燭へし同棲botログ:××の日、みたび

20/1/31:夜の散歩と告白。
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燭へし同棲bot @dousei_skhs

【××の日、みたび】 たまには夜の散歩にでも行ってみないか。 夕飯のあとなんとなくそう誘ってみたら、予想に反して光忠の行動は早かった。「行く」と短く返事をし、部屋着にコートを羽織り、マフラーを巻き、引き出しの一番手前にあった適当な靴下を履く。

2020-01-31 20:45:58
燭へし同棲bot @dousei_skhs

そして「準備できたよ」と言うなり玄関に飛んで行ったのだ。あまりにテキパキしていて、言い出した俺が置いてきぼりを食らいそうになった。運動用のスニーカーに足を突っ込む光忠の背中を見ながら、俺も慌てて準備をする。

2020-01-31 20:45:58
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「嬉しいよ。長谷部くんからお誘いがあるなんて」 「如何わしい言い方をするな」 「ふふ、ごめん」 いつも通りの他愛もない会話。住宅地だから声は抑えて、ひそひそ、ひそひそ。まるで子どもの内緒話だ。 「……でもどうしたの。珍しいね」 優しく笑ったあと、光忠は少し真面目な顔をして尋ねてきた。

2020-01-31 20:45:58
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「いや、……」 それに答えようとして、俺はふと言葉に詰まった。言われてみればどうしてだろう。確かに俺が夜の散歩に誘うなんて珍しいことだ。「もう遅いから明日にしよう」なんて言われるかと思っていたのに快諾されて、嬉しいはずなのに肩透かしを食らったような気分にもなった。

2020-01-31 20:45:59
燭へし同棲bot @dousei_skhs

ただ今日は、仕事帰りに夜道がやけに明るいなあと思って、空を見てみたらキンと冴えた月が出ていて。頬を撫でる冷たい風が気持ちよくて、それで。 「……月が綺麗だったから、お前とも見たいなあと、思っ…」

2020-01-31 20:45:59
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……長谷部くん」 「今のなし」 理由を辿ったら、とんでもなく恥ずかしいことを口にしてしまった気がする。だって月が綺麗だからって。そんなのお前、 「……なんだよ」 「いやあ?」 ふと見上げると、光忠が白い息を吐き出してにこにこしていた。……にやにやと言った方がいいかもしれない。

2020-01-31 20:45:59
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「僕はずいぶん、君に愛されてるんだなあと思ってね」 「!」 歯の浮くような言葉とともに、俺の右手にするっとぬるい体温が絡んだ。……光忠が手を握ってきたのだ。こんなに寒いのにお互い手袋をしてこなかったせいで、……してこなかったおかげで、光忠の感情が、それこそ手に取るようにわかる。

2020-01-31 20:45:59
燭へし同棲bot @dousei_skhs

触れる光忠の左手の指輪が冷たくて。俺の左手にある指輪はもっと冷たくて。でもその冷たさが、火照った今はなんだか心地いい気がした。 「ねえ長谷部くん」 「ん」 「月が綺麗だね」 「……ああ」 こちらを見つめる光忠の瞳が、月のようにきらきらしていたことは黙っておこう。 【了】

2020-01-31 20:46:00
燭へし同棲bot @dousei_skhs

【管理人より】夜分に失礼いたします。睦月も終わろうとしている時分、今更ながらあけましておめでとうございます。前回のSS更新がなんと昨年の5月というのんびりっぷり。いつもご覧頂いている皆様には大変申し訳ございません。引き続き拙いままのbotですが、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2020-01-31 21:49:37