所(2)ドイツ語で言えば、Gute Reise!英語で言えばGood Trip! というような意味なのだろう。それにしてもGod rejse! にはちょっとびっくりする。まるで神に拒絶されているみたい。デンマーク語を母語とする人にとっては、ごく自然な表現なのだろう。

2011-05-18 13:19:25
茂木健一郎 @kenichiromogi

局所(3)ヨーロッパを旅していると、このスペルが正しいという「正書法」は国によってまちまちで、正しい唯一の綴りなどないということが身にしみてわかる。そんなものを神経症的に点数化するどこかの英語の試験は、根本的に間違っている。言葉なんて、使えればいい。通じればいい。

2011-05-18 13:21:24
茂木健一郎 @kenichiromogi

局所(4)空港の売店に行くと、デンマーク語の「ベストセラー」の本がたくさんあって、うわーっと思った。デンマーク語は東ノルド語の系統で、約600万人が話しているそうである。その宇宙で生きている自分を想像した時に、うわーっと思った。

2011-05-18 13:23:09
茂木健一郎 @kenichiromogi

局所(5)たまたまラッキーで共通語になった英語を除いて、今や世界の他の言葉はすべて局所語である。フランス語だって、ドイツ語だって、そんなの知るか、という人がたくさんいる。局所語に閉じ込められている苦しみは、英語以外の人には皆平等に降りかかっているのだ。

2011-05-18 13:24:05
茂木健一郎 @kenichiromogi

局所(6)だからもう、覚悟を決めるしかない。お母さんの話していた言葉(母語)はやはり特別。使い続ける。磨く。深める。その一方で、その母語が、世界の情勢からみれば、どうしょうもなく局所なんだということを悟る。日本もデンマークも同じことだ。

2011-05-18 13:25:11
茂木健一郎 @kenichiromogi

局所(7)英語がずるいのは、もはや英語を母語とする人たちだけの言葉ではなく、あらゆる言語圏の人たちの「出会い」のための言語になっているということ。だから、出会おうと思ったら、つべこべ言わず使うしかないんだよ。そうでないと、局所の宇宙に閉じ込められる。

2011-05-18 13:26:15
茂木健一郎 @kenichiromogi

局所(8)デンマーク語の「ベストセラー」が並んでいるのを見て、うわーっと思い、どこかで「関係ないな」と思う。似たようなことを、日本語の出版物に対して外国人は思うはずだ。1億と数百万。スケールの違いはあっても、出会っていないことはかわりがない。

2011-05-18 13:27:25
茂木健一郎 @kenichiromogi

局所(9)ベルリンに着くと、ドイツ語になる。ずいぶん有力な言葉だが、局所であることにはかわりない。英語の人たちはラッキーだが、文句言っても仕方がない。出会うためにも、英語をばしばし使おう。局所でトホホな母語も、大切にしつつね。それが両輪なんだ。英語が母語の人の一輪車よりもいい。

2011-05-18 13:29:32
茂木健一郎 @kenichiromogi

以上、デンマークのコペンハーゲンの空港で「うわー」と思って考えた、母語が局所であることの喜びと哀しみについての連続ツイートでした。

2011-05-18 13:30:07