「出藍」の秘訣

「教える」ことは、自分の劣化コピーを作る行為。それでは、師匠を超える弟子を育てる「出藍」はかなわない。自分を超える子どもを育てる秘訣は、「驚く」ことにある。
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shinshinohara @ShinShinohara

塾を主宰していた頃、ずっと頭を悩ましてきたひとつの問いがあった。「自分よりも優れた人間を育てることはできるのか?」 教えるという行為は、自分の知識を子どもたちに伝えること。しかしこれでは、コピーを繰り返すと画像が劣化していくように、自分より劣化したコピーを作るだけではないか、と。

2019-11-12 22:09:22
shinshinohara @ShinShinohara

事実、教えることは、自分が知識として持っている分しかできない。しかも、教えてもうまく理解してくれるとは限らない。勘違いしたり、間違って記憶したりする恐れが常にある。自分よりも劣化したコピーを作るだけなら、教育というのは虚しいな、と思った。

2019-11-12 22:11:47
shinshinohara @ShinShinohara

「出藍」という言葉がある。青という色素は藍から作り出すのに、藍よりも青い、それと同じように、弟子が師匠を超えて優れた人間になることを指す。もし、教育が劣化コピーを作るだけの行為に過ぎないのだとしたら、出藍は「天才に師匠が偶然出会っただけ」なのだろうか。教育は無力なのだろうか。

2019-11-12 22:14:07
shinshinohara @ShinShinohara

天才の弟子に偶然出会うことだけが「出藍」なのはいかにも寂しい。たとえ凡才であっても、秀才、天才を育てることはできないか。そんな方法はないか。「出藍」の確率を上げる方法論はないものか。「トンビがタカを産む」を偶然に終わらせない方法はないのか。

2019-11-12 22:15:53
shinshinohara @ShinShinohara

いろんな教育書を読み漁ったが、凡才が秀才や天才を育てる方法というのは、いまひとつ見つからなかった。いいな、と思うものは「これは教育者が偉いな。これだけ偉ければ、弟子もそこそこ育つわな」という感想がほとんど。天才の下に小天才が育つ感じ。出藍とはどうも違う。

2019-11-12 22:18:13
shinshinohara @ShinShinohara

そんな中、父が「面白いよ」と見せてくれた本に衝撃を受けた。それこそ、レイチェル・カーソンが著した、「センス・オブ・ワンダー」。教育書として書かれたものではない。むしろ、写真集として編まれたものだろう。文章はごくわずかしか書かれていない。 jbpress.ismedia.jp/articles/-/582…

2019-11-12 22:20:37
shinshinohara @ShinShinohara

カーソンは、甥のロジャーを連れて、夜の海辺に近づき、大きな波が崖にぶつかる轟を全身で感じ取る。雨の森に探検に行き、露に輝くコケを「リスさんのクリスマスツリー」と呼んで、じっと見つめる。夜、家の窓から煌々と輝く月を眺める。そんなシーンが続く。

2019-11-12 22:22:34
shinshinohara @ShinShinohara

その後、カーソンは私にとって、衝撃的な発言をする。生き物の名前を覚えることは重要ではない、と。何よりも大切なこと、それは、自然や生命の不思議さ、神秘さに目を瞠(みは)り、驚く感性を育むことだ、と。 私はこのくだりで、学ぶことの意味、「出藍」の秘訣を読み取ることがようやくできた。

2019-11-12 22:24:36
shinshinohara @ShinShinohara

ある年の夏、和歌山の海に遊びにいくと、これから帰るという子供連れの家族がいた。「ここはとても星がきれいですよ。夜空を眺めてから帰ってはいかがですか」とお勧めし、一緒に星空を眺めることに。

2019-11-12 22:26:13
shinshinohara @ShinShinohara

「曇っていて星が見えませんねえ」なに言ってるんですか、あれは天の川、全部星ですよ、と言うと、「ええ!これ、雲じゃないんですか!星!」驚く両親。どうやら大変なものを自分は目撃しているらしい、と、星空をマジマジと見つめる子ども。

2019-11-12 22:28:00
shinshinohara @ShinShinohara

ほら、動かない星の中で、ほんの少し動いている星があるでしょ、あれ、人工衛星。私たちは今、夜だけれど、人工衛星の高さだとまだ太陽の光が当たるから、輝いて見えるんですね。「え!あれが人工衛星!あそこ、太陽の光が届いているんですか!へええ!」もう大変なものを見ていると興奮気味の子ども。

2019-11-12 22:31:15
shinshinohara @ShinShinohara

「あ!流れ星!あっ、また!すごく流れ星が!」流れ星って、宇宙のゴミが地球に落ちてきて、空気とこすれてその摩擦熱で燃えて、輝くそうですよ。「え!流れ星ってゴミなんですか!へええ!」壮大な宇宙を目の前にしているのだ、と、なんだか荘厳な気持ちになっている子ども。

2019-11-12 22:33:22
shinshinohara @ShinShinohara

結局その親子は、私たちが翌日帰ることにしても、「もう一晩、星を眺めて帰ろうと思います」と言って、海辺に残った。 ここで大切なこと。いろいろ知識を披露した私より、子どもに重要な影響を与えたと思われるのは、両親の驚嘆、賛嘆の声だということ。

2019-11-12 22:35:16
shinshinohara @ShinShinohara

自然の不思議さ、神秘さを目の前にし、親が目を瞠り、感嘆の声を上げること。すると、子どもは「どうやらとんでもないものを目にしているらしい」とうれしくなる。興味関心を強烈に持つようになる。私の知識解説はまことに余計だった。驚くこと、面白がることが何より大切。

2019-11-12 22:36:38
shinshinohara @ShinShinohara

きっとその子どもは以後、宇宙に関する事柄にアンテナが敏感になることだろう。そうした本や、テレビ番組を見かけたら覗いてみたくなるだろう。知りたくなるだろう。自然の不思議さ、神秘さに目を瞠り、驚く体験があれば、自然に知りたくなる。それが学ぶ原動力だ。

2019-11-12 22:38:01
shinshinohara @ShinShinohara

つまり、教える必要はない、ということだ。カーソンは、当時有名な海洋生物学者だった。だから、海辺のどんな生き物でも名前を言い当てることができ、その生態を説明することもできた。しかし、甥のロジャーにそれをしなかった。共に、自然の神秘さ、不思議さに目を瞠り、楽しむことを大切にした。

2019-11-12 22:39:26
shinshinohara @ShinShinohara

私たち大人は、この世界の、自然の美しさ、神秘さに共に驚き、楽しめばよい。すると子どもは、自分の生きている世界がどれほど美しく、面白いものかに気がつく。面白ければ、楽しければ、自然と学びたくなる。知りたくなる。それが学ぶ意欲の源泉だったのだ。

2019-11-12 22:40:46
shinshinohara @ShinShinohara

私たちが生きているこの世界に驚嘆し、興味関心を抱けば、自然に学ぶ。自発的に学ぶなら、教える必要もなく、教える以上のことを学ぶ。あるいは、誰もまだ気づいていない事実を発見する。つまり、「出藍」が可能になる。

2019-11-12 22:42:05
shinshinohara @ShinShinohara

自然の不思議、神秘さを目の前にし、感動し、共に楽しむこと。それこそが、指導者の心がけるべきことだ、と気がついた。教えるのではなく、自発的に学ぶ意欲を取り戻すことをアシストすればよい。 取り戻す、としたのは、そもそも赤ん坊のときは備えていた力だから。

2019-11-12 22:43:39
shinshinohara @ShinShinohara

赤ん坊は、無知のまま生まれてくる。何もかもが、不思議に満ちている世界。実に興味深い世界。赤ん坊は、この世界の、自然の不思議さ、神秘さに目を瞠り、驚く感性を生まれもって備えている。そして、貪欲に「知らない」を「知る」に変えていく。

2019-11-12 22:44:51
shinshinohara @ShinShinohara

ところが、私たち大人は、子どもが言葉を操れるようになると「教えよう」とし始める。言葉が伝わるなら、もっと早くに知識を伝えられると思って。しかしこの行為は、「助長」そのもの。苗の育つのを助けようとして引っ張り、根を切った逸話そのもの。意欲の根を切ってしまう。

2019-11-12 22:46:19
shinshinohara @ShinShinohara

自然の不思議さ、神秘さに驚くことは、とても楽しいこと。なのに、大人が言葉で先んじて教えてしまう。それでは、映画のクライマックスを説明されるようなもの。推理小説の犯人をあらかじめ教えられるようなもの。実に興ざめ。こうして、子どもは興味関心を失っていく。学ぶ意欲も失う。

2019-11-12 22:47:35
shinshinohara @ShinShinohara

教えなくっていい。驚こう。共に楽しもう。幸い、教えてくれるものはたくさんある。教材はいくらでもある。私たちが指し示さなくても、子どもは勝手に見つけてきて、自分のそのときの身の丈に応じて学び取る。大人はその様子に驚いていればよい。赤ん坊が初めて立ったとき、驚き、喜んだように。

2019-11-12 22:48:55
shinshinohara @ShinShinohara

「出藍」の秘訣。それは、自然の不思議さ、神秘さに目を瞠り、驚く感性(センス・オブ・ワンダー)を育むことをアシストすること。そのために、自然の中に身をおき、一緒に自然の不思議さを楽しむこと。そして、子どもの成長に驚くこと。それができれば、その子は必ず、指導者よりも優れた何かを育む。

2019-11-12 22:50:44