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#twnovel 「いい加減気付け、あほ」俺は赤い短冊に冗談めかして書き殴った。今日は雨の七夕。どうせ願いなんか届きはしない。意中の彼女の短冊は「今夜デートに誘われたい」。好きな奴いるんだ。ため息と共に裏返した文字にどきり。「赤い短冊の彼待ってますv」おい、不意打ちはやめろよな。
2011-07-07 14:44:46![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 子供達が夢中になって笹飾りをしていると母親達が冷たい素麺を持ってきた。「一旦休憩して素麺を頂きましょうね」丁度短冊を配り終えた所だったので手に持ったまま集まる。「何を書く?」笑顔と共にお決まりの科白が飛び交う。いつまでもこの笑顔がありますように。これは母の願い。
2011-07-07 15:16:14![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 年に一度の七夕は、とても特別な日だ。人々は日が暮れると外に出て、星空を見上げる。やがて天頂に一つの光点が現れ。ゆっくりと地上へと近づいてくる。それは光速郵便船の駆動光。遙か故郷からの手紙を、25.3年かけて運んできたのだ。地球から、こと座ベガ太陽系の植民星まで。
2011-07-07 15:30:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 人にはそれぞれ死の色があるという。生まれる時に死の色を見る。2度目に見るのは死ぬ時だ。だからどちらも本人にはわからない。死の色の短冊を売る短冊屋の稼業は殺し。相手に死の色の短冊を見せるだけの簡単な仕事。今宵は七夕。年に一度、大手振って殺しの道具を持ち歩ける。
2011-07-07 16:40:34![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 祭り会場で3人並んで短冊に願いを託した。何を書いたの?と彼女に聞かれた僕は、奴がジュースを買いに行ってるのをいいことに抜け駆けを試みる。「右隣の人の願いが叶いますように、って」彼女は笑みをもらして言った。「わぁ、私と同じ」ちょっと待て。彼女の右隣は僕じゃない。
2011-07-07 16:46:11![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 短冊には何も書いてなかった。息子にそれを尋ねると「ちゃんと書いてある」と言う。だが何度見ても白紙にしか見えないから教えて欲しいと言うと、内緒だよと息子は虫眼鏡を渡す。それで見ると「ママと先生がうまくいきますように」と。「え? 今日遅くなるって言ってたのは……」
2011-07-07 16:49:03![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「短冊にお願い書けたの」幼くても叶えて欲しい願いはあるようで、真剣な表情で机に向かっていた娘に声をかける。「うん」返事はするが納得していないようだ。微笑みながら短冊を手に取ると、びっしりと小さな字が隙間無く詰まっていた。私は「娘が幸せに育ちますように」と書いた。 #twnovel
2011-07-07 16:54:18![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 自分のための願い事なんてない。全部彼に関するものばかり。健康であって欲しいとか、笑っていて欲しいとか。住む国が違うため、それこそ一年に一度ぐらいしか会えないけど、それでも大事に想っている。天の川に想いを載せて運んでもらおう。明日には彼の下に届くだろう。
2011-07-07 16:55:23![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
家の窓から見上げると、今にも泣き出しそうな空。僕の記憶にある七夕は、いつもこんな天気だ。星空の二人が出会った空を、僕は見たことがないかもしれない。「雨が降ってきた」今年も二人は会えないな。「今日は出かけられないね」彼女が言った。僕は地上で君に出会えてよかった。 #twnovel
2011-07-07 16:59:45![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 小さな笹に彼女の短冊を僕は見付けてしまった。『あの人に想いが届きますように』綺麗な字で丁寧に書かれたそれ。僕は何故だか瞬間的に、それが僕に届けられる想いではないことを知った。彼女の願い事が叶うのなら、僕の願い事は叶わない。胸が、すこし、痛くなった。
2011-07-07 17:07:54![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「アルタイルからの通信途絶」宇宙連邦ベガ基地の司令室に緊張が走った。ハイパー空間路は開いている。地球時間で一年間を費やした計画が頓挫するのか。移動手段は通信ほど速く無い。このまま戻るのを待つだけだ。室内を絶望感が支配する。「なぜだ」隊員の一人が呟く。浮気だった。 #twnovel
2011-07-07 17:08:50![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 折角の快晴だというのに彼女は雨模様。足下の星も見ないで涙に濡れている。泣かないでと言うと、止まらないのと首を振る。困った僕は彼女の鼻をつまんだ。「君に求めるのは泣き顔じゃないよ?」彼女は抗議するように頬を膨らませ、やがて堪え切れずに噴き出した。僕の恋しい笑顔で。
2011-07-07 17:14:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 七夕なのに土砂降り。でも安心して。逢瀬の喜びや別れの悲しみの涙が雨となり「朝の雨は嘆きの雨」「昼の雨は喜びの雨」「夜の雨は別れ涙の雨」なんだそう。今日は一日激しく雨が降ったから、さぞかし激しく愛し合えたに違いない。
2011-07-07 17:23:12![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 「何で飲んでるのよ」「……緊張して」申し訳なさそうに謝る彼は、一年前と変わらず頼りない。「この酔っ払い!」ぷいと横を向くと、彼は優しく私の指先を指先でつつき、「ほら、ほうき星だよ」と呑気に笑う。「……綺麗ね」「君の次にね」その言葉に、目の前で一億の星が点滅した。
2011-07-07 17:31:10![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 星の川で一年に一度しか会えぬ男を待つ女。「物好きだねぇ。もう俺にしといたら?」月に腰掛け、俺は今年も同じ文句を口にする。「お黙りなさい」女の返答も同じ。しゃらりと星を踏む音がして待ち人が現れた。女はその胸に飛び込む。来年も見る飽いたこの景色。物好きなのは俺の方。
2011-07-07 17:35:42![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 皺だらけの指が、慈しむように黄ばんだ手紙を撫でる。「昔は皆手紙を書いた」朝の病院の屋上で、老人は懐かしく語る。七夕に出逢い、七夕に結ばれ、七夕に死んだ人。「今日は一年に一度、恋人が愛し合う日。道が開くのさ」老人は車椅子から立ち上がり、風は手紙を天へ連れて行った。
2011-07-07 17:41:25![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 聞こえますか。聞こえますか。聞こえてるよ。ノイズだらけの古い音声データに主人は何度も頷き返す。愛してるよ。愛してるよ。穏やかに囁き、受け取り手のないメッセージを録音する。「届く筈がありません」いつか届くよ、七夕は奇跡が起きるのさ、と主人は今年も想いを空に放った。
2011-07-07 17:47:50![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel カササギ? 首をかしげる私に、彼は窓をみる素振り。『こんな日に、天の川を渡してふたりを会わせてくれる鳥さ』画面の中で苦笑いする。『俺も欲しいよ、いま』大雨で電車が止まり、七夕デートは中止。このスマホがカササギ代わりね。微笑んで液晶を拡大し、実物大の唇に口づける。
2011-07-07 17:56:51![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
今日は七夕。だが今年は少し様子が違っう。織女が赤ん坊を抱いていたからだ。勿論、牽牛の子供である。二人は子供の将来を相談する。両親が揃うのは年に一度だから。神様が現れて、二人の位置を動かす。 天の川の側に織女星と牽牛星、そして間に小さな星 #twnovel
2011-07-07 18:07:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 「久しぶり」「うん」「よく降るね」「去年も雨だった気がするけど、貴方もしかして雨男?」「……そうなのかもなあ」「湿気多いと髪がまとまらないのよね」「いや、可愛いよ」「ばっ、馬っ鹿じゃないのっ!」「それに雨もそう悪いもんじゃないって。ホラ、相合い傘」「フン……」
2011-07-07 18:12:14![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 短冊に『黒髪ロングの恋人』と書いたら彼女と出会った。翌年、『ローン完済』と書いたら数日後に完済通知が届いた。翌年、『結婚資金』と書いたら数ヶ月後に百万円が届いた。翌年、『子ども』と書いた。彼女は不妊治療中だった。翌年も翌年も書いた。しかしそれは未だ叶わずにいた。
2011-07-07 18:20:02![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
夏の大三角と呼ばれる星は「こと座のベガ(織姫)」「わし座のアルタイル(彦星)」そして「はくちょう座のデネブ」。ベガとアルタイルは天の川の対岸で出会うのを待っている。デネブは川の中から横恋慕しているように思えるのはTVドラマの見過ぎだろうか。 #twnovel
2011-07-07 18:27:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
短冊はまだ何も書けずにいた。願い事はひとつしかない。でもそれを書いて公衆の面前に晒すのは気が引ける。非常識な願い事ではないと思うんだけど、書いたのが自分だって知られるのはいや。でも願いが叶うなら…。「肉まんをお腹いっぱい食べたいな☆」なんてやっぱり書けない! #twnovel
2011-07-07 18:44:02![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
#twnovel 彼女は天の川を見あげながら、「織姫と彦星。一年に一度しか逢えないなんて可哀想」と呟いた。僕は「そうだね。気持ち分かるよ」と応える。「…以前に遠距離恋愛でも?」彼女の問いに僕は、首を振る。「今年の夏、キミと出逢うまで20年かかった」
2011-07-07 18:50:06