カレイドスコープ・オブ・ケオス＃6

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そういう信頼の仕方というのは、私は推奨したくない」エヴァンズ中尉は顔をしかめたが、鉄格子に近づき、ロックを解除した。サクタは感嘆した。「これで貴方も同罪だあ！」「いや、私は君らをこれ以上庇いはしない」エヴァンズ中尉はピシャリと言った。「つまり、私に出来るのはここまでだ」　47

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「十分です。中尉。ありがとうございます」トムは言った。留置場のロケーションはエルスワース空軍基地の地下エリアだ。このまま中尉がはからえば、そのままさらに地下深く降り、大規模データセンター群への侵入・アクセスがかなうやも知れぬ。　48

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「どれだけ危険か、わかっているな」中尉は念を押した。「君らが死んでも関知せんぞ。警備に捕らえられても私は何の証言もせん。目的を達成するまで、ヌーテック、アルカナム、全てがお前達の敵だ。そして……成功したとしても、懲罰は免れん」トムは頷いた。サクタは「痛いのは嫌ですね」と言った。49

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「フン……」中尉は二人を連れて通路を歩いた。守衛が壁に背をつけ、三人を通した。ゲートが開く。中尉は彼らを見ずに言った。「あの裏切り者、リディーマーのケツを蹴り上げてこい」……トムとサクタはしめやかに走り出した。地下深く、旧世紀データセンターが、彼らを待つ。　50

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◆◆◆ 51

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インターネット最終処分場！それはナガシノの中央にそびえる巨大な複合鋼鉄塔である！悪夢じみた浄化プロセスによって溶かされたインターネットが煮えたぎる鉄と混じり合い、パイプラインを通って、ナガシノの各鍛冶区域へ注ぎ込む！鉄板で補強された塔内の通路は黒い獣の胎内じみて恐ろしい！　52

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「アイエエエエー……！」「ペケ……ペケロッパー……！」塔内通路を、断続的に、苛まれた虜囚たちの悲鳴が反響する。その哀れな切れ切れの声はユーレイめいていた。まるでこの鉄塔そのものが文明の墓標、インターネットの墓標であるかのようだ。　53

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「全く、どんだけ勤めても、この声には慣れねえぜ」「まったくだな」軽口を叩きながら通路を進むゲニントルーパー達は、反響する悲鳴に顔をしかめあった。「一体何をされてるんだろうな？」「水責めとか……鞭打ちかもよ」「スラッシュ＝サンの鞭か？アイツは最悪のサディストだからな」「シーッ」　54

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ゲニンの一人は指を立てた。「どこで何されてるかわからねえインターネット師どもの悲鳴だって反響するんだ……俺らの無駄口が聞かれるかも知れねえから気をつけろって、いつも言ってる筈だぜ」「罰せられたことはねえし、平気だよ……リディーマー＝サンはベイブを虐めるのにお熱なのさ」「ムフ！」55

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「ネザーのオニ戦士と一緒に、オニのオイランを運び入れたッてんだからな。この有事の最中に、たいした度胸だぜ」「そこはお前、質実剛健！武器の供給は鰻登りで、俺たちの給金も右肩上がりだ。デキる領主で俺らは幸せだぜ。ベイブには目をつぶろうや」「だな……ン？」彼は床の違和感に気づいた。　56

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迷路じみた塔通路の分岐路から、茨めいて床を這う鉄色のもの。はじめ、それがLANケーブルではないかと疑った。だが、違った。「アイエッ、グワーッ！？」それは鋭利な返し刃が生えた有刺鉄線であった！気づいたときには、ゲニンの足首はトラバサミめいて咥えこまれていた！「グワーッ！」　57

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絡め取られて、ゴロゴロと床を転がるゲニンは分岐路の奥へ消えた！「サモ＝サン！どうした！ふざけているのか！」もう一人のゲニンが泡を食って後を追おうとする。そこへ後ろから駆け寄ったアズールが、銃底を後頭部に食らわせた。「アバッ……」ゲニンは頭骨をくだかれ昏倒、倒れ伏す。　58

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アズールが見ると、闇の中に怪物じみた金色の目が光った。アナイアレイターが進み出た。「こっちも片付いたぜ」「……急ごう」二人はしめやかに塔通路を進んだ。アナイアレイターは床に杖を打ちつけ、何かの反響を聞いているようだった。「何を？」「近い声と遠い声がある。近い方から行くぜ」　59

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スロープを上ったと思えば、今度は下りの階段だ。ニンジャであっても現在地点の感覚が麻痺してくるなか、アナイアレイターは杖が返す音を頼りにアズールを導いた。やがて、行く手を遮る鋼鉄フスマ。アズールは銃を向けるがアナイアレイターが制し、左手を押し込む。ゾワゾワと金属が鍵穴に入り込む。60

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ガチャリ。鋼鉄フスマを無効化。左手の鉄触手を引きずり出す。「お前もニンジャなら、いちいちブッ放すよりスマートさを覚えな」アナイアレイターは言った。「腕力でこじ開けるとかよ」アズールは首を横に振り、手振りでアナイアレイターを先に行かせた。やがて彼らは湿った閉所に辿り着いた。　61

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「ウ、ウッ、ウ」「ゲホッ、ゲホッ」小さな嗚咽や咳が聞こえる中に進むと、そこは……牢獄であった。獄は暗い。アズールは小さなライトを振り、闇を照らした。鉄格子の向こうで、人々が蠢いた。十数名いる。「ア、ア……」「ウウ……」「オイ」アナイアレイターは格子を掴んだ。「ジョージ、いるか」62

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「ジョージ……」「ジョージ」「ああ……ジョージか」「かわいそうに」彼らは囁きあった。力なく横たわっている者らも多かった。彼らはみな、首にLAN端子があった。「退役軍人のジョージ。誰か、知っている？」アズールが尋ねた。一人が通路を指差した。「もう、連れて行かれたよ。浄化にね……」　63

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「浄化……？」「そ……それより私のジュラルミン・ケースを見なかったか……」鉄格子に這い寄ったのは、奇妙なアンモナイト型のフルヘルム・メンポを被った男だった。顔はわからぬが、ひどく痛めつけられ、憔悴しているのは確かだ。「貴重なアンモライト化石が……助けておくれでないか」　64

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「今は化石はどうでもいいんだ！黙ってろ」囚人の一人がその奇妙な男を咎めた。そしてアナイアレイター達を見た。「奴はケチなアンモナイト泥棒らしいんだ。それよりジョージ……彼は最近、上に連れて行かれた」「上？」「インターネット浄化の人員だよ。まだそう日は経ってない……生きているかも」65

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「浄化ってのは、どういう事だ」「決まってる」彼は言った。「UNIXデッキにLAN直結で繋いで、過負荷をかけさせると爆発する……そうやって、インターネット自体を打ち砕いて、破片を溶かして鉄に混ぜるんだ。そうやって、ナガシノのインターネット鉄は作られるんだ……！オヒガンの鉄なんだ！」　66

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「無茶苦茶じゃねえか。直結した奴が死んじまうぞ。意味があるかもわからねえ……」「ああ。わからない。だがネザーキョウの上の奴らは、そのありがたさを信じてる。それで回ってるんだ」男は噛みしめるように言った。「実際、それでイクサも勝ってきた……」「詳しいね」アズールが言った。　67

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「僕はネザーキョウの人間だ。ネザーキョウで、インターネットを探して生きてきた」男は言った。「僕のような人間は、リコナーと名乗っている……当然、巡り巡って、こんな運命が待っていた」「運命！それは獄死だ……惨めなのだ」牢の端でアンモナイトの男が譫言めいて呟き、震えた。　68

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「ジョージを助けたいなら、急いだほうがいい」リコナーは鉄格子に顔をつけた。「大切な人なんだろう？家族か？家族は大事だ……。浄化プロセスはそう長く保たない。爆発して死ぬ前に、助けてあげてほしい……」「ヤア！ヤーアア！私じゃない！私じゃないぞ！」アンモナイトの男が不意に叫んだ。　69

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彼はアナイアレイター達の肩の後ろを指差し、ひきつけを起こしていた。「ヤーアアア！私をこれ以上痛めつけないでくれ！ひどくしないで……！」二人は振り返った。前触れ無く、闇の中にニンジャが立っていた。胸の前に交差させた手に拷問鞭を持ったニンジャは、凄まじい笑みを浮かべた。　70

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【続く】