Coinhive事件高裁判決が投じた法律論上の一石

高裁で完敗しました。一縷の望みで最高裁まで頑張ってね(1%破棄差戻しの余地あるかも?)2/13::法律論的所見3を追記しました。
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【速報】高裁判決 

弁護士ドットコムニュース @bengo4topics

【速報】コインハイブ事件の控訴審で2月7日、東京高裁はウェブデザイナーの男性に対し、一審横浜地裁の無罪判決を破棄し、罰金10万円を言い渡しました。 bengo4.com/c_23/n_10741/ #Coinhive

2020-02-07 10:35:33
弁護士ドットコムニュース @bengo4topics

【追記】逆転有罪となったコインハイブ事件で、弁護側が上告する方針を明らかにしました。 このあと、裁判の詳報を公開する予定です。 bengo4.com/c_23/n_10741/

2020-02-07 13:05:03
弁護士ドットコムニュース @bengo4topics

判決詳報を公開しました。 逆転有罪のコインハイブ事件、判決詳報 弁護側は「不当判決」と憤りあらわ bengo4.com/c_1009/n_10749/

2020-02-07 16:16:21

不正指令電磁的記録保管の罪

(不正指令電磁的記録作成等)

第168条の2
正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
前項の罪の未遂は、罰する。


かいつまんで要件化
該当性
・・不正性(正当な理由があるか、社会的認容性など)
・・反意図性(使用者の意図に沿うべき動作をさせず、または意図に反する動作をさせる性質)
供用目的性 - 目的犯。通貨偽造罪などでも見れらる要件
・過失不可罰、未遂可罰


高裁の判断


反意図性の判断基準

プログラムの機能について一般的に認識すべきと考えられるところを基準とした上で、一般的なプログラム使用者の意思に反しないものと評価できるかという観点から規範的に判断されるべき


反意図性が認められる場合

一般的なプログラム使用者が、機能を認識しないままプログラムを使用することを許容していないと規範的に評価できる場合
に認められる場合があるとした。


判断1

コインハイブのマイニングは、ウェブサイト閲覧のために必要なものではなく、このような観点から反意図性を否定することができる事案ではない

ウェブサイト閲覧をさせるためにマイニングは一般的には必要ではない、と言う判断。(つまり、マイニングをさせなければウェブサイト閲覧ができなくなると言う性格のものではないと言う事)


判断2要旨

(情況)
・仮想通貨の採掘は閲覧者のPCで行われる
・採掘はPCに負荷がある(「CPUを提供」と書いている)
・PCの負荷により仮想通貨が採掘される
・採掘された仮想通貨は誰の財物か?
・・閲覧者の財物か?
・・サイト設置者の財物か?

(要件)
・閲覧者は、自らのPCで採掘された仮想通貨について利益を一切得る事がない
・仮想通貨がマイニングされている事は、閲覧画面には出てこないため、その事を閲覧者が容易に気付く事ができない
・マイニングが実行され「CPUを提供」している事に閲覧者は気が付く機会もなければ、そのCPUの提供を拒絶する機会も十分に提供されていない

(判断2)
以上の事から、このようなプログラムは、閲覧者に利益がなく、閲覧者に無断で「CPUを提供」させ、かつサイト設置者が利益を得ようとするものであり、

このようなプログラムにつき「プログラムの使用を一般ユーザーとして想定される者が許容しないことは明らかといえる

と判断。


判断3要旨

不正指令電磁的記録関連罪は、反意図性があるプログラムであって、不正性を持つ指令であるものを規制の対象とする。

(すなわち、反意図性があるからと言ってただちに規制対象となる訳ではなく、使用者に対する利益の特喪、その他の社会的事情を総合的に勘案したうえで、不正性が無いものとして規制の対象から除外される場合があると言う趣旨である。これは分野で「社会的に認容される場合」と言われる)

その上で本件コインハイブは『閲覧者に利益がなく、閲覧者に無断で「CPUを提供」させ、かつサイト設置者が利益を得ようとするもの』であるから、「一定の不利益を与える類型のプログラム」である。

さらに「マイニングされている事が画面に出ないため閲覧者が容易に気付けない」など、当該一定の不利益についてサイトには表示されず、利用者に注意喚起はなされていない。

(判断3)
以上の事から、「プログラムに対する信頼保護という観点,、PCによる適正な情報処理の観点から社会的に許容すべき点は見当たらない」と判断。


その他、各個撃破された弁護人の言い訳

・閲覧者が実行したブラウザプログラムがJavascriptを実行させてるから適法だろ(暗黙の承諾)

 →ブラウザが閲覧者が実行したプログラムだからと言って、直ちに全面的にその上で実行されるJavascriptコードの反意図性が否定される訳ではない。(すなわち、Javascriptコードに不正性、反意図性のあるコードを挿入して閲覧者側に送信すれば、不正指令電磁的記録関連罪が成立する)

・ウェブサービスの質の維持向上に必要である

 →『閲覧者に利益がなく、閲覧者に無断で「CPUを提供」させ、かつサイト設置者が利益を得ようとする』プログラムの実行と引き換えにサービスの質の向上を図ることは許容されない。

・ウェブサイトを改ざんする不正プログラムと対比して、大した事じゃないから許せ

 →『五十歩百歩』。(時間の無駄で心証悪くするだけじゃ…)

・マイニングコードに対する社会的議論や賛成、反対など意見の相違があるから無罪

 →プログラムに対する利害得失、意見者や議論者のプログラムへの理解度によっても影響を受けるため、社会的議論や賛成、反対など意見の相違が、本罪「社会的に認容される場合」の判断に決定的な影響を及ぼす事は無い。

 →むしろ、本件コインハイブでは「CPUを提供」を拒絶する機会も十分に提供されていない事情を鑑みれば、賛成、反対など意見の相違がある時点でそのようなコードが「社会的に認容されない」可能性を推察させる。

・警察が事前に警告してなかったから不正性はない

 →不正性は捜査機関の事前の警告の有無とは独立して判断される。(究極的には裁判所で判断される)

 →(事前に警告してなかったら人を死なせても良いのか?)(よくある議論。法の不知は故意を阻却せず、など)

・PCへの影響の程度は軽微である。また、ウェブ広告の表示と比べてこうこうこう言う理由だから無罪。

 →軽微である事は理由にならない。また、ウェブ広告の「社会的認容性」の有無と、本件コインハイブの「社会的認容性」の有無は何ら関係が無い。

 →また、ウェブ広告はウェブの閲覧に付随して動作し、なおかつその動作が目に見えるため(「CPUを提供」の度合いやその他の負荷の度合いが目に見えると言う事)、本件コインハイブのように『閲覧者に無断で「CPUを提供」させ』るプログラムとは大きく様相が異なり、単純に比較検討して論じるのは適当でない。

・PCの消費電力がこれだけ上昇した、PCの処理速度がこれだけ低下したと言う具体的な証拠が提示されておらず、不正性が立証されていないから無罪。
・・また、不正指令電磁的記録関連罪は、PCの機能破壊や、情報窃取などの悪質な行為を想定しているので、コインハイブはそう言う類のものではなく、社会的に許容されているいるから無罪。

 →不正指令電磁的記録関連罪は、PCの機能破壊や、情報窃取などの悪質な行為だけを規制対象として限定しているものではない。

 →本コインハイブの反意図性、不正性は、『閲覧者に無断で「CPUを提供」』することに主な特徴の一つがあものであるから、「消費電力や処理速度の低下などが、使用者の気づかない程度のものであったとしても、反意図性や不正性を左右するものではない」


その他、目的犯性など

・地裁では、経緯その他の状況を総合的に判断して目的犯性が無かったと認定され無罪。

・高裁では目的犯性を認定。
・・コインハイブで無断マイニングされていると外部から指摘された後もコードを保管していた
・・同意無いマイニングに批判があったことを知る事ができた
・・以上の状況下で収入目的などの目的犯性があった事は明らかである。
・・また、マイニングに批判があった時点で、閲覧者に知られずにマイニングを実行できる機能がある事を知っていたはずであるから、コードの保管行為の目的犯性、故意性は明らかであり、犯罪は成立する。