エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~7世代目・その4~
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以下本編
◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系のウハウハドスケベご都合ファンタジー。 今は七代目キージャの話。黒の繰り手。 美しき女奴隷にふさわしい衣装を着せるべく、仕立屋の夢を追い、古の魔法が残る遺跡から異世界へ。辿り着いたのは故郷によく似たしかし色々と進んだ国だ。
2019-12-18 21:26:42何でも男爵だとか伯爵だとか貴族には難しい爵位がいっぱい。たいへん羽振りがよいらしい。やんごとなき方々の贅沢趣味を満たすため腕のよい職人もいる。 キージャがここで出会ったのは靴屋のトムまたはエルウィンデルに、仕立屋サンドーラ。いずれも抜群の腕前を誇る靴工に縫匠。
2019-12-18 21:28:29特にサンドーラは高齢ながら矍鑠とした婦人で、いかにも仕事に社交に熟(な)れたたたずまいが好ましい。 「奴隷にしたい!」 などと初対面でつい礼儀を忘れた妄言を口走ってしまたから大変。 弟子入りどころではなく門前払いを喰らった。
2019-12-18 21:30:59「ありゃまずいな」 「仕立屋の婆さんは馬鹿と無礼者が大嫌いだぜ」 「貴族の使いだって舐めた態度をとったら丁重に追っ払われる」 「まして肌の色もいでたちもおかしな、身分も解らんよそものなんぞ」 「もう望みないかもな」
2019-12-18 21:32:37靴屋のおつき、とんがり帽子の小人達がそう告げる。 キージャの故郷にも工芸に長けた小人、ドワーフがいるが、この国の小人はもっともっと寸足らずで、何と掌に乗るほどの大きさ。鼠と変わらない。ノームとか何とか言うらしい。
2019-12-18 21:34:35「こなたが悪かったのじゃ…ザハキから礼儀作法を教わったのに…でもどうしてもサンドーラの教えを受けたいのじゃ!あのものこそ、こなたが求めていた子裁縫の奥義を知るものなのじゃ!」 暗い膚に尖り耳、少女と紛う容姿の少年は一目で老親方に惚れこんでしまったのだ。
2019-12-18 21:36:48魔性の巣食う影の国の世継ぎにして、双蛇の女王の治める安息の国の養い仔たる黒の繰り手は、妖精のごとき若者に向き直る。 「トム。どうか手を貸してくりゃれ」 「うん…そうしたいけど、サンドーラさんはきっぱりしてて…そうだ。この町の教会の寺男さんなら良い知恵を…」
2019-12-18 21:38:59そこへ小柄な影が駆けてくる。といっても人間の大きさ。 少年だ。キージャよりは幾分年下だろう。 「トム!トム!来てたの!」 「やあヤン」 さらに後から、はっと目の覚めるような麗しい娘がついてくる。どこかの貴族の小間使いのようなお仕着せをまとっている。ヤンと呼ばれた子より年嵩だ。
2019-12-18 21:42:24ヤンはトムの手をとって嬉しそうにいらっしゃいと言ってからまた娘のそばへ駆け戻って付き添う。まるで子犬のようだ。 「リッカ!トムだよ!トムが来た!」 いちいち報告しなくても聞こえているだろうに律儀に話しかける。
2019-12-18 21:44:08「その子は誰?トムの友達?だったらよろしく!俺はヤン。仕立屋の見習いで、こっちはリッカ。俺の姉弟子」 「こなたはキージャ。ここな仕立屋の親方サンドーラから教えを受けたくて訊ねて来たのじゃ」 「俺のおばあちゃまだよ。国一番の仕立屋」 「じゃが無礼を働いて会ってもらえぬ」
2019-12-18 21:47:38ヤンは首を傾げる。 「おばあちゃまは、うちのリッカみたいに、きちっとした格好の、きちっとしたひとが好きだよ。キージャは遠くから来たの?旅装束だね」 「むむ…やはりむさ苦しいか」 「この辺の服じゃないから解んない」 「服は…心をあらわす…着替えて出直すのじゃ!」
2019-12-18 21:51:33「俺手伝う!」 「ぬ…なぜじゃ」 申し出るヤンに、キージャは目を瞬かせる。 「だって仕立屋になりたいんでしょ?。リッカどう?キージャをかっこよくできるかな」 「はいぼっちゃま」 不思議にも姉弟子は弟分に向かって、主人に対する小間使のように恭しく応じる。
2019-12-18 21:54:46一行は小舟に乗り込み、町の主な交通手段になっている水路を移動し、教会なる場所にたどりつく。どうやら神殿の一種らしかったが、あまり厳かなたたずまいではなく、広く住民や旅人に開かれているようだった。
2019-12-18 21:57:38「寺男さん!俺戻って来た」 「おやヤン。忘れものですか」 中肉中背の青年が迎える。口の周りに柔らかな髭を生やしていて、これといった特徴のない、いかにも物語の脇役にでも相応しげな印象を与える。 だがヤンはとてもなついていた。トムもどこか嬉しそうな面持ちだ。 「おひさしぶりです」
2019-12-18 21:59:37「トムもようこそ。お祈りをされていきますか」 「はい。あの…でも…」 「ほかにもお連れがいらっしゃるのですね。ようこそ。あなたの家と思ってお過ごし下さい」 「こなたはキージャじゃ!…む…」
2019-12-18 22:00:50キージャは寺男に近づく。 「どうして悲しげなのじゃ」 「そう見えますか…性分かもしれません。でも今はとても嬉しいのですよ。さあ、何か飲み物でも差し上げましょう。蒲公英茶でも構いませんか」 「馳走になるのじゃ!」
2019-12-18 22:03:25教会の書庫に集まってあれこれと作戦会議を開く。 「リッカの古い服があるよ。とってもすてきなやつ。キージャの体に合わせられる…リッカはキージャにあげてもいいって」 「助かるのじゃ」 「靴は僕が作るよ。採寸をさせて」 「靴もかや!トムの技を見たいのじゃ」
2019-12-18 22:06:37かたわらで仕立屋の姉弟子は目を伏せる。すると弟分はぴょんと跳ねるようにして立ち上がって側に行き、かすかに頭を振る。 「そうだ!化粧はどう?リッカは少ししてるんだよ!口紅や白粉や眉墨や下地。なぜかって、おばあちゃまが衣服は化粧にも合わせることを考えなきゃいけないからって」
2019-12-18 22:08:44仕立屋見習いのヤンが言いさしたところで、靴屋のトムの腰に挿した杖がのたうって喋る。 「真の学問を修めた身から言わせてもらえば、化粧などという言葉でくくってほしくない。変装術だ。さまざまな材料を配合して作る変装の品はまさに錬金術の真髄にも通じ…」
2019-12-18 22:11:55