昔のアニメ・特撮番組における音声素材の問題

フィルム制作時代の番組における現存音声素材の問題について備忘録も兼ねてまとめました。
アニメ シネテープ 映像技術 セルフまとめ 特撮 アナログ フィルム 音声
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フィルム制作時代のアニメや特撮、その他ドラマなど、多くの作品において昔の放送当時よりマスターの音質が劣化するという現象が起きています。その背景の技術的解説をまとめました。

実際の音質比較
ナッパ教信徒 @nappasan
本放送の録画ビデオと公式DVDの音質比較 pic.twitter.com/47RbrMWsxI

初回放送当時のビデオ録画より公式DVDの音声のほうが高音域が削れており、こもった印象であることがお分かり頂けると思います。

祥太 @shota_
90年代以前の東映動画TV作品は、「ファイナルミックスの音声シネテープが残してあるか否か」によって作品パッケージの音質の明暗がくっきり分かれています。幸いシネテープの磁気音声が保存されていたセラムンを例に音の違いを比べてみましょう。 pic.twitter.com/ox0kEybFjk
使われている音声素材の違い
ナッパ教信徒 @nappasan
ご存じない方も多いと思うので技術的な背景を説明します。アナログ制作時代のアニメ作品ではまず、シネテープと呼ばれる磁気テープに完成した本篇音声を記録していました。これはかなり高音質なメディアなのですが、多くの場合後に廃棄されてしまっています。 pic.twitter.com/54SYcMbkkT
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かつてテレビ放送に使われていても、制作会社にすら素材が残されていないことが多いのです。

ナッパ教信徒 @nappasan
画像で判るとおり、シネテープには映像フィルムと同様の送り穴が開けられていて、映像と容易に同期再生できるようになっています。しかしフィルムと同サイズであるがゆえ保管スペースを逼迫しますし、あくまで中間生成物であるという認識が根強かったため、積極的な保存対象にはなりませんでした。
ナッパ教信徒 @nappasan
当時はここから更に映像フィルムの脇のサウンドトラックに記録することで「完成品」であると捉える風潮があり、こちらの方が扱いも容易で再生環境も普及していましたから、フィルム側の音声だけを残せばいいとされていたわけです。 pic.twitter.com/DgyKHfX2wD
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ナッパ教信徒 @nappasan
ここで問題なのが音質で、フィルムのサウンドトラックで主に採用されたのは「光学録音」と呼ばれる方式です。光学録音は音声信号の大小を波形画像(古くは色の濃淡)として記録し、再生時には光を当てて通り抜ける光の量の増減を電気信号に変換します。そしてこの方式、かなり音質が悪いのです。 pic.twitter.com/AfEUGLsZKX
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ナッパ教信徒 @nappasan
元々が1920年代に規格策定された技術ですから、開発当時の基準では画期的で高音質だったとしても、とっくに枯れている古臭いものでした。音域もS/N比も歪みも磁気記録方式には遠く及ばない品質です。しかし映像と共に記録されたサウンドトラックに落とし込んでこそ完成、という風潮は長く続きました。
ナッパ教信徒 @nappasan
ですからたとえ素人目(素人耳?)にも明らかにシネテープの方が高音質だったとしても、完成原盤としては光学サウンドトラックの方が優先されてしまったわけです。特に東映はこの方針を業界内でも際立って長く続けていたため、作品によっては'90年代中頃までシネテープが残されていない例があります。
黒木鉄也 @Tetsuya_Kuroki
@ginzame_x 国際放映は他社よりもシネテープの保存率が高く、45年近く前の全国同時ネットで使った磁気録音の音声を聴けるのは『ワイルド7』ぐらいです。東宝・東映・円谷プロなどの他社は、この時代のシネテープをほぼ廃棄状態ですよ。 pic.twitter.com/vBEd6RDVXL
ナッパ教信徒 @nappasan
東映によるTV作品の大半において既にシネテープが残されていないことはタバックの社長がインタビューで明言しています。今までのDVDソフトなどで光学サウンドが用いられている作品は、ほとんどの場合シネテープが現存していないと考えていいと思われます。 stereosound.co.jp/review/article…

たとえシネテープ素材を多く残している制作会社であっても、テープの物理的劣化や災害などから失われた作品も多々あります。国際映画社のように倒産によって素材が散逸し残されていない例も見受けられます。

また一部の作品においては、シネテープが現存するにも関わらず、それにソフト制作側が気付かず光学音声素材でリリースされてしまう杜撰な例もあるようです↓

“本編部分の画質は確かに綺麗になっています。しかし、Amazonのサンプル動画を拝見した時から以前より音質が悪くなっているのでは?という疑念がありました。比べてみるとBD版は明らかに、旧DVD(デジタルリマスター版ではない)より音質が劣化しています。” ─ カスタマーレビュー

局や枠によっては初回放送時から低音質な場合も
ナッパ教信徒 @nappasan
フジテレビで放送された作品については幸いなことに本放送ではシネテープが使用されていますが、残念なことにテレビ朝日のゴールデン帯のようにフィルム納品の時代は一貫して光学サウンドトラックのままだった例もありますから、例えば聖闘士星矢の場合はもうどうしようもない状態です。 pic.twitter.com/awhnqZdO4X
ナッパ教信徒 @nappasan
テレ朝系列であっても日曜朝の時間帯ではシネテープが使われていたりするので、局単位ではなく時間枠によって事情は様々です。 pic.twitter.com/Ch2BMUfGaK
一般家庭に残された高音質素材
ナッパ教信徒 @nappasan
しかし先ほどの比較動画のように、テレビの初回放送ではシネテープの音声を同期再生させていた例が多々ありました。ですから、それを当時録画したビデオテープ、あるいはヘッドホン端子経由で録音したオーディオテープにはシネテープの高音質な音声が残されているわけです。 pic.twitter.com/hjqkhZCms8
ナッパ教信徒 @nappasan
大元のテープと比べれば録画・録音は音質面で多少劣ってしまうわけですが、それでも光学録音と比べれば差は火を見るより明らかです。映像技術の進歩によって過去の作品の画質が向上する一方、原版の問題で音声面が置き去りになっている今、一般から音声を集めて活用する意義は大きいと思うのです。 pic.twitter.com/OrSz11MuZK
テレビの録画・録音を映像と同期させる際の障壁
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コメント

R.Mory@Togetter @RMoryTogetter1 2019年12月17日
相変わらずの濃さだなナッパ教信徒さん…
川田清貴 音響効果 @kksoundeffect 2019年12月18日
現実問題として音質よりは全話通して品質が保てるかと音声処理の手間かなぁ…オプチカルに焼くことで起きる劣化はそもそも折り込み済みでダビング(音声ミックス)してるけどヨレは「事故」でこれは今の技術でもかなり回復は難しい。
川田清貴 音響効果 @kksoundeffect 2019年12月18日
ファイナル(完成形態)がオプチカルになる場合は効果音は焼いて変質する都合使えない帯域を避けるので「完成はフィルム(光学トラック)です」って考え方もある。
川田清貴 音響効果 @kksoundeffect 2019年12月18日
音声の完成納品はある時期からパルス(同期信号)入りの6mmになっていたはずですけどシリーズ終わっての保存期間は分からないし、シネが残っていてももう既にシネ起しできるスタジオが国内でも限られてる状態ですね。
佐渡災炎 @sadscient 2019年12月18日
光学録音でも、高解像度スキャナで取り込んで音声波形に変換することでかなり音質を改善することが可能。低音質の原因はほぼほぼ再生側にあるので。もちろん磁気マスターの代わりにはならんのだが。
マセカワ キチヱモン☆印度映画はいいぞ @DiscoDancer_K 2019年12月18日
そういやトムス・エンタテイメント(東京ムービー)のアニメは古い作品でも音質が良いのですが、あれはシネテープ保存ですか?それともフィルム時代が高級ランクを使ってる?
ナッパ教信徒 @nappasan 2019年12月18日
DiscoDancer_K 東京ムービーは古い作品でもシネテープをよく残していますね。ルパン2作目やあしたのジョー2のように他社に先駆けてステレオ音声で制作・放送したり、音響に力を入れている印象があります。なお非常に古い作品だと撮影時のフィルムが大型の35mmである場合があるので、それだと走行速度の関係で光学音声でも高域まで音が出て比較的マシな音質になります。しかしシネテープよりは明確に劣ります。
ナッパ教信徒 @nappasan 2019年12月18日
kksoundeffect プロの方のご意見ありがとうございます。 ヨレについては確かに想定していない「事故」であるわけなので、商品品質上の問題になってしまいますね。ただそれがどれだけ起きているかというと、例えば全291話のドラゴンボールZで今のところ確認できているのは3箇所だけです。さほど大きな問題とは言えないと思います。また、個人的にデジタル処理で修復を試みたことがありますが、ほぼ違和感が無い程度には治せました。まとめ内にもあるとおり台詞が無ければMEの継ぎ接ぎでも解決可能です。
ナッパ教信徒 @nappasan 2019年12月19日
kksoundeffect 「完成原版」という考えについてもまとめ内で触れましたが、ならばなぜテレビ局にはシネで納品して放送していたのか?という話もなります。中間素材に過ぎないのであれば放送で使うべきではないわけですから。一度完パケとして納品され使われている実績があるというのは、それはもう完成原版としてのひとつの形であると思うんですよね。あと映画で同じことを言い始めると、相当数の昔の作品が「完成形」でソフト化されていないという話にもなってしまいます。当然上映はオプチカルだったわけですから。
ナッパ教信徒 @nappasan 2019年12月19日
nappasan 映像のリマスターにおいても、たとえ局納品の完パケが16mmだったとしても、35mmのネガ素材まで遡ってリマスターに使うというのはよくある話です。『ウルトラQ』などが典型例ですが、これを批判して16mmの方を使えと言う人は(ごく一部のマニアを除いて)ファンにも公式側にもまずいないわけです。製作当時の最終的なアウトプットより品質を向上させうる素材が残っているならば、それを使って作品のより高品質なレストアを目指すというのが業界の一般的な流れであるように思います。
ナッパ教信徒 @nappasan 2019年12月19日
kksoundeffect ニワカなもので同期信号入り6mmというもの自体初耳です。そういうものがあったんですね。タバックに関して言えば、シネの後はDTRSを使っていたようです。
ナッパ教信徒 @nappasan 2019年12月19日
sadscient 確かに画像からのデジタル変換によって光学サウンドの音質向上は可能ですが、あくまで解像感の向上やノイズ抑制にしか効果はなく、そもそも情報として最初から含まれていない高音域を取り戻したりできるわけではありませんので、あまり劇的な音質向上は見込めません。
Hacchi @2mocccck 2019年12月19日
アニオタじゃないから他人事だけど、パッケージ版買うほど好きな作品でこの光学版の音声が再生されたらだいぶショックだな。パッケージ化された後だから死んだ子の歳を数えてるような状況になってしまってるのが何とも。
marumushi @marumushi2 2019年12月20日
アニメって劇場用作品でも上下をマスクしただけのなんちゃってビスタサイズ、音声もモノラルみたいな時代が長く続いたというし、いわゆる「ジャリ番」扱いの弊害かなとも思う。デジタル化初期のSDマスター問題みたいなほぼ解決不可能な問題もあるし
ナッパ教信徒 @nappasan 2019年12月21日
marumushi2 撮影時はスタンダードサイズで、プリントする過程や上映時に上下トリミングするタイプの制作方法(英語で open matte)は昔は実写作品でも割とよくあったものです。アニメの場合確かにその方が安上がりなので採用されたという側面が強いですが。音声についても邦画は実写含めモノラル時代が長かったので正直なんとも言えないところです。
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