昔のアニメ・特撮番組における音声素材の問題

フィルム制作時代の番組における現存音声素材の問題について備忘録も兼ねてまとめました。
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フィルム制作時代のアニメや特撮、その他ドラマなど、多くの作品において昔の放送当時よりマスターの音質が劣化するという現象が起きています。その背景の技術的解説をまとめました。

実際の音質比較

ΝΑΠΠΑ @nappasan

本放送の録画ビデオと公式DVDの音質比較 pic.twitter.com/47RbrMWsxI

2019-03-17 23:21:31

初回放送当時のビデオ録画より公式DVDの音声のほうが高音域が削れており、こもった印象であることがお分かり頂けると思います。

祥太 @shota_

90年代以前の東映動画TV作品は、「ファイナルミックスの音声シネテープが残してあるか否か」によって作品パッケージの音質の明暗がくっきり分かれています。幸いシネテープの磁気音声が保存されていたセラムンを例に音の違いを比べてみましょう。 pic.twitter.com/ox0kEybFjk

2015-12-09 21:24:55

使われている音声素材の違い

ΝΑΠΠΑ @nappasan

ご存じない方も多いと思うので技術的な背景を説明します。アナログ制作時代のアニメ作品ではまず、シネテープと呼ばれる磁気テープに完成した本篇音声を記録していました。これはかなり高音質なメディアなのですが、多くの場合後に廃棄されてしまっています。 pic.twitter.com/54SYcMbkkT

2019-03-17 23:22:30
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かつてテレビ放送に使われていても、制作会社にすら素材が残されていないことが多いのです。

ΝΑΠΠΑ @nappasan

画像で判るとおり、シネテープには映像フィルムと同様の送り穴が開けられていて、映像と容易に同期再生できるようになっています。しかしフィルムと同サイズであるがゆえ保管スペースを逼迫しますし、あくまで中間生成物であるという認識が根強かったため、積極的な保存対象にはなりませんでした。

2019-03-17 23:25:43
ΝΑΠΠΑ @nappasan

当時はここから更に映像フィルムの脇のサウンドトラックに記録することで「完成品」であると捉える風潮があり、こちらの方が扱いも容易で再生環境も普及していましたから、フィルム側の音声だけを残せばいいとされていたわけです。 pic.twitter.com/DgyKHfX2wD

2019-03-17 23:31:54
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ΝΑΠΠΑ @nappasan

ここで問題なのが音質で、フィルムのサウンドトラックで主に採用されたのは「光学録音」と呼ばれる方式です。光学録音は音声信号の大小を波形画像(古くは色の濃淡)として記録し、再生時には光を当てて通り抜ける光の量の増減を電気信号に変換します。そしてこの方式、かなり音質が悪いのです。 pic.twitter.com/AfEUGLsZKX

2019-03-17 23:37:19
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ΝΑΠΠΑ @nappasan

元々が1920年代に規格策定された技術ですから、開発当時の基準では画期的で高音質だったとしても、とっくに枯れている古臭いものでした。音域もS/N比も歪みも磁気記録方式には遠く及ばない品質です。しかし映像と共に記録されたサウンドトラックに落とし込んでこそ完成、という風潮は長く続きました。

2019-03-17 23:44:00
ΝΑΠΠΑ @nappasan

ですからたとえ素人目(素人耳?)にも明らかにシネテープの方が高音質だったとしても、完成原盤としては光学サウンドトラックの方が優先されてしまったわけです。特に東映はこの方針を業界内でも際立って長く続けていたため、作品によっては'90年代中頃までシネテープが残されていない例があります。

2019-03-17 23:47:49
T.K_archive @Tetsuya_Kuroki

@ginzame_x 国際放映は他社よりもシネテープの保存率が高く、45年近く前の全国同時ネットで使った磁気録音の音声を聴けるのは『ワイルド7』ぐらいです。東宝・東映・円谷プロなどの他社は、この時代のシネテープをほぼ廃棄状態ですよ。 pic.twitter.com/vBEd6RDVXL

2017-07-20 21:13:00
ΝΑΠΠΑ @nappasan

東映によるTV作品の大半において既にシネテープが残されていないことはタバックの社長がインタビューで明言しています。今までのDVDソフトなどで光学サウンドが用いられている作品は、ほとんどの場合シネテープが現存していないと考えていいと思われます。 stereosound.co.jp/review/article…

2019-03-17 23:52:42

たとえシネテープ素材を多く残している制作会社であっても、テープの物理的劣化や災害などから失われた作品も多々あります。国際映画社のように倒産によって素材が散逸し残されていない例も見受けられます。

また一部の作品においては、シネテープが現存するにも関わらず、それにソフト制作側が気付かず光学音声素材でリリースされてしまう杜撰な例もあるようです↓

“本編部分の画質は確かに綺麗になっています。しかし、Amazonのサンプル動画を拝見した時から以前より音質が悪くなっているのでは?という疑念がありました。比べてみるとBD版は明らかに、旧DVD(デジタルリマスター版ではない)より音質が劣化しています。” ─ カスタマーレビュー

局や枠によっては初回放送時から低音質な場合も

ΝΑΠΠΑ @nappasan

フジテレビで放送された作品については幸いなことに本放送ではシネテープが使用されていますが、残念なことにテレビ朝日のゴールデン帯のようにフィルム納品の時代は一貫して光学サウンドトラックのままだった例もありますから、例えば聖闘士星矢の場合はもうどうしようもない状態です。 pic.twitter.com/awhnqZdO4X

2019-03-18 01:47:50
ΝΑΠΠΑ @nappasan

テレ朝系列であっても日曜朝の時間帯ではシネテープが使われていたりするので、局単位ではなく時間枠によって事情は様々です。 pic.twitter.com/Ch2BMUfGaK

2019-03-18 01:52:37

一般家庭に残された高音質素材

ΝΑΠΠΑ @nappasan

しかし先ほどの比較動画のように、テレビの初回放送ではシネテープの音声を同期再生させていた例が多々ありました。ですから、それを当時録画したビデオテープ、あるいはヘッドホン端子経由で録音したオーディオテープにはシネテープの高音質な音声が残されているわけです。 pic.twitter.com/hjqkhZCms8

2019-03-18 00:01:39
ΝΑΠΠΑ @nappasan

大元のテープと比べれば録画・録音は音質面で多少劣ってしまうわけですが、それでも光学録音と比べれば差は火を見るより明らかです。映像技術の進歩によって過去の作品の画質が向上する一方、原版の問題で音声面が置き去りになっている今、一般から音声を集めて活用する意義は大きいと思うのです。 pic.twitter.com/OrSz11MuZK

2019-03-18 00:19:11

テレビの録画・録音を映像と同期させる際の障壁