THUNDERBOLTED-off(IDOFF/ID:INVADED)
「ありがとう」 と僕が言う。 「何の話しよか」 とシービーが言う。 「映画の話しよう」 と僕は言う。 僕は映画が好きなのだ。
2020-08-26 10:41:38で、最近観た映画の紹介や子供の頃に観た映画の感想などを主に僕が話す。どうやらシービーはあまり映画は観ないらしい。でも『プライベート・ライアン』は観たということで、何と言うべきか、僕的には十分だった。しばらく『プライベート・ライアン』の話で盛り上がる。
2020-08-26 10:41:54そしてシービーが言う。 「ほやけどアパムがラストにあの逃した兵隊に会うのはちょっと興醒めやったわ」 「どういうこと?」 「なんか演劇ぽいって言うか、出来過ぎでない?」 「でなくて、何のこと?」
2020-08-26 10:42:17「ほら、最後アパムが、これまで全然戦いに参加してなかったのに、終わってから手挙げて出てきた敵、殺したが」 「うん」 「あれって何か、流石に作り事っぽ過ぎん?」 「何で?」
2020-08-26 10:42:41「ほやかって戦場って広いんやろ?アパムが逃した奴がたまたまアパムの前にもっかい出てくるとか、ちょっと、偶然にもほどがあるやろ?いかにもお話って感じやんか」 「ちょっと待って。待ってな?……あれ?最後にアパムが殺した奴って、途中でアパムが逃した奴なんか?」
2020-08-26 10:43:00「ほうやって」 「違うやろ〜」 「ほうやって。ほやでアパムの名前知ってたし、笑ってたんやが」 「え〜〜?違うやろ……、え?ホンマ?」 「ホンマやって」 「ええ……?」
2020-08-26 10:43:17「わかってなかったんか?」 「最後の戦闘で、仲間が銃弾足りんくなって皆『アパム!アパーム!』って叫んでたが?」 「うん」
2020-08-26 10:43:31「それ相手の兵士も聞いてて、『こいつがアパムか、あはは、お前は俺らのこと殺せないだろ』って笑ってたんだと思ってた……」 「ええ……?アパムの名前は確かに聞こえてたかも知れんけど、顔はわからんはずでない?」 「いや、戦場を走り回ってて、見えてたんかなって……」
2020-08-26 10:43:45「ああ……。でも、命乞いしようってのに、相手の、銃構えてる兵士をからかったりはせんのでない?」 「……!ホンマや……!」 「なあ」 「え?ほしたらあれ、あの兵士、二度目の命乞いやったってこと?」 「ほうやな」
2020-08-26 10:43:57「え?でもそんなん……偶然過ぎでない?」 「私はそれを言うてるんよ」 「えええ〜〜!」 「あはは。ようやく追いついたな。なあ!やっぱやり過ぎやんかな!」 「やり過ぎやわ……」 と言うか僕はショックだった。
2020-08-26 10:44:13「俺結構大事な部分見間違えてた……」 「いや、でも私もあんたの意見聞いて、そういうのもあるんかって勉強になったわ」 「何じゃそれ……」 「慰め」 「ほやな……」 「あはははは!何そんな本気で凹んでるんよ」
2020-08-26 10:44:33「俺……映画が好きやのに……」 「そんな勘違い、別に気にせんでいいが」 「ほやけど同じこと他の映画でもやってるかもしれんが……。大事な部分、見落としてるかも……」
2020-08-26 10:44:51「いや、でもあんたの見方の方が、『プライベート・ライアン』的にはいいんでないかな」 「いや……ほしたら演技とか演出が違うはずや……どうして俺はわからんかったんや……」
2020-08-26 10:45:07「あははははは!何でやろな!ちょっと、あんた落ち込んでる顔面白いでやめて!あはははははは!」 「ゆっくりご覧ください……」 「あははははははは!」
2020-08-26 10:45:21そうやってるうちに日が暮れてきて、なんとなく二人でいい感じなんじゃないかって気がしてきて、僕は高揚し過ぎてしまう。恋愛の話になって、もう止めどもない。 「あんた、好きな子とかいる?」 「俺?いん。いる?」 「いーん。私、好きとかようわからん」
2020-08-26 10:45:37「ふうん」 「……あんた、石がいるから、ちょっと引いてるん?」 「引いてるって?」 「なんか、あんたに石がくっついてくるから、誰かのこと好きになると、例えば、石が面倒を起こすかも、みたいな?」
2020-08-26 10:45:50「え?あ〜〜。ああ……なるほどなあ。ほういうのもあったかもなあ……」 「過去形やんか」 「うん?」 「あった、ってことはもうないん?」
2020-08-26 10:47:31「そういうの、か。もうないなあ。もうそういうのはとっくに通り過ぎたなあ。つか、好きとかそういうの以前の話やで、彼女作るとかそういうのを想像するところまでたどり着かんかったわ」 「そうなんか」
2020-08-26 10:47:47「俺、そういうのとは完全に別の道に来てもうたなあ……」 「何それ」 「え?変な話、やけど、言うていい?」 「別にいいよ」 「俺、最近ちょっと迷ってるんや」 「何を」
2020-08-26 10:48:06「あの石が、男か女かってこと」 「……そんな視点あるんや……」 「ほやかてずっと一緒にいるんやもん。なんか、人格みたいなもんもあるし、気になるが」 「ふうん?そんで?……え?女の子やとしたら、付き合うってこと?」
2020-08-26 10:48:24「いや、もう付き合ってるってことになってるんでないんかなって……」 「ええ!?……あはははは!いや、あはははは!いやいや、不思議な石の話やろ?あはははははは!なんであんたが不思議な子になってるんよ!あはははははは!」
2020-08-26 10:48:37「え?俺、変?」 「変過ぎる!あはははは!笑ってごめんやけど、あははははは!びっくりしてもうて、あかん!あはははははははは!」 「あれ……ほしたら、俺、かなりマズいかも……」と恐る恐る僕は話し始める。
2020-08-26 10:48:53やめとけやめとけ、と思うのだけれど、なんかエッチな要素をこの二人の会話に付け足したくなったのだ。身をよじって笑うシービーに煽られてもいて、もう、仕方がないですね。「俺、ちょっと前に、なんか石が可愛く見えて、チンチン擦り付けてもうたわ」 「え?あははははははは!でないわ、え?」
2020-08-26 10:49:12ああああああああああ。 言ってしまってからわかる。これは駄目だ。僕は何を言ってるんだ。そんなことを言ってどうなると思ったんだ。
2020-08-26 10:50:02あれだけ爆笑していたシービーがじっとこっちを見て、だいぶトーンを変えて言う。 「何か変なこと言うたな」 「ごめん……」 「気持ち悪いんやけど」 「……そうやろうなあ……」 「え〜?本当のこと?」 「嘘でこんなことは言わんよ……」
2020-08-26 10:50:35