新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察(白木公康) 白木公康 (千里金蘭大学副学長,富山大学名誉教授(医学部)) 木場隼人 (金沢大学附属病院呼吸器内科) https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14278  続きを読む
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察(白木公康)|Web医事新報|日本医事新報社 jmedj.co.jp/journal/paper/… コロナウイルスの特徴

2020-03-23 21:51:36

コロナウイルスの特徴

コロナウイルスはエンベロープを有するので,エタノールや有機溶媒で容易に感染性がなくなる(不活化できる)

ヒトに感染するコロナウイルスには,「ヒト呼吸器コロナウイルス」(229E,OC43,NL63,HKU-1),2002年に発生した「重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス」,2012年に発生した「中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス」,そして今回の「新型コロナウイルス」があり,新型とSARSは,アンジオテンシン変換酵素2をレセプターとして感染する。

新型コロナウイルスの103株の遺伝子を比較した結果,2万8144番目の塩基の違いによってアミノ酸をセリン(S型)とロイシン(L型)に分けると,L型は中国・武漢で,1月7日以前の分離株の約96%であった。S型は武漢以外で,1月7日以降の分離株では約38%を占めていた。そのことから,L型はS型よりaggressiveと報告されている1)。両者は,約1万個の特定部位のアミノ酸の1つの違いなので,免疫学的に違うウイルスではなく,2回かかるとは思われないが,ウイルスの病原性や広がりの研究には重要と思われる。

ウイルスの感染能力の安定性

コロナウイルスはインフルエンザ同様,エアロゾルが乾燥する距離である2m離れたら感染しないと思われる。しかし,湿気のある密室では空中に浮遊するエアロゾル中のウイルスは乾燥を免れるため,驚くことに,秒単位から1分ではなく,数分から30分程度,感染性を保持する
このように,感染する場所と,感染が「上気道」あるいは「下気道」のどちらから始まるかが,ウイルスの検出部位(鼻咽頭拭い液か喀痰)と検出までの時間や感染病態に影響を与えていると思われる

また,2009年の新型インフルエンザ流行の際に医学部生の感染機会を調べた研究によると,多くが「カラオケ」であった。このように,単に密室を避けるのではなく,湿気が多い空間・密室では換気や除湿を心がけ,飛沫が乾燥しやすい環境として,人と人の距離を2m保持することで,感染の回避は可能と思われる。

湿度と気道の乾燥,エアロゾルの乾燥

したがって,マスクの使用は吸気の湿度を保ち,気道粘膜の乾燥を防ぎ,繊毛運動の保持には有用であると思われる。

このように,部屋の加湿は気道には優しいが,呼気や咳・くしゃみにより生じたエアロゾル中のウイルスの乾燥を妨げ,感染性を保持しやすいことになるため,湿度を上げすぎないことに留意するべきであると思う。

コロナウイルスの増殖

したがって,気道上皮細胞からのコロナウイルス放出はインフルエンザの約100分の1程度と推測できる。

ヒトへの実験的ウイルス感染よりわかること

ヒトに対するウイルス感染の実験により,「感染後いつ発症するか?」「いつまでウイルス排泄が続くか?」「再感染はいつごろか?」が推測できる。インフルエンザは,早ければ18時間で発症し,約2日でウイルス量は最高に達し,発熱,頭痛,筋肉痛は,上気道症状より早く回復する。

鼻かぜ(コロナウイルスとライノウイルス)は,感染3日後に発症し,ライノウイルスは3週間,コロナウイルス感染動物では約1カ月程度ウイルスが検出される。

PCR法は分離による感染性ウイルスの検出より,約100~1000倍感度が良いので,主要症状消退後のウイルスの検出は,感染性と相関しない。そして,PCR法では,回復期には陽性陰性を繰り返し,徐々にウイルスは消えていく

再感染の時期については,粘膜感染のウイルスは,粘膜の免疫が一度産生されたIgA抗体の消失まで約6カ月続く。そのため,3カ月までは再感染せず,6カ月ぐらいでは再感染するが発症せず,1年経つと以前と同様に感染し発症するとされる

潜伏期間の長い麻疹,水痘,風疹などは,子どもの感染で親の抗体価は上昇するが,発症しない。すなわち,粘膜感染し免疫が誘導され,発症に至る前に免疫で抑え込むためである。一方,潜伏期間の短い粘膜感染のコロナウイルス,ライノウイルス,RSウイルスなどは,粘膜免疫の誘導前に発症してしまうので,IgA抗体が消えると再感染し,発症することになる。

最近,COVID-19回復後に陰性化したが,1カ月程度の間に,ウイルスがPCR法で検出された例が報道されている。これは,コロナウイルス感染では不思議な現象ではない。ウイルスの完全消失までの経過で多くみられ,再感染は合理的に考えにくい

さらに,COVID-19は,物を介して上気道で感染する場合と,エアロゾルで下気道・肺胞で感染する場合が考えられるが,鼻咽腔での検出が悪く,喀痰で検出できる場合には,下気道でウイルスが感染したと推測できる。

COVID-19の臨床的特徴と治療

COVID-19の臨床的特徴は,インフルエンザのような感冒症状に加えて,致死性の間質性肺炎・肺障害を発症する点にある

COVID-19の治療において重要であると考えていることは,感染者の3~4%に生じる急性呼吸性窮迫症候群(ARDS)に至る前に,間質性肺炎の発症を早く見つけ,遅れることなく,抗ウイルス薬治療を開始することである。間質性肺炎症状である「dyspnea,息苦しさ」は発症平均8日〔四分位範囲(中央の50%):5~13日〕後に検出されている。したがって,3日の発熱は他の感染症でもみられるので,4日以上の発熱が続けばこの感染症が疑われる(人によって平熱の値が異なるため,ここでは発熱の具体的な基準を示さない)。そして,5~6日に労作性呼吸困難を指標にして肺炎合併の有無をCTで検討し,治療を開始する。この間にPCR法で確認することが望ましいが,肺炎の臨床診断で治療を開始し,翌日のPCR法による診断の確認も選択肢の1つであると思う。

COVID-19の肺炎の早期発見

COVID-19に感染した場合に備えて,肺炎を早期に発見するためには,毎日検温をして平熱を把握し,発熱のチェックをする。4日以上持続する発熱は鑑別できる発熱性疾患が限られ,COVID-19のサインと思われる。発熱後8日で呼吸困難が出る。

発熱後5~6日ごろの病初期では,階段上りや運動など酸素必要量が多い時のみ,息切れを感じる。この労作性呼吸困難(息切れや呼吸回数の増加)により,肺障害を早期に推測し,治療に結び付けることが重症化を防ぐために重要であると思う。その際に,画像診断とPCR法で確定できる。