エッジ・オブ・ネザーキョウ #6

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエッ!」驚いたザックの手を、襤褸をまとったその男はぬるりと掴んだ。「助け……!」「来な、お客さん。モタモタすんなよ……面倒くせえ」「ついていきましょう!」コトブキはザックの肩を押した。住人は三人を連れて、テントの間を進んでゆく。やがて地面のマンホールの蓋を指差した。 24

2019-07-25 23:00:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「XX-001、こン中だよ」住人は言った。「おかしな奴だ。カモフラージュの為に、ワシらにメシ代を振る舞い、ここで暮らさせてンだ。どうせここに来るゲニンなんぞ居ねェが、怪しまれねえように、さっさと入れ」「ア……」「お前から入れ、ザック=サン」マスラダは無雑作に蓋を外した。 25

2019-07-25 23:03:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ナムサン……!」ザックは梯子を掴み、息を止めて降りてゆく。マスラダとコトブキがそれに続く。底はそう遠くなかった。彼らが床につくと、点灯した蛍光ボンボリに闇が払われた。鉄扉があった。『……入りなさい』スピーカーから声。「い、いいの?」ザックは思わず訊き返した。 26

2019-07-25 23:06:33
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『アベ一休を着た、ザカリー。うむ。奴から話は聞いていた。残念な事になったものだ』「この二人は、俺が雇った奴らで、ええと、ゲニンじゃなくて……」『その者達の戦闘の目撃報告は耳に入っている。アケチ水軍とも戦っていたな』「そうなのか!?」『さあ入れ』扉が開いた。 27

2019-07-25 23:09:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

扉をくぐると、エントロピーが一気に増した。天井からは無数のケーブルが蔓草めいて垂れ下がり、通路の脇に所狭しと積まれているのはUNIXケースやプラスチック人形、ラック、ネオン看板の残骸といった品々。奥から音楽が聞こえてくる。それは旧時代の荘厳な8bit電子音BGMらしきサウンドであった。 28

2019-07-25 23:13:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何だ、これ……アイエッ!」ビゴロビゴロ。通路脇のUNIXデッキ・ジャンクが断続的な駆動音と光を発し、ザックは飛び上がった。突き当りには、オブツダンじみた鉄の祭壇があった。おそらくそれは高性能のUNIXデッキ。ゲーミング・チェアが回転し、目的の人物が三人と向かい合った。『ようこそ』 29

2019-07-25 23:19:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ビゴロビゴロ。部屋全体が囁いた。無数のUNIXデッキを塗り固めたような壁だった。『私がXX-001だ』リコナーの女は手をひろげ、歓迎を示した。彼女が被った無骨なヘッドマウントギアには何本ものケーブルが繋がり、鉄のUNIX祭壇と直結状態にあった。 30

2019-07-25 23:22:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ア……アア……凄い!これ、インターネットでプロキシなの!?」ザックは我を忘れて見回した。「IPアドレスで、無線LANで、Wi-Fiなの?」『そのとおり。この大地にはいまだネットワーク・インフラは生きており、私は今も自らを接続しているんだよ』XX-001は穏やかに認めた。『プロキシの力でね』 31

2019-07-25 23:24:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「すげえ」少年は絶句した。『XX-002はお前達を気にかけていた。将来のリコナーとして、よく育てていたようだ。物好きな事だ』「そんなに俺らの事に詳しいなんて!」『弟子とは常にIRCでやり取りしているからな』「そうか!IRC通信かあ!」マスラダとコトブキは顔を見合わせる。32

2019-07-25 23:31:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがてザックは我に返った。マスラダ達に油断ならぬ視線を向ける。「……どうだよ。俺は嘘を言ってなかったろ?ネザーキョウにもインターネットはあって……それを秘密アクセスするのが、リコナーなんだぜ」「すごいですね!」と、コトブキ。『なにか望みがあるんだろう?』XX-001が尋ねた。 33

2019-07-25 23:36:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ネットへのアクセスだ」マスラダが言った。コトブキが説明した。「シグルーン……わたし達のインテリジェント・モーターサイクルのAIドライバーを更新したいのです。プログラムを私のニューロンにダウンロードし、保管して持ち帰りたいと……」『そうか』XX-001が頷いた。『タダではないぞ』 34

2019-07-25 23:40:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ネオサイタマに仲間がいます」コトブキが答えた。「お金を用立てる為に、IRCをさせてもらえれば……。可能ですか?」『10分だけ許そう。10分以内に企業通貨を用意するなら、使わせてやる』「……わかりました」XX-001はコトブキにLANケーブルを手渡す。『君はウキヨというやつだな。初めて見る』 35

2019-07-25 23:45:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウキヨは珍しい存在らしいです」コトブキは頷いた。「企業通貨はネザーキョウで使えるのですか?」『勿論。闇両替を使えばいい。……本当に、用意できるんだろうな?』「きっと大丈夫です!」コトブキは請け合い、LAN直結した。データストリームの風を、黄金立方体の輝きを、彼女は感じた! 36

2019-07-25 23:50:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

1101……0101……「そうだ。そう。もう少し前屈みになってくれ!サービス精神が大事だぜ。……そう!イイネ!もっと大胆に!ガッツリとチップを追加するからよ!オレは気前がいいんだぜ?太客になるぜ?……ア?」01001「モシモシ?オイ!エラーか?」「モシモシ」「オ!良かっ……違う奴か?」 37

2019-07-25 23:56:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネオサイタマのアカウントはコトブキの出現に狼狽した。「タキ=サン!」コトブキは電子的に手を振った。「わたし、わたしですよ」「ア……?」タキは怪訝そうにした。「誰だお前?」「わたしです」コトブキはアカウントを開示した。タキは呻いた。「お前!今まで何処で何を!今何処に!」 38

2019-07-26 00:00:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「シトカから南東に移動しました。今は、ネザーキョウのヤマザキに……昔はプリンスジョージだったのですが」「ネザーキョウ?あのイカレ国?」「インターネットが無いので連絡が取れませんでした」「アーッ?そうなる前にその旨伝えてこなかったのはどうしてだよ!」「……気の迷い……というか」 39

2019-07-26 00:04:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャスレイヤー=サンはどうなった?くたばったか」「一緒です」「野郎……生きてたか。あの野郎。アイツ、散々おかしなIPでIRCをオレに繋いで来てただろうが。なんでそれをやってこねェ」「できなくなってるんです」「できなくなった?」「もう!緊急事態でASAPなんです!あと5分なんです!」40

2019-07-26 00:07:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「エッ5分?何?」「送金しないとインターネットが使えないんです!企業通貨なら何でもよくて……オムロ等でも……」「お前、ふざけるなよ!詐欺じゃねェだろうな!騙されてねェだろうな!」「わたし達、信頼関係がある筈です!すごい敵と戦ってきたじゃありませんか!あと4分です!」「クソッ!」 41

2019-07-26 00:12:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキはタイピングを速め、何らかのサーチを開始した。「オレは常にキャッシュフローを作り出してンだ!そんな現金プールなんて作らねェんだよ!」「預金が無いですか」『あるいは希少プログラムでも構わんがな』XX-001のアカウントが参加し、助け舟を出した。『この際、そういったものでもいい』 42

2019-07-26 00:15:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前が詐欺野郎か!クソめ!」「タキ=サンはクチが悪いですが悪人ではありません」コトブキが説明した。「制限時間が実際厳しくて冷静な会話ができず……」『まあ、いいだろう』カウントダウンは残り1分で停止した。『何かないか、タキ=サンとやら。彼らも困っているようだ』「ならタダにしろ」43

2019-07-26 00:19:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ダメだ。慈善事業ではない』「……絶対感謝しろよ、オマエら」タキはコトブキを指差した。「ニンジャスレイヤー=サンによく言っとけ」「勿論です!」「クソッ……」タキは電子棚からキューブ状のプログラムを取り出し、XX-001に投げつけた。名称は「ダブ絶頂」。旧世紀ヘンタイ・プログラムだ! 44

2019-07-26 00:27:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ヘンタイか。成る程』XX-001は淡々と現在の価値を参照した。『足りんな』「ケチめ!足元見てねえか!」『お互い様だ。彼らは他に通信手段が無いんだぞ』「信じられねえ」タキはもう一つプログラムを投げつけた。「サイケデリック伝説人魚たち花園」……旧世紀メガデモだ!XX-001は表情を動かす。 45

2019-07-26 00:29:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これ以上はダメ。これ以上やるッてンなら、勝手に野垂れ死にさせるしかない」『いいだろう!素晴らしい。貴方に敬意を払おう、タキ=サン』XX-001はログオフし、彼らのセッションルームに光が射し込んだ。入れ違いで新たなアカウントが出現した。「……ニンジャスレイヤー=サンだな」「そうだ」 46

2019-07-26 00:34:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ブチ殺してやりてえ」タキは苛つきを強く示した。「オレの宝のひとつを……。テメェはいつもいつもオレの都合を考えねえな……!」「実際、助かった」「助かりました!」マスラダの横でコトブキが繰り返しジャンピング・ガッツポーズ・エモートをした。タキは怯んだ。「……で、何をどうするって」47

2019-07-26 00:39:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まず、シグルーンの……バイクのAIドライバを……」コトブキを遮り、マスラダはIPアドレスを見せた。「ここに繋ぐ」「何だと?」タキは顔をしかめた。コトブキは訝しんだ。「それは……フィルギア=サンの伝言ですか」「もうすぐ一週間経つ。バイクも直る」「そう……ですね」 48

2019-07-26 00:43:14