ヨロシサン・エクスプレス #4

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(これまでのあらすじ)ヨロシンカンセンはロッキー山脈を貫き、東の果てニューヨークを目指すカチグミ観光列車だ。バンクーバーを出発したヨロシンカンセンに何とか乗り込んだマスラダ一行は、そこで奇妙なアトモスフィアを持つ少女、ヤモト・コキと同室になる。彼女はニンジャであった。

2019-10-16 21:40:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ぎこちないながらも打ち解け始めた彼らであったが、夜が明けると、SS客室でニンジャが死んでいた。ニンジャはヨロシサン・インターナショナルの社員であった。これがきっかけで乗務員に詳しく身元を調べられれば、密航者であるマスラダ達には別の意味で危機が及ぶ。ヒヤリ・ハット!

2019-10-16 21:42:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここでコトブキは咄嗟の解決策を編み出す。乗務員達に自ら事件解決役を買って出る事で、うやむやにしてしまおうという作戦だ。同行者であるチカハ社のニンジャサラリマン・サガサマを探偵役に時間を稼ぎ、その間にマスラダがニンジャ第六感も用いて犯人を探す。これで行くことになったが……。

2019-10-16 21:45:45
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『お客様トラブルが発生したため、当ヨロシンカンセンはウォータートン・レイク付近で予定外の停車を行います。問題は一切ありません。音楽や食事等ご自由にお楽しみください。オタノシミドスエ!』美しいメロディとマイコ音声がスピーカーから流れ、ヨロシンカンセンは徐々に速度を落としていった。1

2019-10-16 21:54:15
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S食堂車に隣接するSS客室車両では、ヨロシサン車掌たちとの事項確認を済ませたサガサマとコトブキが入室し、今まさに検証に入ろうとしていた。「皆さん、ウカツにモノに触れないようにお願いします」コトブキは車掌に言い、虫眼鏡を手にして、用心深く床のカーペットを確かめ始めた。 2

2019-10-16 21:58:07
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「……虫眼鏡?」サガサマが見咎めた。「いいえ」コトブキは虫眼鏡を懐にしまい、オイランドロイドの瞳孔を駆動させて、微細な確認を始めた。サガサマは咳払いした。「あらためていきましょう。いやはや……」「大丈夫なんだろうね」車掌は念を押した。「我々は責任は取れませんからね?いいね?」 3

2019-10-16 22:00:33
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「弊社チカハ社はサイバネティクスのリーディングカンパニーですが……」サガサマは革手袋を装着しながら答える。「同時に、内偵調査ですとか、労働争議解決の為の実力行使ですとか、そういった問題解決のサービスも提供しております。社の創業時はそちらがメインでして……現在も、脈々と」 4

2019-10-16 22:04:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんですって?」「そして私はニンジャですから。ははは……お任せを」会話を打ち切るように、サガサマは床の死体に屈み込んだ。キュイイイ。彼の目の奥からも、コトブキのそれに似た微細駆動音が聴こえた。車掌は気づかなかったが、コトブキは、やはり、という顔をした。感じていたのだ。 5

2019-10-16 22:08:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「亡くなっているのは非ニンジャの方ですね。惨たらしいものだ……」サガサマは心を痛める。死体の頭は花瓶めいて砕け、床に血と脳漿の染みができている。彼は革手袋で死体の上着に触れていき、やがて金属製の社員バッヂを見つけ出した。「ジム・テイラー=サン。正規ヨロシ社員……」 6

2019-10-16 22:13:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

尋ねるように車掌を振り返った。車掌は首を振った。「し、知りませんよ。私はね、本当に、責任を持って安全に乗客を目的地までお連れする……車掌ですよ!ヨロシサンはメガコーポなんだ。彼らの任務まで知るものですか」「ニンジャの方は……コトブキ=サン?どうですか?」「はい」 7

2019-10-16 22:16:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

少し離れた地点の爆発四散痕にしゃがみ込んでいたコトブキが、金属片を差し出した。「さすがです」サガサマは受け取る。やはり社員プレート。スリケンマーク付き。ニンジャ社員用である。「ケリグマケラ=サン……失礼ながら弊社のニンジャ・データベースで検索をば……」こめかみを押さえる。 8

2019-10-16 22:19:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(どうですか?)コトブキが車掌を見ながらサガサマに囁いた。サガサマは弱々しく笑った。(この調子で、少し時間を稼ぎましょう……)(でも、サガサマ=サンは慣れているように見えます。このまま解決しちゃっても、いいんですよ)(買いかぶらないように。私はスター社員ではない。しがないです)9

2019-10-16 22:22:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャを殺したという事は、十中八九、ニンジャの仕業です」コトブキは車掌に言った。「……」車掌は瞬きし、それから首を振った。「そ……それくらいは私でもわかります!バカにしないでください。あなた方も潔白と証明されたわけでは……」「シーッ!」コトブキはクローゼットを開いた。 10

2019-10-16 22:25:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

モスグリーンのヨロシ外套が二着。ケリグマケラとジム・テイラーの揃いの上着だ。社内役職は同等であった可能性が高い。ジムはUNIXサポート等をしていたのかもしれない。「ケリグマケラ=サンはエージェント職。やはり、何らかの特殊ミッションに従事なさっていたようです。今回も」と、サガサマ。11

2019-10-16 22:28:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「詳細はわかりません」車掌は繰り返した。「ただ、厳重に守られた客室を提供したのです。要請されてね。言っておきますが、コンプライアンス上も問題無い手続きです。ノースキャンダルだ」「わかっています。私も犯人を見つけたい一心ですから」「これを」コトブキがアタッシェケースを持ってきた。12

2019-10-16 22:31:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ケース……。厳重なものですね。ロックの方式が……ンン……これは生体キーだ」サガサマが試すと、ケースは開いた。「既に開錠済。では殺された際に、犯人が……。だが、中身は……」中身は無事だった。緩衝材とシルクに包まれ、何らかのアイテムが収まっている。 13

2019-10-16 22:36:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よろしいですね」サガサマは車掌を見た。「貴方の責任でやってください」「わかりました」サガサマは包みをあらためた。……年代物のゴブレットである。「ムム」「チュートン騎士団です!」コトブキが興奮した。「歴史書で読んだことがあります。中世の盃ですね!」「骨董品ですか」「貴重です」14

2019-10-16 22:38:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「盗人の類い……ニンジャを実力行使で殺すような……」「ケースがまだあります」コトブキが新たなアタッシェケースを持ってきた。今度のケースは施錠されている。サガサマは無惨な死体にオジギし、手を取って、生体認証キーに押し当てた。解錠。「これは……ナイフ」「エジプトっぽいですね」 15

2019-10-16 22:40:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

白蛇めいた意匠の古代ナイフだ。「またしても骨董品ですね」「3つめをどうぞ」コトブキが次のケースを渡す。流れ作業めいて死体の指を押し当てて解錠。「……これは」「すごい!」コトブキが興奮した。「ダイヤモンドです!とても大きいです。そして赤い!」「これはまた大したものだな。困ったな」16

2019-10-16 22:43:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「次のケースをどうぞ」「ええっ?なんということだ。大荷物の運搬ですよ。それも、ニンジャを使って」「貴重な品ばかりですからね。どんどんいきましょう」 解錠。「……これは……!」二人は息を呑んだ。化石である。「アンモナイトの……化石……!」 17

2019-10-16 22:44:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「共通点は、無いようで、あります」サガサマは息を吐いた。「どれも歴史的で、驚嘆すべき品々。間違いなく博物館所蔵の品です。ヨロシサンは知的イメージを高める為に文化事業に力を入れています。空襲からこれらの特に価値ある品を逃したか……」「最後のケースです」コトブキが差し出した。 18

2019-10-16 22:48:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サガサマに渡そうとした時、ケースはガタンと音を立てて開いた。錠が明確に破壊されているのだ!そして中身は、空!「アッ!」「盗まれて……いや、待ってください」サガサマは中腰になり、注意深く室内を見渡す。寝台の下に腹ばいになる!「……あった!転がって、ここだ!」手探りで、引き寄せる!19

2019-10-16 22:51:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サガサマが取り出したのは、奇妙な、掌サイズの茶壺であった。焦げ茶の宇宙的なグラデーションには、ただならぬアトモスフィアがあった。サガサマは奇妙な罪悪感すら抱いた。このような品を床から引きずり出して……!「これは、一体……?」「年代物ですね……日本のものではないですか?」 20

2019-10-16 22:53:39