問題作『連ちゃんパパ』は本当に"吐き気を催す邪悪"なのか?

面白かった『連ちゃんパパ』の良さについて語りました。
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惣流・ドルフ・ラングレン弐号機 @YZNlfuMP8Vbaaoj

巷で話題となった『連ちゃんパパ』を読んでみた 前評判では主人公の所業に対して"吐き気を催す邪悪"や胸糞過ぎる等の感想が溢れていて、怖いもの見たさのドキドキと同時にワクワクもしながら期待を膨らませた。 読了後の感想は確かに不快感はある。が、同時に主人公に対して"痛快"さも感じる漫画だ。 pic.twitter.com/QxHAK49O0W

2020-06-07 04:29:45
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パチンコ狂いの妻に家出された高校教師である至って普通な小市民、日之本進が自身もパチンコをキッカケにして、倫理観の欠如ぶりを露にしていく様をコミカル、或いはシニカルに描写していくのが独自の作風であり見所だ。 主人公を悪人として描く其の形態は"ピカレスクロマン"のジャンルの範疇だろう。 pic.twitter.com/mQoHGu8jJS

2020-06-07 04:47:58
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古くからあるピカレスクジャンルの定義としては大まかに、 一人称の自伝体 エピソードの並列・羅列 スラムなどの下層出身者で社会的に弱者、または不適合者の存在の主人公 社会批判的、諷刺的性格 等が挙げられる。 全てではないが『連ちゃんパパ』にも幾つか当て嵌まる項目がある。

2020-06-07 05:00:32
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ウシジマくんや銭ゲバ等と比較する感想も見かけたが、数あるピカレスク物と異なるのは、あくまで連ちゃんパパはコメディ漫画である事だ 進の悪びれない(或いは自覚が無い)行動と其の顛末は、とてもシニカルな笑いだ 人によって見方は変わるだろうが、自分はこの漫画のシニカル(冷笑的)さには笑った pic.twitter.com/2ptiYquTxU

2020-06-07 05:13:38
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とは言え、進の妻である災厄の元凶・雅子のフィリピン回のオチには流石にゾッとさせられる物があった。 因果応報で進が散々な目に終わる回が多かったイメージを逆手にとった異色のエピソードであり、勘違いオチの定番予想を外したとても良く出来た回でもある。 pic.twitter.com/nzzTNGX7x6

2020-06-07 05:39:10
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主人公・日之本進がどれ程の"吐き気を催す邪悪"な存在なのか? そして其の非道な行いにある種の"痛快さ"を感じてしまった感覚の起因はドコから来ているのかを、ちょっと検証してみよう。 因みに一番に"吐き気を催す邪悪"と聞いてイメージするキャラクターはこの人↓ pic.twitter.com/PPNTnpwPzT

2020-06-07 05:47:20
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まず進の人格性を形容する例えとして「サイコパス」というワードをよく見かけた。 サイコパスとは反社会性パーソナリティー障害の総称であり、その定義は以下の通りだ。

2020-06-07 05:58:50
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良心が異常に欠如している 他者に冷淡で共感しない 慢性的に平然と嘘をつく 行動に対する責任が全く取れない 罪悪感が皆無 自尊心が過大で自己中心的 口が達者で表面は魅力的 ここまで条件が揃えば社会生活において他者への迷惑を省みないという意味では、ほぼ無敵とも言える精神構造となる。 pic.twitter.com/vasMaMNCK1

2020-06-07 06:07:34
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確かに自らが陥れる他者に共感性を示さない進の詐欺師としての思考傾向はサイコパスに近い。 だが元々進は人望の厚い教師であり、どちらかというとお人好しタイプな人間でもあった。 サイコパスは生まれついての先天的な物だが、進の場合は後天的である"ソシオパス"の方に近い分類だろう。 pic.twitter.com/ck6EVqS1Fc

2020-06-07 06:16:52
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進は別居した妻に300万円で自分の息子を売り渡す畜生だが、婿入り先の家に息子を勝手に養護施設に入れられた時には激昂感情を見せる。 息子に必ず迎えに来ると約束をする人情的な父親の面もちゃんとある すぐ後に諦めてしまう堕落性ではあるが 息子は可愛くて大切だが自分も等しく大切という心理だ。 pic.twitter.com/mylFVaAxHa

2020-06-07 06:47:27
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作中一番の人情味を魅せる高利貸しのヤクザもまたこのタイプだ。 自分が感情移入出来る対象には慈悲を見せるが、其の範疇外の者に対しては徹底的に無慈悲であり冷酷さにおいては進なんて敵にすらならないだろう。 ソシオパスが厄介なのはこういった感情移入させる共感性や愛嬌を魅せる面にある。 pic.twitter.com/tpleM4T7EG

2020-06-07 07:08:50
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だが真性のサイコパスは感情移入させる余地すら無いので、ソレ等と比べると『連ちゃんパパ』のキャラクター達はそこまで邪悪では無いと相対的には感じてしまう 同じ作者の『きっといつかは幸福寺』も読んだが、こちらは駄目人間だと思わせたキャラ達が人情味からなる"良い面"を魅せていくという作風だ pic.twitter.com/xP5Mfv0Gic

2020-06-07 07:17:47
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真逆で正反対な作風だが、性質としては人情物の見せ方を熟知した同種の物だ。 『連ちゃんパパ』はその"愛嬌"ある作風によって胸糞と呼ぶ程には憎めない何かがある。 因みに自分は昔底辺の職場で働いていた時の、ドクズだが妙に愛嬌ある人達との人間関係を思い出して少しほっこりとしてしまった。 pic.twitter.com/Lb7GI0Dumx

2020-06-07 07:26:21
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次に進の行動にある種の"痛快"さを感じてしまった要因についてだが、それは前半部に説明したピカレスクロマンというジャンルが与えるちょっとしたカタルシスにある。 悪漢主人公の活躍を描いた創作物は恐らくシェイクスピアの史劇『リチャード三世』が最初だ。 pic.twitter.com/VjTy4h2pLj

2020-06-07 14:55:39
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生まれながらの不具者であるグロスター公は卑屈であるが、その反骨精神をバネにして政敵になりえる兄弟や果ては幼き甥までも手にかけ亡き者にして行く 王位についた先にあるのは因果応報な破滅だが、最初から葛藤を一切見せない精力的な精神構造は同じシェイクスピアのマクベス以上に清々しい物がある pic.twitter.com/rNzT36KTPg

2020-06-07 15:14:06
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グロスター公の軽快な台詞回しは舞台でも人気を博したらしい 「口先ばかりのこの虚構の世界、今更色男めかして楽しむ事も出来はせぬ、そうと決れば道は一つ、思いきり悪党になって見せるぞ、ありとあらゆるこの世の慰みごとを呪ってやる」 冒頭のこの台詞にピカレスク物に感じる魅力が凝縮されている pic.twitter.com/HAKtpBFuex

2020-06-07 17:19:32
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『連ちゃんパパ』での一般人が道を踏み外して行く過程は、米国で大ヒットしたドラマ『ブレイキング・バッド』と似通った筋書きだ。 高校の科学教師ウォルターは末期癌を宣告され、家族に遺す資金調達の為に麻薬製造へと乗り出す。 軌道に乗ったウォルターは裏社会の顔役ハイゼンベルクとして暗躍する pic.twitter.com/ogSeNgQdnT

2020-06-07 17:30:22
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『ブレイキング・バッド』も『連ちゃんパパ』と同じくシニカルな笑いとユーモアを見せてくる黒い喜劇だ。 だがコメディ漫画と比べたら流石にシリアスな演出も多く、ドラマの重さや質量も違う。 pic.twitter.com/0dHnLX6HMP

2020-06-07 19:54:03
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その点では『連ちゃんパパ』は『ブレイキング・バッド』が持つ重厚感を取っ払い、上手く骨組みだけ残し見事に簡略化したと言ってもいい。 僅か43話=単行本9巻分程でブレイキング・バッド6シーズンに近い感覚の物語が楽しめる訳だ。 極端な例えではあるが、あながち的外れではないと思う。 pic.twitter.com/77DmfcipZ9

2020-06-07 20:15:28
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歴史上最も悪名高い人物として認知されているのが、アドルフ・ヒトラーだ。 そんなヒトラーをユーモラスに描いた作品がある。 一つは水木しげるの『劇画ヒットラー』であり史実に忠実ながら悪人ヒトラーを、水木しげるのキャラクターらしく飄々としていて少なからず感情移入も出来る人物として描く。 pic.twitter.com/8mVsyg1XcY

2020-06-07 20:32:28
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そしてもう一つがドイツ本国でヒットし、高い評価を受けた小説とその映画化の『帰ってきたヒトラー』だ。 1945年の死の寸前から現代のドイツにタイムスリップしたヒトラーは総統のソックリさんとして、コメディ番組に出演し、瞬く間に人気を獲得して行く。 pic.twitter.com/K4Uhwjh8FC

2020-06-07 20:46:43
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本作でのヒトラーは現代とのギャップに天然ボケをかますが、本人は至って真面目な愛嬌のある人物として描かれる。 コメディアンとしてのし上がるそんなヒトラーを読者、又は観客は"あの"ヒトラーを身近な人物として応援する気持ちになる しかしヒトラーの本質は"あの頃"と何も変わってはいないのだ。 pic.twitter.com/3S402ww4mV

2020-06-07 20:56:29
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こういった前半中盤部の"痛快"さは『連ちゃんパパ』にも通じる物がある。 進の手口は人として最低な物だが、主人公であるが故に興味の対象として、とても惹き付けられる。 人によっては嫌悪感を抱く描写だが、非道からなる行いもまたピカレスクジャンルにおいて重要なカタルシス要素なのだ。 pic.twitter.com/WmVnRI5NAz

2020-06-07 21:11:24
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『帰ってきたヒトラー』の原作者がインスパイアされたのがベルギーの映画『ありふれた事件』だ。 撮影班が殺人強盗犯ベンに密着取材をし、次第にベンに魅せられ倫理のタガが外れて行く過程をモキュメンタリータッチに描く。 毒気が強く、人に勧めたら一発で関係性を失う危険があるので注意が必要だ。 pic.twitter.com/pHdEH7l7qx

2020-06-08 01:10:39
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『連ちゃんパパ』や『ブレイキング・バッド』にしろ悲劇性を喜劇のオブラートに包むやり方は、チャップリンの映画から使われている手法だ 「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」という名言が有名だが、視点をちょっと変えるだけでより我々にとって観易いジャンルとなる画期的な工夫だ pic.twitter.com/IXHEyPNqRh

2020-06-08 01:18:47
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