「ボクのこと、食べたりしないかい?」「もちろんさ!ボクは人食いだからね。おさかなは食べないよ」ねこぎみがそう言うので、おさかなクンはとても安心しました。ところが、一緒に旅をするうちに、ねこぎみはソワソワしだしたのです
2011-06-14 13:32:44(おなかすいたなあ。でもここには人がいないよ)ねこぎみはぐーぐーとなるお腹を押さえながら、ちらりとおさかなクンを見ました。おさかなクンは楽しそうに水浴びをしています。(……もしかしたら、おいしいのかなあ……)
2011-06-14 13:36:48「おさかなクン、おさかなクン」かわのほとりでねこぎみが手招きしています。「どうしたんだい?キミも一緒に泳ぐのかい?」「ボクは泳げないんだ」ねこぎみは森の奥を指さしました。「そろそろ日が暮れるよ。水に濡れたままではかぜをひいてしまう。向こうであたたまったほうがいい」
2011-06-14 13:44:18森の奥は暗いはずなのに、ねこぎみが指した場所はパチパチと明るく燃えています。――おさかなクンは知っていました。いつかはこういう日が来るのだと。おさかなクンのお父さんやおじいさん、おじいさんのおじいさん、そのまたおじいさんも、ずっとずっとみんなに食べられてきたのです
2011-06-14 13:50:50おさかなクンはちょっとだけ悲しそうな目をしました。でもすぐにいつものように笑います。「ありがとう、ねこぎみはやさしいね。じゃあえんりょなくあたたまってくるよ」
2011-06-14 13:54:51森へ向かうおさかなクンを見て、ねこぎみは胸を押さえました。なぜなら、胸の奥が針を刺されたようにちくりと痛んだ気がしたからです。でも、それより大きな音でお腹がなりました
2011-06-14 13:57:37「もういいかな」かわのほとりで空を見あげると、いつの間にかもう夜になっていました。すっかり暗くなった森からなんとも香ばしいにおいがします。ねこぎみは鼻をひくひくさせながら、においをたどっておさかなクンを見つけました。
2011-06-14 14:06:34「きれいな顔してるだろ、ウソみたいだろ……これ、死んでるんだぜ。たいしたキズもないのに、ただ、ちょっと焼かれただけで……もう動かないんだぜ。ウソみたいだろ」
2011-06-14 14:11:27ねこぎみはおさかなクンの隣に座って、おさかなクンのからだにがぶりと噛みつきました。「……ああ、いい塩加減だ。おさかなクン、おいしいよ」塩なんてどこにもないのに、しょっぱく感じたのはなぜでしょう。月明かりの下で、ねこぎみはおさかなクンのからだをきれいに食べつくしました
2011-06-14 14:17:50お腹いっぱいで眠くなったねこぎみはその場で丸くなりました。ねこぎみの手には小さな白いかけらとなったおさかなクンが握られていました。「明日からも一緒に旅をしようね、おさかなクン。ごちそうさまでした」 ―おわり―
2011-06-14 14:23:55