エディプスちゃんの『月極探訪異聞』

「立ち飲み屋でビールと~」から始まる無題、「銀蛾タバコのお店」「お店の痕跡」「銀の通路」「時のはざま」「ムーン・ポール」そしてゲストの晴れ時々雨さんの「鰻屋」、るつぺる(ガラルのなまえ)さんの無題を含む。
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エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

だれか『月極探訪異聞』という物語を書いてくれないか。まぼろしのお店《月極》にいったという人たちの証言を集めたていのフィクション🌙🌃

2019-12-17 22:06:10
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

君も《月極》のことは知っているだろう。きっと看板を見かけたことくらいある筈だ。けれど、じっさいお店に行ったことはあるかい?ほら、ないだろう?行く先先に看板はあるのに、その正体を見つけられた人は殆どいないんだよ。でも運よく辿りつく人がいる。僕はね、その人たちの証言を蒐めているんだ。

2019-12-19 18:27:18
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

立ち飲み屋でビールと日本酒をやったあとでしたから、すこし酔ってましたがね。ええ、冬の、雨上がりでしたから夜はよく冷えこんでね、吐く息が白かったですよ。はあ、酒くさい息でも白くなるんやなあ、と愉快な気分で歩いてたら、あの赤提灯ですわ。ええ、確かに《月極》と書いてありました。#月極

2019-12-17 22:30:27

鰻屋

晴れ時々雨 @rio11ruiagent

月極ね知ってます。いつもの通りをひょいと見てこんな所に気づかなかったといい感じの暖簾をくぐるとふわーって山椒が香ってきてね。何屋か知らなかったがこりゃあ鰻だななんて思ったわけです。最高でしたね。たぶん鰻。目覚めると家だったんですが夢じゃない。なんせ口の周りにタレがついてましたから twitter.com/Not_Tonight_Oe…

2019-12-18 01:24:12

「銀蛾タバコのお店」

エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

その夜は、老舗のイタリアンで彼女とデートでした。ちょうど馴染みの店員と話ながらワインを選んでいたときでしたか、彼女が徐ろにタバコを咥えたのです。普段、タバコなんて喫う女性ではありません。吃驚していると、店員が懐からマッチをだして火を点すじゃないですか。それで、また吃驚して。…

2019-12-18 07:43:25
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

…「どうしたの?」「どうしたのって?」「それ?」「これ?」「ああ、銀蛾タバコだけれど」彼女はじつに旨そうにタバコを喫み、天井にむけて煙を吐きました。その煙というのが妙に白っぽくて、シャンデリアのようにきらきらしているのです。「どうしてタバコなんか」とわたしが云うと、…

2019-12-18 07:48:29
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

…「どうしてって。あなた、ここはゲッキョクよ?」と彼女は不思議そうに答えたのです。ゲッキョク?周囲を見回すと、どのテーブルの客たちも同じタバコを吸い、同じ銀いろの煙を吐いていました。店内はタバコのためにうっすら靄がかかり、まだ夏のさかりでしたが、雪化粧のように光っているのです。…

2019-12-18 07:54:06
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

…「ほら、あなたも」と彼女から手渡されたタバコの箱には翅をひろげた一ぴきの蛾のマークが描かれていました。それが銀蛾というやつで、銀蛾タバコはその鱗粉を巻いたタバコらしいのです。そんなもの聞いたこともありません。すーッと、また彼女がきらきらする煙を天井に吐きました。…

2019-12-18 08:01:07
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

…私は恐ろしくなりました。目の前でタバコをふかしているのは、彼女とは別人だと気づいたのです。ふいにメニュー表の店名が目につきました。驚くことに、お店もまた私のよく知っているリストランテではないのです。そこには確かに《GEKKYOKU》と書いてありました。#月極

2019-12-18 08:16:42
名もなきプラチナ帯 @pefnk

ひと気が減り野良が横切れば貸し切りの空閑は一雫の淡い期待を目一杯まで溜めて幸福の㎖となり及ばせた感嘆する。ボロボロに酔えば後はどうでもよいという気になりそうなのをどうにか繋ぎとめようと抗ってみる。何事にも終わりは付き纏いぬけ殻となって這うている日々にまた戻っていく。#月極探訪異聞 twitter.com/not_tonight_oe…

2019-12-18 11:53:24

「お店の痕跡」

エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

「ここだな」「……ここって。空き地じゃないですか、先輩」スーツ姿のふたりは刑事のようだ。《売 地》という看板のたった雑草だらけの土地だった。先輩と呼ばれた男が、ロープを跨いで夏の草むらに入っていく。「見つけた」そう云ってなにかを拾いあげる。「先輩、それって。うわ、鳥の死骸?」…

2019-12-18 14:28:51
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

…「よく見てみろ」先輩がその鳥のようなものを無造作に投げて渡す。「うわ!」後輩がキャッチするとずっしりと重い、それはゼンマイの付いた真鍮製の鳥なのだった。「何んです、これ?」「ここにゲッキョクがあった証拠さ。覚えてないか、昨日までこの空き地にあった店のことを」「ゲッキョク?」…

2019-12-18 14:39:38
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

…やはり記憶がないか。と、先輩の刑事は思う。「なんでもない。じきにわかるさ」後輩のほうは真鍮の鳥を不思議そうに調べている。雲雀のようだ。じつに精巧に出来ている。ゼンマイを巻くと、機械じかけの鳥は羽をひろげて羽搏いた。「おい、行くぞ」「あ、ちょっと待ってくださいよ。先輩!」#月極

2019-12-18 14:58:08

「鏡の通路」

エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

外観はなんの変哲もない美容院だった。「お客さん、当店は初めてですね。さて今日はどうしましょう?」担当の美容師は長髪のサーファーみたいな男だった。「……"普段とはちがうカラーをお願いしたいのですが"」「なるほど、何かイメージはありますか?」「"ブルームーンの夜のビーチみたいな"」…

2019-12-18 22:34:42
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

…「ごめんなさいね、お客さん。青系統の色を切らしちゃってて」肌が浅黒いぶん歯が白くみえた。「"では、胎児のみる夢のような"」男がにやりと笑う。「……《月極》へようこそ。ところで、この店のことは誰から?」油断してはいけない。合言葉はまだ終わっていないのだ。「"偶然に。風のうわさで"」…

2019-12-18 22:45:33
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

…「ははは。本物のお客さんは久しぶりですよ! いやあ、間違いがなくてよかった。人がひとり消えてしまうってのは大変なことですからね!」と、男は物騒なことを云いながら。「どうぞ、こちらです」向き合った鏡面に私のすがたが映っていなかった。いつの間にか、鏡ではなく通路になっていた。#月極

2019-12-18 22:53:31

「時のはざま」

エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

やっとみつけた。黄昏れの、それも雨上がりの虹が架かっているときでないと辿りつくことはできない。まさしく今がそのとき、茜の夕空に、炎えるような虹の片足が立つ。純喫茶《月極》。ドア・ベルを鳴らし入店すると珈琲のいい匂い。いらっしゃいませ。お店の内装も、白髪のマスターもあの日のまま。…

2019-12-19 14:53:33
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

…テーブルにつき月極ブレンドを注文する。「マスター、わたくしのこと覚えてらっしゃいます?」はて。と、マスターは眼鏡の奥で目を細め「おかしいな。貴女のようなお美しい方を忘れる筈はないんですが、レディ」と云い笑った。昔からこういう人だった。「レディだなんて、もう七〇になるんですよ」…

2019-12-19 15:38:29
エディプスちゃん @Not_Tonight_Oed

…おかしいな。マスターはもう一度そう云って考えこんだ。湯気がたち、新鮮な珈琲豆がふくらむ。「誰かに似ている気がするんですが。うーん、誰だったか。……そうか、ぼくの娘の顔によく似ている」懐かしそうな、すこし寂しそうな表情をして「失礼、ばかなことを云いましたね。忘れてください」…

2019-12-19 17:53:25