カレイドスコープ・オブ・ケオス＃2

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どこかへ連れて行かれて……それで……」「審判の時、来たれり！」電子カルティストが熱っぽい目でタキを見、喚いた。「マッポーの使徒、選ばれし我等を約束の電子地へいざなわん！」「うるせェよ！」「グワーッ！」サラリパンクスが頭突した。「どう考えても収容所連行だろうが！ファック！」　46

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タキは狼狽えた。「ま、待て、畜生落ち着いて……落ち……」その時、装甲ビークルが猛スピードで走りきて、輸送トラックに横から体当たりをかけたのである。KRAAAAASH！「グワーッ！？」「グワーッ！」スピンするトラック！倒れ込む市民達！トラックはガードレールに衝突！KRAAAASH！　47

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「グワーッ！」窓ガラスが吹き飛び、ゲニントルーパーが車外に吐き出された。装甲ビークルのドアを蹴り開け降りてきたのは、角刈りでティアドロップサングラスをかけ、素肌に革のジャケットを着た男だった。「ア！」タキは指差した。男がキモンの腕章をしているのだ！　48

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「テメ……いきなり何を……」ゲニンが手をつき、起き上がるのを、その男は指をボキボキ鳴らしながら待ち構えた。「イヤーッ！」その背後から、もうひとりの方のゲニンがチョップで襲いかかる！「イヤーッ！」男は振り向きザマの回し蹴りをそのゲニンの延髄に叩き込んだ！「グワーッ！？」　49

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跳ね飛ばされたゲニンに、男はガムを噛みながら拳銃を向けた。大口径のキモン・マグナムだ。BLAMN！「サヨナラ！」ゲニンは頭を撃ち抜かれ、目と同様の光を内側から溢れさせて爆発四散！「デアエーッ！？」もうひとりが飛びかかる！「イヤーッ！」男はゲニンのアゴを蹴り上げる！「グワーッ！」　50

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蹴り上げられたゲニンの頭を、今度は踵落とし！「イヤーッ！」「グワーッ！サヨナラ！」ゲニンは足の下で爆発四散した。「アイサツぐらいさせろ、クソめがァー」男はフーセンガムを膨らませ、ボキボキと指を鳴らす。ガムがパチンと割れて顔についた。「ちょっと！市民もいるんですよ！」女の声。　51

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叱責口調でビークルを降りてきたのは年若いキモンだった。「乱暴過ぎます」「知ったことか。助けてやッてンだからよ。我慢すりゃいいだろ」男は取り合わない。女は諦め、市民を誘導する。「あっちへ。そこの入り口から地下街に避難して。安全確保してあります」「ムギコ＝サン！？」タキは指差した。52

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「え？タキ＝サン？」「何だ？知り合いか？」「お……オレはタキだ。情報屋でテンサイ・ハッ……」「OKOK……俺のことはタフガイと呼べ。じゃあな。オタッシャデ。早く逃げろ。他の連中とはぐれンなよ」「ま……」タキは誘導に従いかけ、我に返って足を止めた。「待ってくれ。あのよォ」　53

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◆◆◆ 54

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その男……アナイアレイターが崖上に立つと、襤褸のマントは風にはためき、ザワザワと蠢いた。風ばかりではない。襤褸自体が、生き物のように動いているのだ。小さな鉄の棘の集まりで……それが彼のジツなのだった。「見ろ」顎を動かし、促した。アズールは横に並ぶ。眼下に都市の影が見える。　55

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「大したもんじゃねえか」アナイアレイターが言った。都市は巨大な門を擁し、接する川には熱いものが絶えず流れ込んで、邪悪な蒸気を噴き上げている。荒野に築かれた胸壁と、密集する高い塔。悲鳴を上げながら育つ鉄の大蛇の群れを思わせる。「田舎臭え他の街と、まるきり違うぞ」「……そうだね」　56

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アズールはアナイアレイターを見た。「感じるの？ニンジャスレイヤーの存在を」「勿論だ」アナイアレイターは頷いた。「……と言いてえが、当然、無理だぜ。俺は魔術師でもなけりゃハッカーでもないんでな。だが、東から来るなら、ここは必ず通る」ここは、ホンノウジと東域の境に位置する街だ。　57

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風変わりと言うにはあまりに異様なこの男とアズールが出遭ったのは、ネザーキョウ内、とある関所での騒ぎの折だった。アズールは奴隷輸送のトラックを追っていた。この男は異様な佇まいを咎められていた。男はゲニン達の攻撃に、恐るべきジツでもって応じたのだ。　58

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ネザーキョウにおいて、文明社会からの来訪者、それもニンジャとなると、実際非常に珍しい存在だ。互いに言葉がかわされ……道行きを同じくする事となった。「目指す相手が……多分、通る……」アズールは呟いた。「それだけで決めたなんてね」「他に手もねえし、俺の勘は鋭い」「魔法使いらしく？」59

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「うるせえぞ。お前もよっぽど酔狂だ。その退役軍人のナントカって奴の顔も見たことねえんだろ」「写真はある。見せようか」アズールは懐に手を入れる。アナイアレイターは首を振った。「そういう事じゃねえんだよ。赤の他人だろ、って話だ」「……それが何か？」「情に竿挿す奴はアホだ」　60

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「他にやる事もないし」「だろ？ネザーキョウのこんな所で……お前はアホなんだよ」「つまり、アホが２人だ」アズールは言った。アナイアレイターは黙り、腕組みした。アズールが求める男は実際、見ず知らずの、ジョージとかいう退役軍人だ……ネザーキョウの外の小村で、人捜しの願いを乞われた。　61

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一攫千金の噂に釣られ、年甲斐もなく国境を越えた元ヌーテックのジョージが、５年以上音沙汰なし。彼の老いた母は案じていた。老いた母は、アズールを育てた老女に、少し似ていた。依頼を受ける事にした理由には、それもあったかもしれない。やがてアズールはジョージの住む家を見つけた。　62

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ジョージはこのネザーキョウでメイプル農家の娘と結婚し、家庭を築いていた。アズールにはどうでもよい事だ。しかし、便りのひとつでも考えたらどうだ、と言ってやるには、少し機を逸してしまった。ネザーキョウで暮らしていた彼を、ゲニン達の魔手がとらえたのだ。　63

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退役軍人のジョージの耳後ろには、LAN端子の増設があった。それはネザーキョウにおいて吹聴してはならぬ身体特徴である。実際ジョージは髪を伸ばし、注意深く過ごしていたが……何かの拍子で第三者に知られてしまったようだ。彼はインターネット性を咎められ、奴隷として運ばれていったという。　64

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ほどなくして、アズールは事実を突き止める。ネザーキョウにおいて、LAN端子持ちは特定の奴隷トラックに乗せられ、運ばれて、ある都市に集められるのだ。……つまり、今２人が見ている鋼鉄の都市、ナガシノに。　65

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ナガシノは東西を繋ぐ要の都市であり……ゆえにこそ、アナイアレイターが重視していた。「ニンジャスレイヤー」は東域の支配者ジョウゴ親王に敵対行動を取り、あろう事か、ネザーキョウ民にとっての神聖地、ハリマ離宮で彼を敗走せしめたという。噂話はゲニン達の間を素早く駆けるものだ。　66

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アナイアレイターは、そのニンジャスレイヤーに用があるのだという。奇しくもアズールとアナイアレイターはニンジャスレイヤーという名を共に知る。とはいえ、それは10年以上前の事で……アナイアレイターが語るところによれば、今のニンジャスレイヤーは別の人間なのだという。　67

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ハリマから移動するならば、必ずナガシノを通る。なるほど合理的な推察ではある。彼が何故ニンジャスレイヤーを求めるのか、アズールは今のところ、それ以上の詮索をしなかった。かつて知る名前と同じ名前のニンジャに関わる謎。少し興味がそそられる。　68

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「……知ってるか」急にアナイアレイターが言った。「何を？」アズールは空色の目でアナイアレイターを見た。彼は少し笑った。「この街の別名だ。……インターネット最終処分場、だとよ。インターネットの力で鋼を鍛え、カタナやヤリを作るらしいぜ。物騒な名前だと思わねえか」　69

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【続く】