If世界に迷い込んだアナスタシアのカドアナ話まとめ

2部1章を経て消滅したはずの異聞アナスタシアが、何故か「カルデアのAチーム」カドックに召喚される話、の自分用まとめ。
3
くるーる @couleur2525

けれど、格好をつけた言葉とは裏腹に、だんだんとその頬が赤くなっていく。 しかも、彼の口はあー、とか、うー、とか、意味のない言葉ばかりを漏らすばかりで、肝心の言葉を聞かせてくれない。 「……マスター?」 痺れを切らして、ヴィイと共にマスターを見つめる。

2019-07-31 01:16:57
くるーる @couleur2525

「わ、わかってる! あーっ! くそっ!」 私の苛立ちを感じ取ったのか、ひときわ大きく叫んだ彼が、ベッドから降り、私の手を取った。 「間違いなく、僕らは運命だった! そうだろう、僕のキャスター!」 「……ええ、その通りよ、私のマスター!」

2019-07-31 01:35:13
くるーる @couleur2525

だから、2人で世界を救いましょう。 今度こそ、世界を救いましょう。 そして、あなたの本当の望みを叶えましょう、カドック。

2019-07-31 01:35:14
くるーる @couleur2525

赤い顔のまま、おやすみ! とベッドに潜り込んだマスターを置いて、彼の部屋を出た。 誰もいない廊下を歩き続け、吹雪き続ける外が見える窓の前にたどり着く。 ここから眺める外は、まるであのロシアのよう。吹雪は止むことがなく、この先に生命は存在しない。 彼はこの寒空を変えて、世界を救うのだ。

2019-07-31 01:35:14
くるーる @couleur2525

静かな廊下に、カツン、と、足音が響き出した。誰かがここに近づいてくる。 こんな夜に、一体誰だろうか。 振り返り、足音の主を見た。 「こんばんは」 「……あら、こんばんは」

2019-07-31 01:35:14
くるーる @couleur2525

そこにいたのは、あの補欠のマスターだった。一般枠でこのカルデアに呼ばれ、あの8人目の少女が「先輩」と慕う、どこまでも善良な、ただ一般人。 あぁ、でも、どうしてだろう。 あかりのもとにいるはずのその顔が、どうして、よくわからないのだろう────

2019-07-31 01:35:15
くるーる @couleur2525

どこからか、パキパキと音が聞こえる。 湖の上に張った薄氷にヒビが入っていくような、どこか不安を煽る音がする。 顔のわからないマスターが、それでも口を開くのがわかった。

2019-07-31 01:35:15
くるーる @couleur2525

「これは、君の夢? アナスタシア」 その言葉に、氷が全て砕ける音がした。

2019-07-31 01:35:15
くるーる @couleur2525

アナスタシア、と、誰にも知られていないはずの真名を、その人は呼んだ。 そして、この世界を夢だと、そう断言して、主を尋ねてきた。 その顔が、だんだんと鮮明になっていく。それに反するように、周りの景色がぼやけ、変化していく。 気がつけば、辺りは酷い有様だった。

2019-07-31 12:26:31
くるーる @couleur2525

銃弾の跡が残る壁、どこからか漏れる冷気に、凍りついた扉。 そして、床にこびりついた、誰かの血の跡。 それらは全て、この私があの日起こした惨劇の跡だ。私が凍てつかせたカルデアに、私とその人は立っていた。

2019-07-31 12:26:31
くるーる @couleur2525

その人の顔が鮮明になった今、その表情がよくわかる。その人はどうしてだか、今にも泣き出しそうな目をして私を見つめていた。 「……ええ、そう。そうよ、汎人類史のマスター。これは、私の夢なのでしょう。あなたに召喚された汎人類史の私の中に紛れ込んだ、異聞帯の私が見た幻想」

2019-07-31 12:26:31
くるーる @couleur2525

記憶を辿る。この夢の中で築き上げた幻のものではなく、正しい現実の記憶を。 あの日、あの時、あのロシアで、私が汎人類史のマスターに敗れた後。 この人は、私ではない私を召喚した。

2019-07-31 12:26:32
くるーる @couleur2525

カルデア側に召喚された汎人類史のアナスタシアは、この人と絆を育んだ。それは、この人と彼女の夢を繋げることが出来るほどだった。 そこに、この私が紛れ込んだのだ。2人が縁を繋いだきっかけである、異聞帯の私が。

2019-07-31 12:26:32
くるーる @couleur2525

消滅したはずの私が、どうしてあの私の中に紛れ、夢を見せるまでに力を持ったのかはわからない。 けれど、私は確かに夢見ていた。 私のマスターがこの私と共に、正しく世界を救う夢を、あの時、彼の腕の中で夢見たのだ。

2019-07-31 12:26:32
くるーる @couleur2525

「……あなたには、ひどい茶番だったでしょう。他でもないこの私が、このカルデアで、こんな夢を見るなんて」 壁に残された銃弾の跡を、指でなぞる。 この惨劇を引き起こし、この人からこの場所を奪ったのは、他でもない。私と私のマスター、そしてAチームと呼んでいたクリプター達だ。

2019-07-31 12:26:33
くるーる @couleur2525

そんな彼らが、私が、この汎人類史のマスターが一人で行った偉業をなぞる夢なんて、本人にしてみたらたまったものではないだろう。 なんて愚かで、哀れで、都合のいい夢なんだ、と。

2019-07-31 12:26:33
くるーる @couleur2525

けれど、汎人類史のマスターは首を横に振る。涙を湛えた瞳で、何度も声を詰まらせて、何かを言葉にしようとする。 「アナスタシア。この夢は、初めは確かに、君の夢だったかもしれないけれど……っ!」 それでも、と、その人は告げる。 それでも、これほど長くこの夢が続いたのは────

2019-07-31 12:26:33
くるーる @couleur2525

「──ダメよ、汎人類史のマスター。それを口にしてはダメ」 冷えた人差し指で、その人の口を塞ぐ。その冷たさに、その人が驚いて仰け反った。そのせいで発されることのなかった言葉を、私が引き継ぐ。 「この夢のような世界を望んでいた、なんて、あなたが言ってはならないわ」

2019-07-31 12:26:33
くるーる @couleur2525

彼の影が揺れる。そこに潜んだ気配が発する殺気を感じながら、私は笑う。 きっと今の私の笑みをみたら、マスターは「その時の君はろくなことを考えていない」と警戒するのだろうな、なんて夢想しながら。 彼にそう言ってもらえる機会は、もう二度と来ないのだけれど。

2019-07-31 12:26:34
くるーる @couleur2525

「────あぁ、ひどい悪夢だった!」 高らかに、歌うように、そう告げる。 汎人類史のマスターが、その目を溢れそうなほどに見開くのが見えた。

2019-07-31 12:26:34
くるーる @couleur2525

あぁ、そうだ。これは紛れもなく悪夢だった。 彼が正しき世界を救う夢、あと少しで、彼が望んだ救世主になれた夢。 ──それ故に、彼が私の治めるロシアを夢見ない夢。 「こんな悪夢は、早く終わらせてしまいましょう。そして、あなたはあなたのすべきことをするの、汎人類史のマスター」

2019-07-31 23:21:41
くるーる @couleur2525

その人は、視線を泳がせ、私に答えるための言葉を探している。多分、私の言葉の真意を図りかねているのだろう。本音か、はたまた強がりか。 そんなの、汎人類史のマスターにわかるはずがない。 だって、私にさえわからないのだから!

2019-07-31 23:21:42
くるーる @couleur2525

続く沈黙に耐えかねたのは、私でも、汎人類史のマスターでもなかった。 その人の後ろで、影が揺れる。それと同時、またどこかで氷の割れる音がした。 夢の主であった私がここを夢だと認識したことで、その終わりが近づいてるのだ。

2019-07-31 23:21:42
くるーる @couleur2525

影に潜む誰かが、早くしろ、と、己のマスターを急かしているのだろう。そこでようやく、その人が口を開く。 「この夢が終われば、君はどこに行くの」

2019-07-31 23:21:42
くるーる @couleur2525

その言葉に、思わず吹き出して笑ってしまった。この期に及んで、この私の心配をするなんて! この人はどこまで善良であれば気がすむのだろう。だからこそ世界を救えたのかもしれないけれど。 くすくすと笑いだした私に、汎人類史のマスターは困惑の視線を向けた。その間にもまた影が揺れ、音がした。

2019-07-31 23:21:43