エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~7世代目・その5~
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キージャのイラストを描いていただきました!
グラマラススパイディ!!
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前回の話
以下本編
◆◆◆◆ 無限に広がる大宇宙。 かつて地球という惑星の表面にだけ暮らしていた人類ははるか星々の彼方へと漕ぎ出し、別の惑星や衛星、小惑星帯はもちろん、恒星と恒星のあいだに広がる深宇宙にも人工の天体を築き、繁栄を極めていた。
2019-12-21 15:49:47だが生活圏が広がるにつれ、種としての人類はそれぞれの環境に適応してますます変化していき、もはや先祖と似ても似つかない姿形や心理を持つようになる。離れ離れになった人類同士の意思の疎通が困難になり、つながりが断たれるのを恐れた地球を始めとする有力勢力は、人類の規格を定め逸脱を禁じた。
2019-12-21 15:52:32すなわち “協約” 協約を守る勢力のまとまりは、人類を指導し、異端を厳しく処罰した。 "連邦" と言う政体のもとに。 だが連邦は、やがて地球由来ならざる知性種族とも遭遇し、資源や航路を巡って対立、抗争にいたり、味方である人類の進化にかけた制限を見直さざるを得なくなってゆく。
2019-12-21 15:55:51仕切り直そう。 これはエルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系のウハウハドスケベご都合ファンタジー。 今は七代目キージャの話。黒の繰り手。絶世の美女と紛う美丈夫。曲線を帯びた長身は砂時計型で、円かな尻にたわわな乳房、広いがなだらかな肩、尖った顎、やや低いが明らかに男のものでない声の主。
2019-12-21 16:01:31キージャは先祖から伝わる女奴隷に美しい衣を着せたいと切に願い、服飾の貧しい故郷、影の国を飛び出し、ついに理想を追って異世界へ飛び出した。 妖精の靴屋や、気難し屋の仕立屋、木でできた化粧(けわい)師のいる土地や、石油から合繊を作る魔法にたけた海狸(ビーバー)の王子のいる土地を巡り、
2019-12-21 16:04:13それぞれの奥義を学んだ。 いずれもごく短い間の修行だが、師から免許皆伝の保証を得ている。 しかし海狸の王子を助けて異世界の悪霊と戦った際、悪霊に憑依された民を解き放つため、強大な魔法を使ったキージャは反動で意識を失い、またしても別の土地へ漂流し、暗黒の海をさまよっていた。
2019-12-21 16:07:19暗黒の海は、海とはいっても実態は虚無そのもの。 喉を潤す水も、よって立てる大地も、身を温める陽射しも、息をするための大気もない。人間ならばすぐさま死にいたる不毛の場所だ。 ただ幸いにしてキージャは影の国の世継ぎであり、母方は代々妖精と精霊の混血。よって六十四分の一だけ人間。
2019-12-21 16:11:54しかも故郷からついてきた召使、小さな銀の蜘蛛がいた。 主人の血をわずかに啜るだけで永らえる強靭な使い魔で、周囲の真空に気づくや、不断の銀糸をつむぎ、頑丈な繭を作り上げた。
2019-12-21 16:14:47繭はキージャをすっぽりとおおい、昏睡を保ったまま暗黒の海にたゆたわせた。銀に煌めく糸の壁は、いかなる有害な光の箭(や)も微小な小石の粒も防ぎ、乾きも冷えも阻んだ。
2019-12-21 16:17:50さらに吸い込んだ僅かな光を蓄えてから、一定の波の長さでまた外へ送り出す。 暗黒の海を往く船が気づくように。 とりわけ星と星にまたがる帝国を築いた偉大な蜘蛛の一族の目にとまるよう、助けを求める言葉として受け取れる、規則正しい明滅を繰り返していた。
2019-12-21 16:21:21ひょっとしたら千年、いや万年がかかったていかもしれない。 暗黒の海では時間は大地の上よりもずっと長い尺度で考えねばならない。 しかし実際はそう待たずに助け舟はやってきた。 だが期待していた蜘蛛の一族ではない。 船体に彗星の印を帯びた、人間の船だ。
2019-12-21 16:23:52「アカネ!君の言った通りだ!蜘蛛の救難繭だ!あのかたちからすると真女王種だ」 「先輩。私が船外活動に出ます」 「うん!任せるよ。護衛の無人機をつける」 船内では若い男女が会話している。 いや少年と少女か。驚くべきことだが大人の乗員はいないようだ。
2019-12-21 16:26:37船腹に丸い穴が開き、大きな銀の蜘蛛が一匹、暗黒の海に糸を繰りだして進み出てくる。 糸は何ものにもくっつかずまっすぐ伸び、こゆるぎもしない。糸というように極細の針金といった方がよいか。 周囲には海鷂魚(エイ)を思わせる金属とも樹脂ともつかない素材の凧のごときものが無数に飛んでいる。
2019-12-21 16:29:42蜘蛛は素早く繭に接近すると、前脚と大顎を使って器用に掴み取り、船へ運んでゆく。 煌めく巨虫の複眼の横あたりにかわいらしい絲帯(リボン)がひとつついていて、少年の声で囁く。 「アカネが一番解っているとは思うけど、真女王種の卵か幼生が中にいるなら、護衛の働き蜘蛛も潜んでいるはずだ」
2019-12-21 16:32:29「はい。気配を感じます」 繭を運ぶ銀の蜘蛛は何と少女の声で答える。 「真女王種は真空蜘蛛の一族にとっては種族の根幹。僕等を敵と見なしたら、死に物狂いで戦いを挑んでくる。気をつけて」 「大丈夫です。私を兵隊種か亜女王種の蜘蛛、仲間だと考えているみたいです」 「よかった」
2019-12-21 16:35:14銀の蜘蛛が船内に繭を回収すると小さな凧の群も退散し、即座に洗浄が始まる。 蜘蛛は個室に引っ込むと、やがて中から肌にぴったりした衣をまとう少女が出てきた。すぐ別の戸口が開き、同じ服装をした少年が手に吸い口つき容器を持って漂ってくる。 「アカネ!彗星印のメガリンゴジュースをどうぞ!」
2019-12-21 16:38:51「ありがとうございます先輩」 「今君がしてのけた偉業に比べれば何でもないさ!」 無意味に白い歯を光らせ笑う少年は、少女より背が高く、顔にはそばかすが散っている。目鼻立ちは整っているが、全体の雰囲気は、やはりぼんくらと大きな字で書いてあるようだ。
2019-12-21 16:41:08「さて、作業室で眠れる女王様を起こすとしようか!」 「あの…大丈夫でしょうか。真空蜘蛛の真女王種を起こしたりしたら」 「“協約”の条項を二百ぐらい破るけど、ここは辺境だしどうってことない。それにアカネ、君がいる!真空蜘蛛の因子を取り込み、意志の疎通ができるようになった僕の女神がね!」
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