『この世界の片隅に』における、登場人物にとっての「広島」と「呉」の位置づけについて

はてなブログのTweet掲載機能がツリー形式と複合すると最悪にみづらい表記になったため、Togetterに逃げてきました。
48
tricken(Tw以外の居場所は固定参照) @tricken

そう考えると、『この世界の片隅に』というタイトルの、「片隅」部分は、まずすずさんが異界感を感じるどこかを指すと同時に、周作や水原や径子がそれぞれ孤独に抱える、異界感のある試練の場所のことを示唆しているのかもしれない。

2019-08-04 03:39:56
tricken(Tw以外の居場所は固定参照) @tricken

すずさんは「この世界の片隅に、うちを見つけてくれて」と最後に言うけれども、実はすずさんも、周作や水原や径子が苦しんでいた「片隅=各々の孤独な異界」を見つけ出し、許し合っていたのではないか。(そしてそれは原作にあり、12月に追加されるであろうりんの物語においても顕著に再現される?)

2019-08-04 03:42:06
tricken(Tw以外の居場所は固定参照) @tricken

自分は水原・すずのあのシーンや、径子・すずのあのシーンの、プロット上の複雑さに形容しがたい感動をずっと感じ続けていたのだけれど、すずさんの広島/呉の区分についての理解に、第三者の異界観が挿入された時に一段複雑になる、その世界観の思いがけぬ衝突の瞬間に感動していたのかもしれない。

2019-08-04 03:45:51

iv. ぼーっとしとる=ふつうでおること、あるいは「右手の論理」の摩耗と再生

tricken(Tw以外の居場所は固定参照) @tricken

そして、すずさんと周作/径子/水原/りんの明確な違いは、拠点と異界の二区分のうち異界側と戦う際に、「右手」の論理を援用すること。他の人はそうした論理なしで、ベタな現実としてぶつかり合い、消耗を続けている。その「右手」の特性が、すずさんの「片隅」が物語の中軸に据えられる理由になってる

2019-08-04 03:50:59
tricken(Tw以外の居場所は固定参照) @tricken

すずさんは、後半のクライマックス直前で、それまで周作/水原/径子がそうであるように、ナマの現実として呉を生き始めてしまう。それは「右手の論理」が機能しなくなっていったから。あの瞬間だけ、『この世界の片隅に』の戦争観は、平凡な戦時下市民の言説に近づいてしまう。あれは作劇上の必然。

2019-08-04 03:59:21

【細かい話】

  • 正確を期するため補足すると、戦時下をファンタジー抜きで生き始めてしまうすずさんは、ベタな現実を生き始めているわけではない。当時流布していた戦争のイデオロギーを新たな生き方として受け止めている。
  • 言説分析的な言い回しを使うと、(正規の届け出を抜きにして敵国の紙を便所紙にするというような逞しさは地続きのようでもあるけれども、基本的には)「自分のディスコース」から「他人のディスコース」に乗り換えた、と見られる。
  • すずは「右手の論理」を喪った途端に、他人のディスコースに人一倍絡め取られやすい素直さを持っていたとも言える。
  • 玉音放送での他の人のあっさりとした身の切り替わりをなぜすずだけができていなかったのか、という物語の核心と思われる箇所について正確な解釈を施し切るのは難しいが、この作品が「戦争のイデオロギー」に対して「右手の論理」を、defensive にぶつけているような側面があったことから、うまく説明できないかとは思っている。
tricken(Tw以外の居場所は固定参照) @tricken

「ぼーっとしとるけえ」は、卑下しているという風にも取れる(し、実際、そういう面もある)が、すずさんだけが、「右手の論理」を通じて、異界としての呉で暮らすことを可能にしていた。そのような芸術的保護膜が、戦時下の呉を、他者のように「狂気に満ちた現実」としては生きさせないようにした。

2019-08-04 04:01:44
tricken(Tw以外の居場所は固定参照) @tricken

劇場版の最後では、「右手」の論理はアニメーションの力を借りて、再度動き出す。「戦時下のような狂気に満ちた現実を、個々人がベタに現実として受け止めてみせることだけが、幸福を見出す唯一の道ではない」というような解釈も可能である。

2019-08-04 04:04:19
tricken(Tw以外の居場所は固定参照) @tricken

狂気と隣接せざるを得ない状況下において、リアルの暴力とはなにか、ファンタジーのはたらきとは何か、私達はどこにいると知覚することでやってゆけるのか、というようなことについての、繊細な目配せが、主要人物の「片隅」理解の重ね合わせを通じて、示唆されている。あの作品はそういう映画である。

2019-08-04 04:06:22