タイラント・オブ・マッポーカリプス:後編 #8

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

白い羽毛で覆われた巨大なものは、蛾か、蝶なのか、それらとは別のなにかなのか、判然としなかった。巨大な翼を試すように羽ばたかせると、雪めく鱗粉が空に舞った。彼の目に焼き付いたのは、惰弱な文明が生み出した忌まわしき怪物の飛翔の瞬間だった。「サヨナラ!」インヴェインは爆発四散した。 49

2020-09-08 20:44:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

妖精じみた白い怪物は、ゆっくりと羽ばたき、鱗粉を風に乗せた。「ウ……ウアア……ウアアア……」「ウアアアアーッ……!」ゲニン達が、ヌーティクスフレーム™️歩兵中隊が、恐慌に囚われ、崩れ立つ。クワドリガは構わず、敵を斬りまくった。「殿……殿ッ!」 50

2020-09-08 20:49:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「AAAARGH……」「AAAAARGH……!」ディダラ達が01ノイズを散らしながら這い上がり、一歩、二歩と踏み出した。ネザーの者たちの動きは緩慢であったが、ヨロシサンの白い怪物に立ち向かう事ができるのはディダラばかりであろう。「神よ」アレス級の艦橋の上で、オーバーガードが祈った。「許し給え」51

2020-09-08 20:52:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は戦場を見通した。作戦内容を知りながら、それでも恐慌に陥り、あるいは発狂する者がいる。無理もあるまい。しかし今、ついにこの膠着した戦線を打開する風が吹いていた。ネザーの領域は失せ、異形の者達の動きは封じられたに等しい。これならば。 52

2020-09-08 20:57:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オオオ……」白い怪物が細長い頭を動かし、レーザーめいて体液を射出した。ZAAAAP……「AAAAARGH!」ディダラの一体が肩を貫かれ、倒れ込み、多数を巻き添えにした。もう一体が戦闘車両を踏み潰しながら白い怪物に向かってゆく。ディダラは既に01分解を始めている。白い怪物が……喰らいついた。 53

2020-09-08 20:58:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「AAAARGH……!」ディダラが苦しみ、白い怪物の肉体を掴んだ。しかしディダラの肉は引き裂かれた。そしてその下では、崩れ立つ者、なお戦う者。西の空に溶けゆく巨大な夕陽が、惨たらしい戦いの続くこの地を、赤橙色に染め上げていく。その赤橙色の中に、紫の光の粒が、ホタルめいて舞っている。 54

2020-09-08 21:05:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

光の粒は、ある一点を差して集まっていく。「ハン、ニャアアアア……!」地面に横たわるオオカゲが吼えた。その傍らに、満身創痍のタイクーンがアグラしていた。紫の光の粒は、彼の元へ集束してゆくのだった。それは彼がネザーキョウの者達に授与したコクダカの光だった。彼はまだ戦うつもりだった。55

2020-09-08 21:09:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

地球の四半を覆うキキョウの領域は、インターネット・トラフィックの過密によってノイズを生じ、その維持かなわぬ。ゆえにタイクーンはコクダカを再び呼び戻す。キキョウ・オファリング・ジツ。このとき軌道上から地球を観測した者は、薄れつつあった地表の五芒星が唐突に消滅した瞬間を見ただろう。56

2020-09-08 21:14:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その瞬間、ゲニントルーパーの大半はモータルに戻った。領内の五重塔に燃える紫の炎は消えた。タイクーンは紫の光に包まれながら、大義そうに立ち上がった。彼はオオカゲのもとに近づいた。龍の鞍に備え付けられているネザー鉄の軍旗を掴み、天高く掲げた。「イヤーッ!」それを大地に突き刺した。 57

2020-09-08 21:19:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

旗を通し、タイクーンの身体を燃やす全回収キキョウの力が大地に注がれてゆく。KRAAAAACK……!彼の足元に溶岩色の亀裂が生じた。亀裂は見る間に拡がってゆく。ほんの数秒のうちに、彼の周囲数キロメートルが溶岩亀裂で満たされた。異彩の闇が戻ってきた。地球4分の1から、ほんの半径数キロに。 58

2020-09-08 21:23:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

異彩は今や、空ばかりではない。溶岩である。邪悪な火山が隆起し、大地を割って赤い河が生じ、この世ならぬ匂いの空気が風に乗って吹き渡る。そこはもはやカナダではなかった。ナムアミダブツ!いまや南方戦線の大地は局地的にネザーと重なり合っていた。 59

2020-09-08 21:28:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それはいずれ、ネザーフォーミングによって、五芒星内の全土が如此変じていたであろう、ネザー地獄光景の現出であった。タイクーンの故郷、あらゆるものが流れ去る煮えたぎった世界であった。「ARRRGH……」オニ達が起き上がり、再びその目を激しく光らせた。タイクーンは白い怪物を見やった。 60

2020-09-08 21:30:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

まこと、狭い。全コクダカをフイにして、今の彼の領域は、ほんのこればかり。だが。「我あるところ、ネザーあり」タイクーンは手を高く掲げた。邪悪な空に無数のヤリが生じた。余剰のコクダカが凝り固まった超自然のヤリが。「我は、タイラント・オブ・マッポーカリプス也」 61

2020-09-08 21:35:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タイクーンが掲げた手を動かすと、はるか高い空、キンカク・テンプルの輝きを受けて静止するそれらのヤリが……ヨロシサンの白い怪物をめがけ……ひとつ……ふたつ……みっつ……よっつ……滑るように、流星のように、降り注いだ。「……!」白い怪物を、無慈悲なヤリが、貫いた。 62

2020-09-08 21:39:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハン、ニャアアアアアアアア!」オオカゲが身をもたげ、咆哮をあげた。「舞え。オオカゲ」タイクーンは言った。オオカゲは巨大な身体を滑らせ、再び飛び上がった。オオカゲは邪悪な空で8の字を描き、そして、ヨロシサンの白い怪物に襲いかかった。「シャギャアアアーッ!」 63

2020-09-08 21:42:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ZAAAAP!ZAAAAAP!レーザーめいて噴きつけられる体液をすり抜け、オオカゲは白い怪物に紫の炎を吐いた。「シャギャアアアーッ!」「アバーッ!」そして喰らいついた。「シャギャアアアアーッ!」「アバババーッ……!」タイクーンは手を動かす。ヤリが、ひとつ、ふたつ、みっつ。落ちてくる。 64

2020-09-08 21:44:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

DOOOM……DOOOOM……DOOOOM。降り注ぐネザーのヤリを、冷徹に輝くキンカク・テンプルを、座標不明の活火山を目の当たりにしながら、オーバーガードはUCA本部基地へのIRC通信を試みる。「応答願う……応答願う!」当然、応答はなかった。「防御体勢!」オーバーガードは命じた。あのヤリは危険だ。 65

2020-09-08 21:48:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤリは次々に落ち、UCA戦力を破壊してゆく。あれがこのアレス級陸上戦艦に命中した時、どの程度のダメージが生ずる?アレス級はニューク炉で駆動している。威力次第では、最悪の事態が待ち受けている。否……「最悪……?」オーバーガードは虚無的に笑った。既にここに地獄があるではないか。 66

2020-09-08 21:50:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

DOOOOM……DOOOOM……DOOOOM。ヤリがUCA戦力を挫き、そこへ、ネザーのオニを率いる戦士が蹂躙にかかった。ヤリの群れが落下を止めた。空中に残るヤリは角度を変えた。自然、オーバーガードはその角度の先を見た。そこに何らかの争いが生じていた。それはオニと、赤黒のニンジャだった。 67

2020-09-08 21:55:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

UCA戦力ではない。位置的にも、それはまるで敵の懐だ。「あれは……!」オーバーガードは我に返った。離脱をはかろうとした彼の胴体を、真っ直ぐに飛び来た一本のネザーのヤリが貫いた。「……!」オーバーガードはアレス級の甲板へ落下し、爆発四散した。 68

2020-09-08 21:59:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「AAAAARGH!」「AAAAARGH!」「AAAAARGH!」押し寄せるオニが、右から左へ、殴り飛ばされ、蹴り飛ばされ、吹き飛んで、なぎ倒されていった。ニンジャスレイヤーはやがてヌンチャクを手にしていた。「イイイイヤアアーッ!」打撃に打撃を重ねながら、彼は一点を目指していた。その先には、無論。 69

2020-09-08 22:03:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タイクーンは両手を掲げて仁王立ちし、その目を紫に燃やしていた。否、いまや彼の全身がネザーの炎に燃えていた。「……イヤーッ!」「AAAARGH!」包囲網のさしあたっての最後の一体が、ヌンチャクで頭を割られ、ニンジャスレイヤーの足元に転がった。タイクーンはニンジャスレイヤーを凝視した。 70

2020-09-08 22:07:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スウーッ……フウーッ」ニンジャスレイヤーは足を止め、深く呼吸し、更なる火を全身に駆け巡らせる。頭上にはキンカク・テンプル。周囲にはアケチのネザーヤリ。その全ての穂先が今、ニンジャスレイヤーに向かって、定まった。ニンジャスレイヤーは再び、一歩一歩、踏みしめるように歩き出した。 71

2020-09-08 22:10:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タイクーンは燃えている。それは彼自身をして焼き焦がす炎である。ニンジャスレイヤーは焦げた空気を呼吸しながら、唯一人立つ暴帝を目指す。その手でカイシャクするために。

2020-09-08 22:14:22