終の戦1(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

「…風の司!姿をあらわせ!!こんなことで!」 「面頬の隙間から目を抉るはたやすい」 刃の渦の奥から、風の司は忽然と姿をあらわした。 「殺めぬ程度に…あなたを損なう術はいくらでもあります」 癒し手が患者に説くように、穏やで優しくさえある口ぶりだった。 「きさま…ずっと…そこに」

2020-10-12 23:14:43
帽子男 @alkali_acid

「輝く湖の魔法を戻していただきたい」 「僕が、神に背くとでも」 「あなたは光の諸王に背いているのですよ」 「僕が敬い愛するはただ…カグツチ様だけだ!!我が神!今こそ!」 叫びながらシノノメは霊気の鎧を溶かし去った。刃が血肉を抉るのも意に介さない。血煙が上がるなかで、

2020-10-12 23:17:04
帽子男 @alkali_acid

炎と鏡と時の神の放つ魔法が全軍に行き渡った。 それらは風の司が配り備えた呪具に阻まれたが、しかし、 刹那のうちに時は繰り返し戻り、妖精を捕えんとする神々の呪縛は、巧妙な対策のほころびを細やかに探り、やり直しながら、とうとう目的を達した。

2020-10-12 23:20:17
帽子男 @alkali_acid

“シノノメ…大義であった” 瀕死の力士を、炎の帯がからめとる。 「わが…かみ…」 “風の司こそが最大の難敵。こちらの魔法を解き明かし、阻む脅威…一時とはいえその身を犠牲に惹き付けたことが勝利につながった”

2020-10-12 23:22:00
帽子男 @alkali_acid

炎の男神が信徒を労うのをよそに、時の支配者は百万の精霊にあたりをを見張らせていた。 あまりにも多くの美女がいた。 指一本触れること能わぬ獲物が。 「ダリューテ…」 不意に視界が何かを捕える。隠れ蓑を脱ぎ捨てた、すらりとした乙女。赤みがかった肌に気高いかんばせ。

2020-10-12 23:24:47
帽子男 @alkali_acid

手に持つ盃には、記憶を積み重ねて勝利を得るガミエルにとって最悪の術である忘却の魔法が湛えられていた。 すでに思い出せない幾度もの戦いで、常にの瞬間が敗北をもたらしてきた。 だが今回は。

2020-10-12 23:26:42
帽子男 @alkali_acid

鏡の女王は、風の司と雷の統を同時に相手どって苦戦してはおらず、ゆとりがあった。剛弓から放たれた矢が、盃を叩き落した。 妖精の石アルウェーヌはなお諦めず、愛剣、西の焔を引き抜いた。護衛のようにそばを飛ぶ灰色烏が叫びをあげる。 だが時と炎と鏡、篭絡と帰依と隷属の術は勇猛な半妖精をも、

2020-10-12 23:31:02
帽子男 @alkali_acid

掌握した。 「名は何と申す…麗しき娘よ」 「…ミドリ…イシ…」 「もう一つの名は」 「…」 「語れ。モックモウの如く」 「…アル…ウェーヌ…」 「そなたは時の後宮によき部屋を与えよう」

2020-10-12 23:32:17
帽子男 @alkali_acid

時の支配者の分身が幾柱か、このみずみずしい乙女に群がろうと空から降りて来た。 “誓いを忘れるな。時の支配者” 炎の男神が警告する。 「…冥府へ辿り着くまでは…」 愛欲の権化は不承不承退く。

2020-10-12 23:34:22
帽子男 @alkali_acid

「このものは…このものは…そなたの庇護の下にない…」 凍り付いたままなお心は抗いを止めぬようすの風の司に、幾柱かが集まる。 「ダリューテに似ている」 “だめだ。風の司も我が庇護の下にある。冥府で闇の軍勢を打ち破るには不可欠の男だ” 「…では…」

2020-10-12 23:36:25
帽子男 @alkali_acid

白鳥の騎士ローエリザやその姉妹にも、炎の男神は触れるのを許さなかった。 「…我のもの…すべての妖精は我が奴隷だというのに…」 “そうだ。御身の兵だ。御身と俺と鏡の女王の術が合わされれば、こやつらを単なる操り人形ではなく、十全の武功を発揮せしめる勇士として従軍せしめる”

2020-10-12 23:39:49
帽子男 @alkali_acid

時の支配者が同意すると、炎の男神は戦場を巡視したいと申し出た。 “ダリューテを迎える前に、狭の大地のありさまと、そこなる黒金の城塞を調べたい” 「すでに要塞の一切は我が掌の上にある。我が忠実なる奴隷モックモウがことこまかに語った」 “ならば構うまい”

2020-10-12 23:43:23
帽子男 @alkali_acid

炎の男神は森の先王の体を操って黒金の要塞に入り、内部を見て回った。そうして命の大釜を見出すと、信徒たるシノノメをそこに入れ、傷を癒した。 “ほかにも役立つものがありそうだな…この要塞そのものが恐るべき工芸の結晶だ” 「カグツチよ…」 ブナノエダことギリアイアは怒りを通り越し、

2020-10-12 23:45:44
帽子男 @alkali_acid

深い憂いに満ちた口ぶりだった。 「御身は過ちを重ねるのか」 “そうだ。今はこれ以上話せぬ” 「…私の過ちか…」

2020-10-12 23:48:55
帽子男 @alkali_acid

大半の遺物は時の支配者の所有に帰していたが、カグツチことクルフィノは、手つかずの素晴らしい武器を見出した。 ”見ろ。娘の…ダリューテの作品だ” 「ダリューテに鍛冶の心得だけはなかったはず」 ”俺が教えたのだ” 蒸気二輪にまたがった鉄の乗り手を、炎の男神はほれぼれと眺めやった。

2020-10-12 23:50:47
帽子男 @alkali_acid

絶滅請負人こと牙の部族のガウドビギダブグは時の檻から解き放たれた。 「ケログム!!!!」 吠え猛る若者を迎えたのは、妖精の公達と絶世の美男、そして恋い慕う女によく似た別の女だった。 「あ?」

2020-10-12 23:52:47
帽子男 @alkali_acid

「逞しい。力仕事をさせる奴隷向き」 鏡の女王は妖精の言葉で述べたが、当然ガウドには伝わらない。炎のの男神は冠の奥で砕けた宝玉を瞬かせた。 “人間か。狭の大地にうろついていると聞いていたが。いかに思うブナノエダ” 「人間は誇り高い種族。正しく接すれば友となる。だがこれは東夷。獣だ」

2020-10-12 23:55:35
帽子男 @alkali_acid

ギリアイアは続けて静かに述べた。 「野の獣をいたぶるものではない。解き放ってやれ」 “獣…だが飼い馴らした獣は役に立つ。ダリューテはこやつに武具を与えた。俺もそうしよう”

2020-10-12 23:56:51
帽子男 @alkali_acid

「んだてめえらは!ダリューテの知り合いか?…ケログムどこだよ!」 ガウドは、相手の中にダリューテによく似た女が混じっているのが気になって凄みきれなかったが、鏡と炎と時の術はたやすく蛮族の心を鎖につないだ。 「あ?…あ…ああ?」 “お前に世に二つとない武器をやるぞ。黒剣をな”

2020-10-12 23:58:57
帽子男 @alkali_acid

炎の男神は、鉱蛆の力を借りて城塞を形作る黒金を削り、鍛冶に長けた男巫と巫女を招き寄せて一振りの大剣を鍛えた。 “どうだブナノエダ。お前が振るってみたくはないか” 「昔このような剣を一振り持っていた。だが人間にこそこの刃はふさわしい…古代の英雄がその武器とともに蘇ったかのようだ」

2020-10-13 00:01:28
帽子男 @alkali_acid

ギリアイアは悲しげに語った。 「なるほど、あの東夷は野の獣でないやもしれぬ…ならばなおのこと奴隷にすべきではないぞ。炎の守」 “御身の望むように呼べ。妖精の友。闇と戦う英雄。神の加護受けし最強のもの” 「言葉を繕えど…定命の種族に武器を持たせ闇と戦う尖兵にするなど、奴隷でしかない」

2020-10-13 00:05:55
帽子男 @alkali_acid

妖精の軍勢を傘下に繰り入れた神々は陣容を整えると、黒金の要塞、真の名を冥皇の安置所と呼ばれる地を覆う時の結界を取り除いた。 外を取り巻く狭の大地と時の流れは合流した。 ほどなく妖精の騎士が降臨した。闇の侍女を引き連れて。

2020-10-13 00:11:30
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 鏡の乗り手ダリューテは神馬にまたがり、海魔、火竜、雷怪、双蛇、神参を供として天から地に降り立った。 「ガミエル・グレンズフォード様。ケロケル・ケログム様」 呼び掛けながら、悠然と駒を進める。

2020-10-13 00:13:26
帽子男 @alkali_acid

「財団理事会が出頭を求めています」 「待っていたぞダリューテ。我が花嫁よ」 輝くばかりの若々しさを取り戻したガミエルが、微笑を浮かべて、迎え出る。左右には、妖精の男女が控えている。 一方は砕けた宝玉のはまった冠をつけた男騎士。もう一方は輝く鏡を携えた女騎士。

2020-10-13 00:16:00
帽子男 @alkali_acid

“ダリューテよ。冥府への道は見つけたか” 宝玉は語る。 「…炎の守」 ”そうとも。お前の父クルフィノだ” 「御身は私の父ではありませぬ。師よ」

2020-10-13 00:18:23
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