タイラント・オブ・マッポーカリプス:前編 #6
サクタはデッキを操作し、別個のデータを参照した。それはネザーキョウと他地域の間でかわされる通信の総量を示すグラフだった。爆発的な増加傾向。ずっと右肩上がり、今この時もだ。モーヤマは認めた。「現在、ネザーキョウの住人とUCA市民の間で、活発な通信がかわされているのは確かだ」 45
2020-07-19 23:10:07「僕とトム・ダイス=サンの手でナガシノに攻撃を仕掛けた。そして連中のダムを壊し、堰き止められていた帯域を解放した。そういう事です」サクタは記憶を反芻した。「デジタル・オーディンとワルキューレの啓示」「何?」「いえ、象徴的体験です……通信量増大と敵の弱体化の関係は、絶対です」46
2020-07-19 23:16:43モーヤマは顎髭に手をやり、沈思黙考した。サクタは勢い込んだ。「ネットワーク通信を封じられていたネザーキョウの国民が、火を与えられた。この流れを止める事はできない。つまり今、風を送り込んで、もっと火を大きく……帯域をフル稼働させれば……それこそ発光する程に……そうすれば!」 47
2020-07-19 23:19:54「気に入らんな」モーヤマは呟いた。サクタは見た。「何がです」「ヨロシサン・インターナショナルだ。今このタイミングで我らにオファーが来ている。見透かしたようにな」「……」「リコナー……ネザーキョウ内で秘密裏にネットワークに接続していた者らと、コネクションを築いたという」 48
2020-07-19 23:22:58「勘付いたんでしょう。トラフィックの急激な増大を観測したんだ!で、でも、リコナーと話が出来るんだとしたら……デカイですよ!」「……」「……僕の権限の話じゃないですけど、今はヨロシサンといがみ合ってる場合じゃないンじゃないですか。奴らだって、一応UCAの一員で……」 49
2020-07-19 23:25:56「ああ。そうだ。今は目先の利害の話をしている場合ではない」「いや、わかりますよ。奴らは実際に戦線に軍隊出してるわけでもないし……この基地に来てる奴も、なんかノラリクラリして、ウザい感じだし。でも……エ?今、なんと?」「彼らと交渉する。君の知見が必要だ」「エ……マジですか!?」 50
2020-07-19 23:29:15前傾姿勢で俯いていたニンジャスレイヤーはそのままゆっくりと顔を上げ、タイクーンを睨んだ。「ニンジャ」ニンジャスレイヤーの右の瞳は点のように窄まり、赤黒の炎を噴き上がらせていた。いっぽうで左の瞳には変わらぬ憤怒の自我が燃え続けていた。「……殺すべし」 52
2020-07-19 23:36:47「イヤーッ!」タイクーンは多腕を黒砂に突き刺し、荒々しい地滑り攻撃を繰り出した!ニンジャスレイヤーはレーザーポインターじみた眼光の帯を焼き付けながら、爆発する黒砂を躱し、タイクーンの側面を取りに行く!ハヤイ!コトブキは己の動体視力を必死に高め、その動きを捉えようとする! 53
2020-07-19 23:39:44「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」向き直るタイクーンに絡みつくように、前傾姿勢のニンジャスレイヤーは荒々しく襲いかかった。鈎状に曲げた手がタイクーンの鎧を、筋肉をえぐりにゆく。赤黒の装束の背中はざわめき、ブスブスと燻り、メンポは軋んで、音を立てる。怪物めいたカラテである。 54
2020-07-19 23:42:15(ニンジャスレイヤー=サン……!)コトブキは案じた。激流めいた、怒涛の炎めいたカラテであった。タイクーンのあまりにも強大なカラテに対して引き出されたその力は、災いに直結する不穏なエネルギーの発露であり……それはかつて引き起こされた巨大な破壊を連想させた。 55
2020-07-19 23:45:09「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの右手が、左手が、タイクーンの左右下腕に止められた。ニンジャスレイヤーは強制的に手を開かされた状態で抑え込まれた。タイクーンは両上腕を振り上げ……ニンジャスレイヤーの両肩に、チョップを振り下ろした!「イヤーッ!」「グワーッ!」 56
2020-07-19 23:46:21放射状に黒砂が爆散し、ニンジャスレイヤーの体が沈み込む!タイクーンは容赦なく再びチョップを振り上げる!「……イヤーッ!」「グワーッ!」二度!そして三度……!「イヤーッ!」「イヤーッ!」否!ニンジャスレイヤーは両手を広げた状態で両足を振り上げ、宙返りするように顎を蹴ったのだ! 57
2020-07-19 23:48:16「グワーッ!」タイクーンはよろめく!見事な脱出攻撃!ニンジャスレイヤーは宙返りして着地し、前傾姿勢で身を震わせた。タイクーンは四本の腕を振り上げ再接近!「ハイ!ハイ!ハイ!ハイッ!」ナムサン!更なる掌打の連打!だがニンジャスレイヤーは……構えを変じた!コトブキは目を見開く! 58
2020-07-19 23:51:01ニンジャスレイヤーは右手を前、左手を肘に添えて待ち構え、タイクーンが繰り出す変幻自在の四つの掌打を捌いていった。流れるような腕の動き、手首の動きが、タイクーンの攻撃を逸し、跳ね上げ、ずらしてゆく。そしてその動きが短打に繋がる。それはコトブキがあまりにもよく知る動きだった。 59
2020-07-19 23:54:06コトブキが毎朝の日課とするカンフー・カラテのセルフ・トレーニングに、ニンジャスレイヤーが参加するようになったのは、このネザーキョウに流れ着いてまもなく、ニンジャに苦戦を強いられた時からだった。彼はコトブキのクミテを手がかりに、失われたカラテに再び力を与えていったのだ……。 60
2020-07-19 23:57:33ボッ。ボッ、ボ、ボッ。タイクーンの多腕カラテをニンジャスレイヤーは捌き、その捌きはタイクーンを逆に追い詰める動きとなり、顔面を、鎖骨を狙う反撃に繋がってゆく。ニンジャスレイヤーの右目はセンコめいてすぼまり、燃え狂っているが、そのカラテは間違いなくニンジャスレイヤーのものだった。61
2020-07-20 00:00:52「これはナラク・ニンジャのカラテともまた違うな……!」フィルギアが言った。コトブキは力強く頷いた。「そうです。当たり前です!あのカラテは……!」ボッ!ボッ、ボ、ボボッ!防御は、やがて攻撃へ!機関車のクランクめいた連続打撃へ!タイクーンが呻き……後退する! 62
2020-07-20 00:05:37ボボボボボッ!ボボボボボッ!クランク回転する拳は速度を上げ続ける!「イイイイイ……」ニンジャスレイヤーの目の炎がいよいよ強まる!拳が黒炎をまとい、回転する炎の軌跡が生じ……タイクーンの顔面を……捉えた!「イイイヤアアーッ!」「グワアアーッ!」タイクーンは背中から倒れ込んだ! 63
2020-07-20 00:08:14「アナヤ!」寵姫の一人が失神した。観衆が悲鳴を上げた。タイクーンは後ろへ倒れ込み、素早く受け身をとって後転し、再び起き上がり、隙のないカラテを構え直した。ニンジャスレイヤーは燃える息を吐きながら、再び前傾姿勢の構えを取った。コトブキは瞬き一つせず、彼の背中を見た。 64
2020-07-20 00:11:09(ニンジャスレイヤー=サン……!)『コトブキ。オイ。コトブキ=サン。オイッ』(……ニンジャスレイヤー=サン……!ガンバレ……!)『モシモシ!コトブキよォ!』「ちょっと黙って!」コトブキは通信を反射的に撥ね退けた。そして我に返る。「エッ?タキ=サン!?今重大局面で……何ですか?」65
2020-07-20 00:12:56『その……その重大局面の話だ!』タキが捲し立てた。『今、何やってる?』「タイクーンとのイクサを見届けています。タチアイニンです!」『要は見てンだろ?いいか、リコナーのA-1から通信が入った!』「まあ!」『クソッ、危ない橋を渡る必要があるかもしれねえが……いいか、よく聞け!』 66
2020-07-20 00:15:34