【空中空母の系譜】

1930年代初頭、米国海軍は5機の艦載機を搭載する巨大な飛行船「アクロン」と「メイコン」を相次いで就役させました。 「空中空母」とも呼べる両艦ですが、その誕生は様々な国での研究と実験が実を結んだものなのです。 本稿ではWW1期に始まる試行錯誤と発展を素描します。
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HIROKI HONJO @sdkfz01

【空中空母の系譜】 1930年代初頭、米国海軍は5機の艦載機を搭載する巨大な硬式飛行船「アクロン」と「メイコン」を相次いで就役させました。 「空中空母」とも呼べる両艦ですが、飛行船から戦闘機を発進させるという構想は、第一次大戦下にまで遡ることが出来ます。 早速、見ていきましょう。 pic.twitter.com/UbQzuyZ4wG

2020-03-13 21:09:02
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先鞭をつけたのはドイツでした。1916年後半以降、英国爆撃作戦で多数のツェッペリンを喪失したドイツ海軍は、護衛戦闘機を飛行船に搭載することを試みます。 かくして1918年1月26日、L35は空中でアルバトロス戦闘機を発艦させることに成功したのでした。 pic.twitter.com/cvvKtZT6Pj

2020-03-13 21:09:54
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写真はL35に搭載されたアルバトロス。隣にあるのは当時開発中の有線誘導爆弾(機会を改めてご説明します)。 さて、せっかく実験に成功したにもかかわらず、ドイツではこれ以上の進展はありませんでした。 飛行船団司令官のシュトラッサーは、飛行船の護衛は飛行艇の任務だと考えていたからです。 pic.twitter.com/nucygVZLs3

2020-03-13 21:10:49
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続いて登場するのは発足間もない英国空軍。1918年11月6日、飛行船R23(23Rと表記する資料もある)からソッピース・シーキャメルを発艦させたのです。 写真はシーキャメルを搭載したR23。 pic.twitter.com/5F4SiPFpUE

2020-03-13 21:11:33
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R23にぶら下がるシーキャメル。 まだ大戦は終わっていませんから、英独両国は戦線を挟んで互いに隔絶した状況の中で、偶然にも同じ事を同じ時期に考えていた訳ですね。 ニュートンとライプニッツみたいだ。 pic.twitter.com/aZgOQbuzOM

2020-03-13 21:12:27
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しかし、WW1の終結が英独の明暗を分けます。敗者となったドイツは一時飛行船から手を引いたのに対し、英国は開発に邁進しました。 そして、1920年代前半に立案された「帝国飛行船構想」(Imperial Airship Scheme)では、本国と世界各地の植民地を結ぶ動脈として位置づけられるのです。 pic.twitter.com/lzY6qlKWsN

2020-03-13 21:13:08
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当時、英国からオーストラリアまでの旅には汽船で1か月余りを要しましたが、飛行船なら僅か11日。しかも同時代の飛行機とは比較にならない搭載量を誇ります。 地球上のあちこちに植民地を抱える当時の大英帝国には、うってつけの輸送手段だったわけです。 写真はトロント上空の英飛行船R100。 pic.twitter.com/tFHfQVABua

2020-03-13 21:14:07
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この構想はしかし、1930年に発生したR101の悲劇的な墜落事故によって、終止符を打たれる訳ですが、本題とは関わりが薄いので割愛します。 pic.twitter.com/2nd5oUchIH

2020-03-13 21:14:51
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さて、「帝国飛行船構想」の面白さは、その初期段階において、4機~5機の戦闘機の母艦となる飛行船を開発しようとしていたことにあります。 これは、敵爆撃機の本土侵入を阻止するため、洋上の、しかも高度4,500メートルから迎撃機を発進させようという破天荒な発想に基づくものでした。 pic.twitter.com/hgnNIFGYPh

2020-03-13 21:15:43
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WW1後半、高空で侵入するゴータに手を焼いた経験が、こんなところにも影響を及ぼしたんですね。 pic.twitter.com/YvwbiWPyxa

2020-03-13 21:16:46
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テストベッドとなったのは空軍所属のR33。ちなみに、このフネはR級ツェッペリン・L33の残骸(1916年9月にロンドン上空で損傷、不時着したものを鹵獲)を参考にしただけあって、外見はよく似ています。多分。 左がR33、右がR級。 pic.twitter.com/n8CDwtmmWT

2020-03-13 21:18:07
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母艦として運用するためには、発艦だけではなく、着艦も可能でなければなりません。 R33にはTrapeze(空中ブランコ)と呼ばれる可動式の係留装置が備えられ、ヨーヨー釣りの要領で艦載機を収容することになっていました。 1925年12月4日、同艦は軽快な連絡機(DH53)を用いた着艦実験に成功します。 pic.twitter.com/s8S0fGpWlO

2020-03-13 21:19:17
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この快挙を受けて、翌1926年には戦闘機(Gloster Grebe)の発着艦が試みられますが…発進はうまくいくものの、遂に収容には成功せず、とうとう英空軍は計画を放棄してしまうのでした。 写真は戦闘機を搭載したR33。 pic.twitter.com/pImX2MWnnP

2020-03-13 21:20:15
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同じころ、大西洋を挟んだ新大陸では、米陸軍がより大がかりなTrapezeを搭載した軟式飛行船を用いて、着艦技術を完成させていました。 写真は米陸軍の軟式飛行船、TC-7。1923年から24年にかけ、小型の連絡機を用いた実験で、繰り返し成功を収めています。 pic.twitter.com/Kiv4sEkQfE

2020-03-13 21:21:12
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実験に用いられたSperry連絡機。機首の真上にあるフックは回収のためのもの。 尤も、私には米陸軍が何故こんな企てをしたのかが今一つ分かりません。詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示頂けますと幸いです。 pic.twitter.com/S51iDAoNgn

2020-03-13 21:22:20
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結局、せっかく難しい実験に成功しながら、米陸軍はそこから先に歩みを進めることはありませんでした。 個人的には、もともと目的意識が希薄だったような気がします。 そうです、超大国はこんな変態兵器に頼らなくとも良いのです。 写真は陸軍の軟式飛行船、D-3。 pic.twitter.com/IkQEhXISJC

2020-03-13 21:23:13
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と思ったら、後継に躍り出たのは同じアメリカの海軍でした。 彼らは長大な航続力を有する飛行船に艦載機を搭載し、遠洋の哨戒、および制空に用いようとしていたのです。 そう、超大国にはこんな変態じみた試みにもリソーセスを割く余裕があるのです。

2020-03-13 21:24:19
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ドイツで建造された硬式飛行船「ロサンゼルス」にTrapezeを取り付け、実験は開始されました。 そして1929年7月3日、ヴォートUO-1偵察機の収容にみごと成功します。 pic.twitter.com/ExQWfFyWaE

2020-03-13 21:25:37
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ヴォートUO-1。機首の上にある装置は飛行船に着艦するためのもの。 pic.twitter.com/qyHJoNKR5m

2020-03-13 21:29:34
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あとは皆さんご存知の通り。米海軍は5機の艦載機を搭載する本格的な「空中空母」、アクロンとメイコンを就役させます。1930年代初頭の事でした。 写真は処女航海中のアクロン。 pic.twitter.com/Ib7oEPWOmS

2020-03-13 21:30:31
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アクロンの格納庫に収容されたF9Cスパローホーク戦闘機。 同機は飛行船での運用のために特別に開発されたものでした。 pic.twitter.com/bKsmSbt0KJ

2020-03-13 21:31:37
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2隻の空中空母のハナシは、日本語のWIKIでもそれなりに詳しく載っていますので、ご興味のある方はご参照ください。 本稿では、動画を紹介するに留めます。こちらはアクロンへのF9Cの着艦シーン。 youtube.com/watch?v=1FIm5q…

2020-03-13 21:32:14
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両艦は米海軍の期待を一身に担う存在でしたが、アクロンは1933年に、メイコンは1935年に、いずれも事故で喪われ、さしもの米海軍も巨大な硬式飛行船の運用から手を引いたのでした。 pic.twitter.com/lVu94166GB

2020-03-13 21:33:56
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