カレイドスコープ・オブ・ケオス#2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」」禍々しいカラテシャウトが聞こえた。リポーターはジグラット残骸を見つめ、思わず息を飲んだ。『明智光秀』『ネザー』『征服する』等の旗。ガレキまみれとなった階段状の斜面には、それぞれがミニゴルフコース程もある無数のトレーニング場が築かれていた! 21

2020-05-15 22:13:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」」おお、何たる冒涜的光景か!太鼓の音に合わせ、数十……いや、数百人規模の白装束ニンジャ達が、一斉にトレーニングを行っていたのである!「「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」」それはセイケン・ツキと呼ばれる情け容赦ない殺人カラテのムーブメント! 22

2020-05-15 22:16:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

響き渡る無数の掛け声のユニゾンと同期するかのように、ジグラット残骸の左右に建てられた五重塔からは激しいパイロ火柱が吹き上がっていた!「アイエエエ!」追随クルーが失禁した。カメラマンの手が痙攣した。「……この世の……終わりだ……」レポーターは涙を流し、呟いた。 23

2020-05-15 22:18:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイ待て!」「ヤバい!」「そっちだ!」激しくブレるカメラが右にパンした。「サフォサフォス」のたうつ触手が、「サフォスソサフォサフォス」ザリザリザリザリザリ。画面が切り替わり、真顔のオイランキャスターが映し出された。「これはCGではありません。彼らに追加報告を要請しており……」 24

2020-05-15 22:21:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうなっちまった……」タキは呻いた。キャスターの横の解説委員がメガネを手で直した。「エー、カスミガセキ・ジグラット廃墟は撤去に甚大な費用がかかるのでどのメガコーポも手を着けておらず……実際、遺棄設備を巡る争いも常態化しておりましたからね……彼らの手ですぐに要塞化されましたね」25

2020-05-15 22:24:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らの後ろのサブ画面には、ビジネスビルの壁をロープ無しで競うようにクライミングするゲニン達と、それを見て操縦者がNRSを起こしてヘリが墜落する痛ましい映像が流れた。「この通りです。市街各地は非常に危険なエマージェント状態です」「そしてなにより、タイクーンですね」「その通りです」 26

2020-05-15 22:27:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サブ画面には航空戦力を易易と破壊する帝王の映像が映し出される。「ウカツに手出しすれば神出鬼没のタイクーンの反撃を招き甚大な被害を受ける……メガコーポ各社はその事態を恐れています」「どうすれば」「社を越えた協力と対処がASAPで必要です。あるいは和平工作……水面下で進んでいるやも」 27

2020-05-15 22:30:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「非常に大変ですね。タキ=サン」キャスターがカメラ目線になり、タキに話しかけた。タキは瞬きした。「ン?」「頼れる人が今、貴方しかいないのよ」「その通り」解説委員がカメラ目線で頷いた。背後のサブモニタに「その通りです」とミンチョ文字が流れた。タキは納得した。オレは発狂したんだな。28

2020-05-15 22:34:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いいですか?暗号をメモしてください」解説委員がサブモニタを指差した。そこに文字が流れ出す。「タタタタウタタタ……」プツン。タキはTVを消した。「ワカル。タノシイを一発キメて寝よう。問題ない」タキは頷いた。カチカチと歯が鳴り、膝がカタカタ揺れる。大丈夫。狂っているだけだ。 29

2020-05-15 22:37:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ストコココココピロペペー!デロリロリ、デロリロリロデロリロ!「アイエエエッ!」タキは極大電子音に飛び上がり、ピンボール台を振り返った。ガーン!ガタターン!ガターン!フリッパーが激しく動き、金属ボールが次々に打ち出されている!液晶画面に「HELLO TAKI-SAN」!「アイエエエー!」 30

2020-05-15 22:39:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガコン!ガコン!ガコン!「HELLO TAKI-SAN」「ヤメロ!」「HELLO TANUKI-SAN」「ここでストップだ!」タキは叫び、会計UNIXデッキのLANケーブルを引き抜いた。デロリロリロリー・デロリロリロリロ。ピンボールが激しい電子音を鳴らす。「何がタヌキ=サンだクソが」タキは電源コードを抜きに行く。 31

2020-05-15 22:43:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デロリロリロ。「TANUKI-SAN」「TANUKI」「HELP」「H.E.L.P」文字がパッパッと移り変わる。そして二列目にはゆっくりとループされる無意味な文字列。「タタタウタタタタタシタタタゴタタタタタータタタタタタムタタタタBわタタタタタDむタタタタタタタタBDDほ11タタタ」「……」タキは目を眇めた。 32

2020-05-15 22:46:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ファッキング・ユーレイめ」ピンボールの電源も抜いてしまえば終わりだ。タキはコンセントにしゃがみ込む。「……」頭を掻いて、彼は立ち上がった。ピンボール台の液晶をじっと見た。「H.E.L.P」……タキは顔をしかめた。「デジタルオーディンの、デジワルキューレ……クソ」メモ用紙を剥がす。 33

2020-05-15 22:49:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……30分後、タキはピザタキのシャッターの隙間から這い出し、キョロキョロと様子をうかがいながら、荒廃したキタノ・ストリートを歩き始めた。「ヤバすぎるんだよ」彼は呟いた。ズボンにはハンドガンを突っ込み、手にはバールを持ち、ピザ宅配ヘルメットを頭に被っている。 34

2020-05-15 22:53:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

路上に出る酔狂な者は皆無。「65%……65%の確率で安全だ」タキはブツブツと呟いた。「ファッキング帝王野郎が出なけりゃ、どうッて事ねえ。オレはニンジャスレイヤーをアゴで使う男だ。ソウカイヤとのアツいコネクションもある。コールひとつで駆けつけるんだ。普段あえて使わねえだけなんだ」 35

2020-05-15 22:57:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼はポケットに突っ込んだメモを意識した。「アレは暗号だ……オレは鋭い。ピピッと来た。後は……クソッ……解析だが……デッキは死んじまってるし。少なくともファイアウォールは買い換えねえと」タキはジャンク屋のチャマダ=サンの店を目指す。「閉店していようが構わねえ。オレはお得意なんだ」36

2020-05-15 23:02:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アソビ」「お茶、歩いてきます」「ワークシヨツプ」「近未来」「電話王子様」……。無人の路上に、ネオン看板が寂しい。タキは交差点で足を止めた。交差点の対岸に、ゲニントルーパー連中。「ヒャハハア!」「惰弱だぜ!」シャッターをへし曲げ、格子を素手で捻じ曲げている。ナムサン! 37

2020-05-15 23:05:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここに至り、タキはシャッターごときでは何も防犯の足しにならない事を知り絶望した。タキが震えながら見守る中、ゲニンは店舗に押し入り、金のネックレスや高級スニーカーなどの戦利品を手に戻ってきて、ハイタッチした。「ヒヤハア!」「文明最高!」そして彼らの目は光っている。異様だ。 38

2020-05-15 23:07:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まるで宝の山だぜ」「コクダカもらってよかったよな」「偉大なるタイクーンについていけば間違いねえ!」「文明は麦畑……オレらはカラテでそれを……なんか刈り取るワケだ!」「ポエット!」「サスガ!」「オイ、そっちでなにか動いたぜ」「野良犬じゃねえか?」……タキは身を隠した。まずい。 39

2020-05-15 23:10:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ふ……ふざけンなよ」タキは迂回を強いられた。「オレは運動不足なんだ……!」彼は小走りになった。空をカイトゲニンが横切った。「惰弱文明人!降伏せよ!」拡声器から威圧的な声が降り注ぎ、背筋を凍らせる。やがてタキは再び大通りに出た。走りきた輸送トラックが、タキの目の前で止まった。 40

2020-05-15 23:14:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

トラックの荷台に座る打ちひしがれたネオサイタマ市民と目があった。腕に枷がついている事に気づいたときは、もう遅かった。「デアエ!」「デアエ!」ゲニントルーパーが降りてきて、タキに迫った。「そこのネオサイタマ市民、死にたくねえだろ!」「におうぞ、インターネットが!」「アイエエエ!」41

2020-05-15 23:16:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一人がタキの腕をねじり、動きを封じた。もう一人が顔を近づけた。「アハァーン……やっぱりだ。ヒケシがいなくても、勘でわかるんだよ」「アイエエ……」震えるタキのアゴを掴み、横を向かせる。そして耳後ろのLAN端子を発見した。「実際、入れ食いだよな!ネオサイタマってのはマジでスゲエ!」 42

2020-05-15 23:18:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「全く惰弱だよなァ、お前らは……!」「アイエエエ……あの……オレが一体……」「インターネットだろ、お前」ゲニンが嗜虐的に目を細めた。「その耳後ろの穴だよ。お前みてェなインターネットは、まとめてフン捕まえて、ありがてぇナガシノに送ってやるんだワ」「ナ、ナガシノ……?」 43

2020-05-15 23:21:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」ゲニンはもはや答えず、有無を言わさずタキに枷をかけると、抱え上げた。彼らの目は光っており、カラテが恐ろしく強い。「アイエエエエ!」泣き叫ぶタキを、ゲニンはゲラゲラ嘲笑い、荷台に荒っぽく投げ込んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」先客たちが憐れみの視線を投げた。 44

2020-05-15 23:24:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゲニンは車に乗り込み、すぐに発進させた。タキは怯えた目で荷台の市民を見た。「ナ……ナガシノって……?」「わからないんだ」サラリマンが呻いた。「LAN端子増設をしてる人間が、奴らには珍しいらしい」「端子……」実際、生体サイバネティクスはネオサイタマでこそ一般的だが、他国は違う。 45

2020-05-15 23:26:55