【ネタバレ】博麗咲霊の話
- hachisu716
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あと霊夢のお母さんがやかんに入れた水をひと晩おいてカルキを抜いてから氷作る描写あるけれど、 あれ田舎の親戚とかおばあちゃんとかがやりがちなやつで、塩素を抜いてから製氷すると、塩素が抜けたせいで雑菌が入るので衛生的にはあんまりよくないんじゃないかと思う……。
2021-07-23 08:43:48⑦帰る栖 鳥が羽搏く小さな音が聞こえた。 咲夜はぼんやりと空を見上げている。 「姉さん、」 “鳥”は、“巣”から出ていった。 霊魂は追い出した筈だ。 けれど、咲夜はいまだ夢を見るように、定まらない眸で何処かを彷徨っている。 何か危うい気配がして、霊夢は思わず姉の手を取った。
2020-03-13 20:01:12何処かへ吹き飛んでしまう頼りのないものを、引き留めるように。 “鳥”が抜け出した今、もう、道は明らかになり、帰ることが出来る筈なのに。 「……帰ろう」 零れるように霊夢が口にした言葉に、咲夜は視線を彷徨わせたまま、ただ音を辿るように呟く。 「…………帰る…………?」
2020-03-13 20:05:05握った手の中の細い指先には、力がない。 咲夜は、もう一度繰り返す。 「……帰るって」 頭の中でようやく意味を成した言葉に途方に暮れるように、もう一度、霞のかかった眸を揺らしながら。 「────……何処に」
2020-03-13 20:11:30霊夢は、おのれのどうしようもない間違いに気が付いて、息を呑んだ。 ──間違っていたのだ。 栖(すみか)が分からないのに、“鳥”は関係がない。 逆なのだ。 “鳥”は、栖へと帰りたかった。けれど、帰り道が分からなかった。 分からないなりにも、“鳥”にははっきりと、帰る場処があった。
2020-03-13 20:16:36……けれど。 けれど、姉には。 「……姉さん……」 “鳥”が去った今。 ──姉には、〈帰る処(ところ)〉がなくなってしまった。 帰り方を忘れていたのに、帰るべき栖のほうが無くなってしまった。 ふたりが暮らすあの家は、彼女にとって……そうではないから。
2020-03-13 20:25:04「……帰るのよ」 霊夢は握り返さない姉の手を取って、強く握る。 「……わたしたちの家に」 「…………わたしたち……」 洞(うろ)に響く虚ろな木霊のように呟いて、咲夜が銀の睫毛を伏せる。 「……わたしたちの、家」 「……帰ろう、姉さん。……あそこに」 家に。わたしたちの家に。
2020-03-13 20:29:57そう繰り返してまじないをかけるように、ふらりふらりと揺れたまま動かない咲夜の手を、何とか引きながら、ようやくついて歩かせる。 家へ。 わたしたちの、家へ。 亡くなった母が台所に立つ背中が、呟く内にふと脳裏に現れて、波が引くように消える。
2020-03-13 20:34:00目の奥が熱くなるのを堪えるように、霊夢はもう一度“姉”の手を握り、家へと歩く足を踏み出した。 わたしたちの帰るところ。 ……わたしたちの帰る、すみかへ。
2020-03-13 20:35:40