ラテンアメリカ版『十二国記』 ぷりめ文書

『十二国記』の世界観が、仮に中華王朝ではなく南米ラテンアメリカだったら、という話です。面白いですよ。
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@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 そこに憲兵少佐が現れた。部屋にはいれば知事を殺すと村人は言ったが、少佐は気にも留めなかった。 少佐は少女を見、少女は少佐を見た。 憲兵少佐は、聖霊よ、なぜわれらの元を去られたのですか、と話しかけた。あなたがいなくなって、首都は地獄のような有様だ、人が犬をうらやみ、

2020-05-19 17:03:42
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 母親は子が生まれると降りかかる苦難を思って泣くのです、どうかお戻りください。 少女は答えた。あなたがたが、そのようにしたから、私は去るのだ。 少佐は少女に跪いて、祈るように両手をあわせた。この国は内戦勃発寸前だ、隣国も領土を狙っている、あなたが戻ってくれれば。

2020-05-19 17:07:24
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 少女が答えた。あなた方に防げないから、私が去るのだ。 少佐は少女の軍服の裾に縋りついた。次の大統領はもうお決めになったのですか。お決めになったのなら、だれなのですか? もう、それだけ聞ければ満足ですから。 少女はひとことだけこたえた。あなたではない。

2020-05-19 17:10:48
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 このあいだ少佐は、静かに部屋の中の人々を観察して、これはと思うものを三人に絞った。 知事、司令官、警官。精霊は大統領のそばを離れないのだから、この部屋の中のしかるべき者、この三人のうちの誰かが次の大統領だ。 そして、自分の回転式拳銃には弾が六発ある。

2020-05-19 17:14:41
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 そのとき、とつぜん窓の外で大きな音がした。弾薬を入れていた荷車に火がついたのである。部屋の者たちは身をすくめ、あるいは伏せた。 そのときとっさに、巡査が少女を、少女が巡査をかばうのを見て、少佐は誰が次の大統領なのか知った。 少佐は六発すべてを巡査に撃ち込んだ。

2020-05-19 17:19:52
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 少佐は村人に取り押さえられた。しかしもう遅かった。彼は自分がなすべきと思うことをなしたのである。 少佐は、次の大統領は死んだ、精霊はもとの大統領に帰るのだ、と言った。 少女は、ただ一言、あなた方がそうであるから去るのだ、と言った。

2020-05-19 17:23:20
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 村人も知事も司令官も為すべきことを知らなかった。拳銃弾を六発も至近距離から撃ちこまれて、巡査の制服は赤く染まっていた。 司令官と知事が、敵のはずの巡査を調べ、息を楽にするために襟を開こうとして、もう死んでいる、苦しむいとまもなかっただろう、と言った。

2020-05-19 17:27:30
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 しかし、少女は落ち着いて言った。なぜ死ぬだろうか、次の大統領であるのに。死体に政務は執れない。 少女はしかるべき印を結んで、血にまみれた両頬に接吻した。 巡査が苦し気にうめいたので、人々は死体が動いたのだと思い、巡査が医者を呼んでくれと頼むのをしばらく遠巻きに眺めた。

2020-05-19 17:32:12
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 数日後、医師は巡査が全快したと判断した。医師は陽気な男で、六発も撃たれて重要な臓器も血管も骨も傷ついていないものは初めて診た、まるでパズルみたいに奇麗に避けている、レントゲン写真を病院の玄関に飾って良いか、と尋ね、巡査は好きにしろと答えた。

2020-05-19 17:35:48
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 全てのものはしかるべく整った。 兵営の司令官だった大佐は、地方軍の新司令官になった。彼は兵営の部下たちと元からの司令部要員からしかるべき者を集め、この地方の軍兵はことごとく彼に従った。 知事も味方に加わった。彼は少佐と巡査を見て少女が精霊であると信じたのである。

2020-05-19 17:42:37
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 二人の村人もしかるべく役目を任された。 そして巡査はというと、新大統領を名乗れという少女に首都も抑えぬ大統領がどこにいると反論し、とはいえ一応頭目なので『暫定統治評議会議長』を名乗ることになった。暫定とはいつまでで統治範囲がどこまでで何を評議するのか本人も知らない。

2020-05-19 17:48:20
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 この州のささやかな反乱軍が、首都を制し全国を制して、やがてはこの国の将来の歴史の教科書にも載るのだと、今の段階で知っているのは、議長閣下の隣で笑う少女だけである。(了

2020-05-19 17:50:32
@ぷりめ @prime46502218

このあと、精霊に興味津々なメガネのイギリス人研究者とか、この国の辺境に勝手に独立国を作ったと宣言するアメリカ人とか、ジャングルに存在する逃亡奴隷の国とか、親衛隊の愉快な御一行様とか、中国よりさらに奥にあるという謎の国ハポンのサツマの剣士とかが出てきます。

2020-05-19 18:33:20
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 精霊の見た目がメスティーソ(先住民族と白人の混血)なのは、 「欧州文化と南米文化」 「都市と農村」 「ヨーロッパ的合理主義と、マジックリアリズムに代表される現実のあいまいさ」 の二面性を持った、ラテンアメリカの人格化にふさわしいと思ったからです。 今考えました。

2020-05-19 18:57:11
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 この精霊さん、見た目が褐色少女で、しゃべり方がラテンアメリカ文学で、キスやジャスチャーを重視して、呪術か奇跡か良く分からない力を持っていて、在り方は麒麟という、一国福音主義のイエス・キリストみたいな存在になってますね。 で、巡査はJCSのユダですね。

2020-05-19 19:57:16
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 ・神(でしょう、ほぼ)が聖なる少女の姿 ・巡査が一度死んでよみがえる ・キス ・印を結ぶ(サイン) など、アニミズムとキリスト教がごっちゃになって、原始キリスト教にあっただろう呪術的要素が復活しているようにも見える。ラ米です。

2020-05-19 20:07:02
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 「力で王になる」のがシステム上あり得ない十二国記なのに、おもっくそ反乱軍の話なのも南米です。 「ブラジルではヴァルガスが(1930年に)大統領になるまで」国土のどこかで常に反乱がおきていたそうで。ラ米文学でも独裁者と反乱は避けて通れない重要テーマだそうです。

2020-05-19 21:21:56
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 この国、どんな状況なんでしょう。技術レベルにもよりますが、見るからに貧乏ですよね。軍がトラック持ってないし。 でも貧しい山村に巡査がいてラジオがある。たぶん村に貸付たか強制的に買わせたのでしょう。社会公正党かその分派が農村でオルグするのを恐れているのです。

2020-05-19 21:26:49
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 南米はどこも都市部と地方の経済格差がものすごいので、首都には路面電車や金持ちの自家用車が走ってたり、子犬を連れたマダムが社交界してたり、今回出てこなかっただけで実は飛行機ももうあったりしそうです。 首都に入った巡査くんたちの兵士が、立小便したり痰はいて顰蹙買いそう。

2020-05-19 21:31:55
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 今回はたまたま本物(?)の精霊でしたけど、この調子で精霊を名乗って扇動したり反乱起こすやつ沢山いそうです。偽ドミトリーの乱とか、見た目からしてコサックなのに何故かピョートル三世だと民衆に信じられていたプガチョフの乱とか、ああいうのです。君主制じゃないのに。

2020-05-19 21:40:06
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 #ラ米銀英伝 をほかの方も書いてくれると私が喜びます。 みんなも書こう、ラノベ(ラテンアメリカ・ノベル)!

2020-05-19 22:41:21
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 アドリブでさらっと書きましたけど、精霊ちゃんの「自分は運命だ」「人の上に立つものは運命を信じるな」という言葉、なんか重いですね。 因果がひっくり返って「運命さえ繋ぎ止めればうまくいく」と考えてカルトにはまる王様や社長やタレントの多いこと。

2020-05-20 13:59:15
@ぷりめ @prime46502218

#ラ米十二国記 憲兵隊の少佐(と、そのボスの大統領)は、まさに「国をよく治めていれば精霊の加護がある」の因果がひっくり返って「精霊の加護に頼って乱れた国をなんとかしてもらおう」としていた。神頼みですね。 奇跡を実際に起こす存在がずっと身近に居たら、無理もないですけど。

2020-05-20 14:02:14
@ぷりめ @prime46502218

時代にもよりますけど、 「大砲が全軍あわせて10門(戦線に10門ではなく)」 「敵に戦車!」「どうしよう、我が軍にはないぞ」 「動く機関銃は大隊に一丁しかない」 「あれは飛行機か?」「生まれて初めて見ました」 という『カタロニア賛歌』風、逆独ソ戦になりそう。日本って列強だったのだな。

2020-05-18 19:32:54
@ぷりめ @prime46502218

『最悪の民主主義と最良の専制君主ではどっちがマシか』の銀英伝も、 『最良の君主が不老不死なら』という十二国記も、 「中央政府の命令が末端まで届いて、報告が正確で、民衆に順法意識がある」こと前提なので、すごく日本的というか、東アジア的な感性だと思います。南米やアフリカの感覚ではない。

2020-05-17 11:54:18