ベートーヴェンのピアノ曲分析

ベートーヴェンの生誕250周年記念に、ベートーヴェンのピアノ曲を弾いてみての感想・分析。
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Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンとシェーンベルクの作曲変遷は割と並列的に捉えられるかも知れない。既存書法(古典/ロマン派)から始まり30歳代前半で発展的に新たな様態(中期/無調)に到達し表現の幅を拡大し、スランプの後40歳代後半で新たな制約(対位法的書法/12音技法)を獲得し創作が活性化した。

2020-06-09 23:26:11
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンが二十歳前に書いた2つの前奏曲Op.39は、彼によるJ.S.バッハの適正率クラヴィーア曲集の咀嚼結果だろう。12の全ての長調を経巡るこれらの曲は、ベートーヴェンのJ.S.バッハへの関心の中心が機能的に推進する転調にあったことを示唆し、実際その転調は彼の作風に採り入れられている。

2020-06-14 00:38:54
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンの『リギーニのアリエッタ「愛よ来たれ」による24の変奏曲』WoO 65は、1変奏1ネタみたいな感じでスタイルとしては後期の『ディアベリ変奏曲』Op.120に近い。フィナーレでは若い頃のベートーヴェンの武器だっただろう転調技術のこれみよがし展開もあり、初々しい。

2020-07-22 00:36:50
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

『ロンド・ア・カプリッチョ』Op.129。主題とエピソードを目紛しく交互に登場させ、得意の変奏と転調で変化をつけている。全体的構成はあまり練られたものではなく、その場その場で次の展開を付け足した感じだ。若かりしベートーヴェンが得意だったという即興演奏の様子に近い曲なのではないか。

2020-07-24 01:21:20
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

パイジェッロのオペラ『水車小屋の娘』からの主題による2つの変奏曲WoO 69,70は、基本装飾変奏で深く推敲した感じではなく、これらもベートーヴェンの即興演奏の様子を示しているのだと思う。

2020-07-25 23:55:20
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ヴラニッキーのバレエ『森の娘』のロシア舞曲主題による12の変奏曲WoO71は、WoO 69,70と比べると色々凝った工夫がある。主題のロシア調はベートーヴェンの変奏技術でウィーンのコスモポリタン調に漂白精製される。

2020-08-06 00:28:25
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンの2つのロンドOp.51は、ソナタ形式のようには細かい主題間の対比や変化を強調しない幻想曲風で、2,3年後に書かれる実験的なピアノソナタOp.26,27に繋がる試みだったのだろう。

2020-08-16 22:28:55
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

7つのバガテルOp.33は、ベートーヴェンが元々ピアノソナタの中間楽章として構想していたものもあるようで、例えばNo.1はOp.31, No.3と、No.7はOp.27, No.1と関連がありそうだ。同時期のピアノソナタの楽章と比べて内容が劣るわけでもなく、不採用だったとしても全体的なバランスの問題だと思う。

2020-08-23 22:17:26
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンの6つの変奏曲Op.34は、変奏毎に調性もテンポも変えた新形式で性格の互いに異なる小品集のような趣がある。小品集はその後のロマン派の潮勢たが、変奏毎に調性の異なる変奏曲形式は彼の中でもロマン派の中でも定着しなかったと思う。

2020-08-30 22:42:39
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェン『プロメテウス変奏曲』Op.35は、バスの対位法的扱い、細かい動きの緩徐変奏を後半の重心に据えたり、フーガを入れたり、と後期の作風を先取りしている。この方向の全面展開は14年後以降の後期ピアノソナタ群まで待たねばならない。

2020-09-20 22:33:49
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ロンドWoO 49はベートーヴェン12,13歳の頃の作品で、C.P.E. バッハ辺りの影響が強いと思う。この頃のベートーヴェンはモーツァルトの曲をどれくらい知っていたのだろうか。

2020-09-22 22:51:16
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェン『「ゴッド・セイヴ・ザ・キング」による7つの変奏曲』WoO 78は、旋律線は残して和声に変化を加えていく変奏法が多め。WoO 71もそうだが、他国民謡が素材だと和声を自己流に寄せたくなるのかも。

2020-09-28 01:24:40
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

『自作主題による32の変奏曲』WoO 80は、ベートーヴェン中期における分散和音や音階進行による動機・展開の抽象化の流れの中にあり、ハ短調の中ではピアノソナタOp. 27, No.1の第2楽章と交響曲『運命』Op. 67第1,3楽章の間に時系列的に位置する。

2020-10-05 00:22:48
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンの幻想曲Op. 77は即興演奏を元にしているらしい。ロンドOp. 129と同様頻繁に転調が行われ、転調がベートーヴェンの即興演奏の武器かつ手癖であったことが窺われる。恐らく、一般にベートーヴェンにおいて推敲はこの気ままな転調を抑制する方向に働いていたのだろう。

2020-10-11 22:58:20
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンのバガテルWoO 52はソナタOp.10, No.1のスケルツォ楽章用だったらしいが、恐らく第1楽章と3拍子および曲想が被るために没になった。バガテルWoO 56はソナタOp. 26かOp. 27辺りのスケルツォ風。1803,4年に作曲とされるが2,3年くらい前っぽい。

2020-10-25 00:14:02
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

6つの変奏曲Op. 76はベートーヴェンのピアノ独奏曲が低調な頃の作品。後にトルコ行進曲と名づけられた異国情緒のある主題に、WoO 71やWoO 78のようにヴィーン風変奏をねじ込むしなやかさは乏しく、何となく固いと思う。

2020-11-01 00:51:35
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンのバガテル『エリーゼのために』WoO 59は、ソナタの楽章用だった感じがあまりしない。テクスチュアはOp.31, No.2の終楽章に近いとも言える。同時期と思われるOp. 79のような小規模な易しいソナタの計画がもう一つあってそれを想定していたのかも知れない。

2020-11-04 01:21:13
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンのポロネーズOp. 89はショパンが処女作のポロネーズを書く3年前の作。減七和音で並行下降するところはショパンの練習曲Op. 10, No. 3にも似ている。ショパンはこのポロネーズを参照する機会があったのか、または共通の元ネタがあったのか。

2020-11-09 01:27:40
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンの11のバガテルOp. 119は、前半5曲と後半6曲で作曲年代に20年近くの隔たりがあり、古典派からロマン派へのスタイルの移行も感じられる。ベートーヴェンが個人で切り開いた部分もあろうし、時代の流れに沿った部分もあろう。

2020-11-23 00:12:48
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

『ディアベリ変奏曲』Op.120で、ベートーヴェンは主題が装飾変奏向きでないと判断してか性格変奏に振り切る。ソナタの大局構造の舵取りをする転調とは異なり、各変奏の骨格を保つ範囲内での密度の濃い和声進行・転調の実験場になっている。

2020-12-07 01:03:51
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

6つのバガテルOp. 126はベートーヴェン最後のピアノ独奏曲。和声的には来るべきロマン派の兆候を捉え、彼がもっと長生きしたらその時流への順応も示しただろう。一方第6曲の3小節単位の構造等はかなり独自な冒険で、ベートーヴェンにはもっと新たな展開があったかも知れない。

2020-12-21 00:20:53
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

最後にコメントを付けていなかったピアノソナタOp.7について。ベートーヴェンがOp.2の3つのソナタで試したアイディアや技術を盛り込んで臨んだ正統派的大作。このソナタは変ホ長調だが、この後正統派的大作指向は変ロ長調に移してOp.22, Op.60, Op.106, Op.130(含む『大フーガ』)等へと続く。

2020-12-29 21:48:38