「ハイ、わたしは観光案内用音声自動案内機デス。今日のモスクワはハれ。ヨルには雪がフルでしょう。どちらにいかれマスか?」
2019-12-01 14:57:40「列車が時間通りに来てないって?……あんた、天照人か?がたがた言ったって来ないもんは来ない。諦めて待つんだな」
2019-12-01 19:48:24貴方は分厚い鉄の塊の様な列車に揺られ、曇った窓の向こうの暗くて寒い景色を、飽きたうえで眺めていた。
2019-12-01 19:53:04車内の暖房は外とは正反対に暑いくらいで、厳しい寒さの土地へと向かうために用意した上着は隣の席に。何度目かの欠伸をしたところでやっと、停車のアナウンスが車内に響く。その路線の果て、終点。
2019-12-01 19:55:22列車は止まり開いた扉からは想像以上の寒気が入り込み、思わず体を小さくする。やっと着いたか。同じように大きな荷物を抱えた、様々な国から来たであろう人々の波に流されながら改札を出れば、出口頭上に出迎えの言葉が並ぶ。 『ようこそ親愛なる同志!ここは永遠の冬の国、鉄血社会主義連邦!』
2019-12-01 19:59:44この時期、普段は閉鎖的で排他的なこの国は冬のまつり期間として、観光としては入国規制が緩くなるのだった。それに乗じて貴方もまた、この国に脚を踏み入れたのだった。まずはと手に強く握った観光地図につけた目的の場所へ向かった。
2019-12-01 20:03:21旧帝政時代の強固な城壁の前、市民が何かとあれば集まる大広場。そこにたどり着けば、その中心には広場が狭く感じるほどに大きな、言わばツリーが聳えていた。イルミネーションにより美しくライトアップされ、夜の列車に乗った理由はこれだった。
2019-12-01 20:05:53思わず夢中で写真を撮っていると、おそらく祭りか何かの民族衣装を来た女性から紙切れを渡される。いや、これは……荷物のタグ?キョトンとしていると、彼女は微笑んでそのタグについて語り出した。
2019-12-01 20:08:39「"その夜に贈り物をしたい人は赤いタグを、贈り物をされたい人は黄色いタグを"、そうやってこの国ではプレゼントを送りあうんですよ。このモミの木例えて【大樹の祝福】とも言われていて、同じ家の家族から、遠い国に暮らす誰かにも届くって。フフフ、鉄血連邦にいらした思い出にどうかしら?」
2019-12-01 20:12:10なるほど。自分の国でも聞くような、祭事にかけた言い伝えの様なものか。そうだな、せっかくだからこの国のお土産にでもつけてみようか。別の国にきて少し浮いた気持ちで、地図と一緒にそのタグを大事に仕舞ったのだった。
2019-12-01 20:15:23ここもまた冬の色に染まり、白雪と街灯で街はふわふわと色づいていた。街頭のテレビで遥か北の国は観光シーズンで盛り上がり、プレゼントを送るのに変わった風習があると紹介していた。それをたまたま、フードをかぶった少年が見つめていた。
2019-12-01 20:20:46「どんなに遠い所にも、ねえ……」 それはこの空がつながっていないところでもか、と続けそうになった口は閉じて。スポーツニュースに切り替わったところで、少年の足はまた動き出す。
2019-12-01 20:23:28「……ん?」 冷えた空気に細い指が冷たくなりポケットに手を入れた所、何かに当たる。くしゃりと音を立てた紙の様なもの。いつかのコンビニのレシートか?捨てるのにもとりあえず取り出すとそれは、さっきのテレビで見かけた"赤い"タグだった。
2019-12-01 20:26:34いつの間にこんなものが、どこから、当然の驚き浮かべながら、次に出てきたのはさっき口にしかけた言葉の意味だった。いたずらで結構、無駄なことだと思っていても、まだ自分が子供であるのなら、この偶然に賭けてもいいんじゃないかと思ってその口の端は上がった。
2019-12-01 20:29:12