機動戦士ルナティック・ガンダム

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搬入!ルナティック・ガンダム

木船田ヒロマル @hiromaru712

「班長……」 「またエライのが来たな……マニュアルは?」 「昨晩からダウンロードしてるんですが、今62%ですね」 「背中の板切れのメーカーの連絡先は?」 「それが……メールも電話もユーザー登録なしで……」 「分かった。とりあえずハンガーに入れるぞ。話はそれからだ」

2020-07-10 22:52:03
木船田ヒロマル @hiromaru712

「補填パーツがない?」 「サイコプレートは基本的にワンオフで……どうも再生産不可能な特殊素材学的な原料が使用されてるらしく……」 「特殊素材学的な原料? なんだそりゃ」 「該当のページは殆ど黒く塗り潰されてて、接続詞しか読めません」 「現状から減ってく一方か?」 「恐らく」 「ったく」

2020-07-10 23:00:13
木船田ヒロマル @hiromaru712

「自律学習型擬似人格OS?」 「ええ」 「最近流行りだな。初めてじゃないだろう」 「それが……」 『はあい!私ルナティック・ガンダム!ルナって呼んでね!ぶい!』 「…………」 「…………」 「当直を代わってくれ。疲れてるようだ」 「班長。幻聴じゃありません」

2020-07-10 23:22:18
木船田ヒロマル @hiromaru712

「艦を降りる⁉︎ 本気ですか⁉︎」 「俺はこの技術実証艦アドミラル・ワッケインで数え切れない程の新型MSの面倒を見てきた」 「だから今回も」 「俺の仕事はMSの整備だ。魔術の百枚札を背負った身長19mの女子高生ロボの世話じゃねえ!」 「ちょ、班長、待っ……あんなん俺たちだけじゃ無理っス!」

2020-07-10 23:28:35
木船田ヒロマル @hiromaru712

「話は聞かせて貰った」 「あ、艦長!」 「確かにアレは突飛な機体だ。専門家である班長が手に余るというなら、我々はその査定を覆す術をもたない」 「そんな!」 「だが今すぐ艦を降りるのは無理だ。次の寄港地、アイランド・ロードスまでは定められたシフトで勤務してくれまいか?」 「……了解」

2020-07-10 23:33:10
木船田ヒロマル @hiromaru712

『あの〜……』 「…………」 『あの〜、サカザキ技術大尉?』 「……班長だ」 『はい?』 「班長と呼べ」 『はい……班長……さん?』 「さんはいらねえ」 『では……班長』 「なんだ」 『私……何か失礼をしましたでしょうか……?』

2020-07-10 23:56:27
木船田ヒロマル @hiromaru712

「お前さんが悪いんじゃねえ。出会い頭の事故みてえなもんだ」 『でも私のせいで……艦を降りるとか』 「聞いてたのか?」 『あ、その、複合環境センサーは特別な事情がない限り常時運転なので……』 「巡り合わせが悪かったのさ。もっと若えのにみて貰いな」 『教えて、頂けませんか?』 「なに?」

2020-07-10 23:59:54
木船田ヒロマル @hiromaru712

『私を、班長の部下の新人だと思って。MSのことを。整備のことを。私の、あるべき姿のことを』 「…………」 『駄目ですか? せめて、班長が艦を降りる、アイランド・ロードスに到着する間まででも』 「何故だ?」 『はい?』 「何故俺なんだ? プログラムだからか? 自律学習型擬似人格OSとしての」

2020-07-11 00:04:00
木船田ヒロマル @hiromaru712

『かも知れません。私の基幹認知モジュールが告げています。私はあなたに教えを請うべきだと』 「…………」 『お願いします』 「ここは軍艦だ。喋るならもっと軍人らしく喋ることだ」 『えっ』 「レッスンは明日からだ。自己診断プログラムがあるなら走らせて今日は休め。いいなルーキー」 『はい!』

2020-07-11 00:07:58
木船田ヒロマル @hiromaru712

「班長。何なさってるんです?」 「丁度いい。お前も手伝え」 「それは構いませんが。これは……ジムの予備パーツ? いや、いろんなMSの型落ちの廃棄パーツか」 「もうな。人間の手で整備できるレベルじゃねえ。俺たち整備班も整備用のMSを使う」 「ああ」 「機数制限に掛かるから登録は『工具』でな」

2020-07-11 22:33:51
木船田ヒロマル @hiromaru712

「できましたね」 「ああ。こいつがあれば子供の着替えくらいの手間で特A級外付け装備の脱着やメンテナンスが可能だ」 「名前はなんと?」 「知るか。大型汎用マニュピレータとでも書いとけ」 「L.M.M.1ですね。備品登録しときます。艦長にはなんと?」 「俺が上手く説明しとく」 「お願いします」

2020-07-11 22:40:37
木船田ヒロマル @hiromaru712

「整備……なさるんですか?」 「…………」 「知ってますよ。夕べ、一晩中アレのマニュアルを読み込んでらっしゃったでしょう?」 「引き継ぎに必要だからな」 「班長……」 「次の寄港地までは請け負った仕事だ。半端はできねえ。無駄口叩いてないで手ェ動かせ」 「了解」

2020-07-13 12:19:03

着任!テスト・パイロット

木船田ヒロマル @hiromaru712

「本日付けでGXN-97ppのテストパイロットを拝命しました。第三十二宇宙戦闘大隊、技術教練四課所属、ディードリト・ミカミ・マレーネ少尉であります。ディードとお呼びください」 「あれのテストパイロット、か」 「美人ですね班長」 「堅物っぽいな。面倒そうだ」 「自分はお近づきになりたいです」

2020-07-13 12:36:45
木船田ヒロマル @hiromaru712

「所で。MSハンガーで型式不明の異様なジムタイプを見かけたように思いますが。あれは条約違反では? GXN-97ppは通常MS二機相当の扱いなので、この艦の規定MS定数は一杯のはず」 「堅物だな。面倒だ」 「自分はお近づきになりたいです」

2020-07-13 12:45:16

***

木船田ヒロマル @hiromaru712

「何ですか! あの店番のバイトみたいなAIは!!!」 「えーと、ディードリト・ミカミ……少尉?」 「ディードでいいです!」 「何ですかと言われてもな……納品された時からのデフォルトのOSだ。俺たちゃ何もいじくってねえし、その権限もねえ」 「連邦共通フォーマットのOSに換えてください!!!」

2020-07-13 12:53:02
木船田ヒロマル @hiromaru712

「だからその権限はねえんだよ。第一、あのキャピキャピOSは航法・火器管制・搭乗者生命維持。精神操作デバイスからワイパーの駆動に至るまであの機体の全てを一括統御してる中枢だ。そっくり入れ替えたりできるわけねえだろ」 「く……!」 「それにな。アンタなんか勘違いしてるんじゃねえか?」

2020-07-13 14:36:42
木船田ヒロマル @hiromaru712

「勘違い?」 「アンタの仕事はあの機体のテスト。OSに文句を言って勝手に仕様を変えたりしたらテストにならねえだろうが。いいか少尉さん。ちゃんとやりてえ気持ちは買うが、あのままのあの機体でちゃんとやるのがアンタの任務なんだよ。頭冷やしてそこんとこもう一度考えて見るんだな」 「…………」

2020-07-13 13:00:36
木船田ヒロマル @hiromaru712

「ひえ〜、少尉、無茶苦茶怒ってましたね〜」 「お前……なに隠れてんだ」 「だって怖いじゃないですか」 「お近づきになりたいんじゃなかったのか」 「怒ってる人からは離れなさいって婆ちゃんが」 「……今日は軽く巡航テストしたんだったな。スラスターのカーボン、落としとけよ」 「了解」

2020-07-13 13:07:58
木船田ヒロマル @hiromaru712

『……班長』 「どした」 『私ってダメなOSですか?』 「どうして?」 『昨日、テストパイロットのマレーネ少尉をすごく怒らせてしまって』 「ああ、あれな」 『班長も初日はあんな感じでしたし』 「…………」 『かと言って、やめるという訳にも行かず……』

2020-07-13 13:58:04
木船田ヒロマル @hiromaru712

「すぐにやめるなんて言うんじゃねえ」 『でも……』 「お前さんはな、想定外過ぎるんだ」 『想定外?』 「人間はな、自分の理解を超えたものに恐怖する。そして恐怖したものには必要以上に攻撃的になるのさ」 『はあ……』 「少尉をどう思った?」

2020-07-13 14:00:55
木船田ヒロマル @hiromaru712

『教範に沿った丁寧な操縦をされる方です。スロットル操作もヨー・コントロールも正確で無駄がない。判断も速く、的確で未来予測の妥当性も極めて高いと思います』 「優秀なパイロット?」 『はい』 「そんなパイロットがお前を怖がってるんだ。お前の側から歩み寄ってやってくれ」 『歩み……寄る?』

2020-07-13 14:04:27
木船田ヒロマル @hiromaru712

『具体的にどうすれば?』 「さあな。向こうが怖がる原因を考えて、それを取り除けばいいんじゃねえか」 『全然具体的じゃありません』 「そこはお前さんと少尉の問題。俺の仕事はお前さんの整備とそのフィードバックだ。オールノーマル。コンファームド。そら、終わったぜ」 『ありがとうございます』

2020-07-13 17:02:08
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