空想の街 とある冬の一日・期間外

黒胡椒すず @spice_100g

覚悟をしてきたつもりだった。だが、目的の店に近づいていくにしたがって足が重くなるのを感じる。 後悔をしている。しかし、懺悔をしに来たわけではない。というか懺悔したところで許されるとも思っていない。 #空想の街　#たまご屋探し

黒胡椒すず @spice_100g

私はどこまでも無責任で、自分の夢と生き方を曲げられなかった馬鹿な男に過ぎないのだから。 「おじさん、たまご買う？何個買う？」 物思いにふける私を引き戻す、ひなこの無邪気な問いかけ。 「そうだね、おじさん旅人だから、そんなにたくさんは買えないけれど」 #空想の街　#たまご屋探し

黒胡椒すず @spice_100g

「プリンもね、とろとろなの」 「おやおや。君は営業が上手だね」 二羽の鶏は少し前を歩きながら、ときどきこちらを振り返る。ちゃんとついてきているか確認してくれているらしい。 「ねえおじさん、それ、 あたしとお揃いだわ」 #空想の街　#たまご屋探し

黒胡椒すず @spice_100g

「え？」 「目。紫色」 そう、私の目は紫だ。そう言われて改めて観察してみるとひなこの瞳も紫色をしていた。鮮やかなオレンジの髪と翼に、その紫のコントラストはとても美しい。 「本当だ、珍しいね。あんまりいないんだよこの色は」 #空想の街　#たまご屋探し

黒胡椒すず @spice_100g

「そうなの？でもママもね、お揃いよ」 「おや、それはますます珍しい」 紫色の瞳は珍しい。世界中を旅してきて、その中でもやはりそれは変わらなかった。それに偶然出会うだなんて、不思議なこともあるものだ。 そうこうしていると、前を行く二羽が立ち止まる。 「到着よ」 #空想の街　#たまご屋探し

黒胡椒すず @spice_100g

目の前に、目的の店が現れて。私は思わず目を細めた。 #空想の街　#たまご屋探し

はなまめ @gp_c_

雨に濡れた時計台。あの頃毎日遠くから見ていたけど、こんなに、見上げる程大きいとは思ってなかった。「.......寒い」#空想の街 #巣烏記 広場は静かで、街灯も遠巻きにこちらを照らすだけで足元の影を遮る物もなく。「.......遅い」近づいてくる足跡を隠せるものもない。

はなまめ @gp_c_

足音は固く、革靴を履いている音がして、歩幅は広くきっと背が高いと思われる大股で.......少し、離れたところで止まった。「遅い。病人を冷やすんじゃないわよ」#空想の街 #巣烏記「.......仕方ねぇだろうが、鬼ごっこなんて何時ぶりだ。」そもそも手前ぇ、逃げてんじゃェよ――

はなまめ @gp_c_

振り返らなくても分かるけど、来ると思っていたけれど、振り返らなければならない。体を向けると、傘の縁から手入れのされた革靴が、折り目の崩れたスラックスが、年季の入ったジャケットの袖が、無精髭が。#空想の街 #巣烏記 .......見慣れた鷲尾犬太郎の顔が。いなくなってくれなかった。

はなまめ @gp_c_

「久々に外に出たいって言うなら真っ先に俺に知らせてくれるのが筋じゃねぇかな？ん？」昔から小雨くらいの雨では傘も持たない、その長い背丈の上半分を色が変わるまで濡らして。おいたをした子供を叱るような口振りで犬太郎は笑いかける。#空想の街 #巣烏記 きっと足取りを掴むまで方方走ったろうに。

はなまめ @gp_c_

「病院から電話入るまで気ィつかなかったから俺が言えたことじゃねェけどよ、あんまり心配かけてくれるなってんだ」そんな素振りも押し隠して、男はひばりを迎えに来た。――あたしを。 #空想の街 #巣烏記 ――ちくしょう。お前は、お前がそうだから。「そ。それはよく走ったでしょ、運動不足じゃない？」

はなまめ @gp_c_

「言いやがるこいつ！そんだけ元気じゃ、もう出ても.......」ｸｯｸｯと引っかかる笑いを立てて、犬太郎はこちらに手を伸ばした。柔らかく頭を撫でる気の、その手を花が、勢いよく打った。#空想の街 #巣烏記 薄暗く輪郭だけを照らす広場の真ん中に、割れた硝子の欠片のように鋭く赤や黄色が散った。

青の楽園／「羊たち」 @nowhereao

@IrhnIhht 「こんばんは」灰間から借りた傘を畳んで #さるカフェ に入る。今日は先客がいたようだが、そのためなのか店の二人はとても元気そうだ。「挨拶にきました。えっと、今いいかな」 「初めまして」せんろも頭を下げている。 #空想の街 #青の楽園

ちりぬるをわか @IrhnIhht

@nowhereao ふと、ろろがつぴぴと顔を上げた。あ、この仕草はろろの知ってる人だわ。誰かな、誰かな。#空想の街 「バイクのおにーさん！！いらっしゃいませ！」私より先にろろが飛んで行く。#青の楽園 あっ、ララさんだ！あともう1人可愛い女の子。ろろに任せて大丈夫ね。#さるカフェ

青の楽園／「羊たち」 @nowhereao

@IrhnIhht 「ろろ！よっ、こないだぶり」初対面のぎこちなさを露ほども思わせずろろが笑うので、ララもつられて口角をあげてしまう。 #さるカフェ #空想の街 #青の楽園 「色々あってさ、こいつと旅に出ることにしたんだ。しばらくはバイク押しながらだけど」「ろろくんっていうの？わたしせんろ」

ちりぬるをわか @IrhnIhht

@nowhereao 「ららさん！…と…せんろ、さん。はじめまして、いらっしゃいませ」#空想の街 「いつもの席？」#青の楽園 「ららさん、あいぼう？(コソッと耳打ち)」#さるカフェ

青の楽園／「羊たち」 @nowhereao

@IrhnIhht せんろは食べ物の匂いに夢中だ。「ララ、暖炉のそばにしよう。火は旅路にかかせないから」 #さるカフェ #空想の街 #青の楽園 ろろに耳打ちされてララは少しだけ跳ねる。癖の強い髪がゆさっと揺れるのを自分でも感じる。「…まだわからんけど、ケンカしないようにする。相棒になれると思う」

ちりぬるをわか @IrhnIhht

@nowhereao 「あいぼう！やったね！」#空想の街 お見送りを終えてララさんのもとへ行くと、なにやらろろがガッツポーズをしている。「あら、今日は可愛いお連れさまがいるのね。お腹の気分は？」#青の楽園 今日はセルフサービスがあったから、軽食もあるわ。それ以外でも何でも好きなもの言って！#さるカフェ

青の楽園／「羊たち」 @nowhereao

@IrhnIhht 「初めまして店主さん、わたし、せんろっていいます。甘いものお願いしていい？」 せんろは首飾りを整えて背を正した。 「俺も甘いものにしようかな」甘いものといえば灰間のところでココア、あとは街で汁粉などをもらったが、 #さるカフェ の甘味も食べてみたい。 #空想の街 #青の楽園

ちりぬるをわか @IrhnIhht

@nowhereao 甘いものね、了解！「カフェモカとキャラメルラテおすすめ。るるのてづくり！」ろろはこの２つがお気に入りよね。チョコはともかく、キャラメルソースは自家製よ。それとも飲み物は違うもの？#空想の街 後のオーダーをろろに任せ、甘いものを作りにカウンターへ。#青の楽園 #さるカフェ

はなまめ @gp_c_

「.......あたしね、」あぁあのいい花でやっちゃった、とか。ざまぁみろ滅多に見られない顔しやがって、とか。思考は様々に重なるけれど、一番の鮮やかなこれは、覚悟だ。「拗ねてんの。わからない？」#空想の街 #巣烏記 花弁と雨の向こうに、真正面から犬太郎を射抜くその目の青、青、青。

はなまめ @gp_c_

「あんた、隠し事してるでしょ。あたしに。わかんないとでも思った？あたしは確かにマヌケだけど、なんもわかんないくらい子供じゃないのよ。残念ながらね。」#空想の街 #巣烏記 「だから、あんたがなんか隠してるのは、もうずっと。起きてからずっと知ってた。」まっすぐ拒絶する手に花が濡れる。

はなまめ @gp_c_

「.......答えて。答えてよ」「.......」犬太郎は答えない。答えの代わりにゆっくり、ジッポの火を揺らして、煙草に火をつけた。数瞬照らされて、犬太郎の顔が見えなくなる。「答えろっつってんの！」#空想の街 #巣烏記 「あたしが、あたしが泣かなきゃならないことはもう腹ァ決めてるってんだ!!」

はなまめ @gp_c_

「だから、ねぇ、もう、もう庇わないでよ」伸ばした腕も、肩ももう震えが止まらない。吐く息が白くて、力みすぎて血の気の引いた指も、それよりもっと握る花束の花が白くて。「じゃないとあんたの隣なんか、あんたの隣を任せてくれたのに」#空想の街 #巣烏記 「隣に立てないの、立つ資格がないの」

はなまめ @gp_c_

.......言い切って、この震えを収めようと無理やり息を吸う。目だけは逸らすまいと歯を食いしばり、1日の靴擦れをつけた足を踏ん張って待つ。待つのに、犬太郎は何も返さなかった。視線を雨の石畳に落として、悲しい位十分に紫の煙を吸って吐き出されたのは「すまん」だけだった。#空想の街 #巣烏記