ハイヌ-ン・ニンジャ・ノーマッド #5

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「火縄銃を使え!」足軽隊長が命じた。「ハイ!」長筒を持った足軽銃手が一人、既に射撃準備を万端に整えており、立膝姿勢を取って狙いを定めた。火縄銃。それは当世具足の胴当てすらも貫くことから「サムライズベイン」の異名で恐れられる前装式のマスケット銃であった。 22

2020-10-22 21:06:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

火縄銃は高価な品であるが、代官の影響力を誇示するため、この足軽中隊にも一挺のみが配備されていたのだ。黒漆塗りの長筒。その威光の前に町民らは思わず頭を下げた。だがキルジマは恐れなかった。「撃てーッ!」足軽隊長が軍配を掲げた。 23

2020-10-22 21:09:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BLAMN! 轟音が鳴り、町民たちが震え上がった。四十四口径の銃口から致命的な鉛玉が撃ち出された。落武者の顔面めがけて。「イヤッー!」赤黒の落武者は一歩も歩みを止めず、片腕を盾のように前方にかざし、薙ぎ払った。そして前進を続けた。 24

2020-10-22 21:12:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエッ!?」足軽隊長は絶句した。落武者の手甲が黒い炎に包まれ、妖しく禍々しい黒金と化しているのを。落武者は弾丸をカラテで弾いたのだ。だが、胴当てすらも貫く二匁筒火縄銃の弾を手甲で弾くなど、人間業ではない。足軽隊長の奥歯がガタガタと鳴った。 25

2020-10-22 21:15:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒイッ、彼奴、唯の落武者では……」隊長の顔に何かピチャピチャと飛び散るものがあった。隊長が隣を見ると、射撃を終えたばかりの足軽が死んでいた。弾かれた鉛玉で頭を撃ち抜かれたのだ。銃手の頭は、齧られた林檎のようにえぐられ血を噴き出していた。 26

2020-10-22 21:18:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

足軽隊長の疑念はいまや確信へと変わっていた。「あれは、ニンジャ……ニンジャだ……!」「怯むでない! オカミの威光に泥を塗る気か!」虚無僧の大音声が、辺りを圧した。大銅鑼が打ち鳴らされたかの如く、足軽と町民はその場で静まり返った。虚無笠の男が進み出て落武者の前に立ち塞がった。 27

2020-10-22 21:21:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この虚無僧はニンジャ。キルジマはそれを察し、歩みを止め、破れ霞を構え、畳九枚の距離で睨み合った。虚無僧がアイサツした。「ドーモ、コッカトリスです。探したぞ、ニンジャスレイヤー=サン。俺の毒を受けながらここまで逃げおおせ、さらにはトゥームストーン=サンまでも爆発四散させるとは」 28

2020-10-22 21:24:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ、コッカトリス=サン、ニンジャスレイヤーです」落武者はアイサツを返した。その声は低く抑えられてはいたが、堪えきれぬ憤怒に震えてもいた。「ヨツヤノクニにまでお主ら影業組合の手が回っているとはな。だが手間が省けた。全て繋がっていたということか」 29

2020-10-22 21:27:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ならばどうする」コッカトリスは懐から計八枚のスリケンを取り出し、それを四枚ずつ、ダラリと垂らした両手で弄んだ。鋭い刃が自身の掌を切り裂き、タールめいてどす黒い血を流した。これは意図的である。コッカトリスの血そのものが猛毒であり武器なのである。 30

2020-10-22 21:30:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「その首、纏めて貰い受ける」「減らず口を!」コッカトリスは笑った。彼には勝算があった。数日前、コッカトリスは薄野のイクサで猛毒スリケンを数発食らわせ、ニンジャスレイヤーを爆発四散寸前まで追い詰めた。いま見た所、その時よりも酷い傷を負っている。歩くのが精一杯といった有様である。31

2020-10-22 21:33:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コッカトリスは無慈悲なるイクサを脳内で組み立てた。……奴を挑発して視界を狭め、誘い込む。そこへ猛毒スリケンを投げる。奴はこれを何としてでも回避しようとするはず。だがこちらにはスリケンが八枚。やがて回避しきれず六枚目、あるいは七枚目で奴は海老反り回避を余儀なくされる。そこを狙う。32

2020-10-22 21:36:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「貴様の足掻きは無意味だ。この俺が貴様を殺し、トゥームストーン=サンの代わりの者が派遣される。町民らの平和は守られ、オミノロシは何ひとつ変わらず続く」「何ひとつ変わらず、二束三文でケシを育て続けるのだろう」キルジマは破れ霞を構えて敵を睨み付けた。「……それをお主らが吸い上げる」33

2020-10-22 21:39:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「この戦乱の時代、モータルどもは蟻の如く踏み潰されるが定め。ならば生きて働き口があるだけ幸運であろう?」コッカトリスは肩をすくめた。「お主を殺す」ニンジャスレイヤーの目に殺意の炎が燃え、まっすぐに踏み込んだ。「イヤーッ!」コッカトリスが機先を制し、右のスリケン四枚を投擲した。 34

2020-10-22 21:42:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コッカトリスは勝利を確信していた。だが次の瞬間、赤い残光を空中に描きながら、ニンジャスレイヤーが彼の眼の前にいた。それは居合道踏み込みからの恐るべき加速であった。加えて、猛毒スリケンをその身に受けながらの捨て身の突撃である。何もかもが、コッカトリスの誤算であった。 35

2020-10-22 21:45:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キルジマが職人通りを走らず、敢えて火縄銃の銃口の前に身を晒しながら歩いたのは、憔悴のためでも負傷のためでもなかった。ただ、狂おしいナラクの力を限界まで押し留め、死のバネ仕掛けの如く、この居合道踏み込みの一瞬に爆発させんがためであった。 36

2020-10-22 21:48:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤッー!」「グワーッ!?」コッカトリスは肩口から胸を浅く斬りつけられ、虚無笠を木っ端微塵に破壊された。毒の血飛沫が飛び、傷だらけの顔と真鍮面頰、赤い棟髪刈り、そして爬虫類じみた人外の瞳が顕となった。 37

2020-10-22 21:51:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

至近距離の空手を打ち合った後、コッカトリスは血を撒き散らしながら四連続バック転を決め、一旦後方へと大きく退いた。「何たる無謀…!」湧き出すニンジャアドレナリンの中で、彼は赤黒の落武者を睨んだ。スリケン四枚は確かに命中している。ならばドク・ジツが働くはずだとコッカトリスは考えた。38

2020-10-22 21:54:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だがそれもまた誤算。「殺伐!」ニンジャスレイヤーは毒スリケンをものともせず突き進んでくる。……だが、如何にして?黒い炎である。同じジツを二度喰らうナラク・ニンジャではなかった。ナラクの力で傷口が黒く燃え上がり、スリケンに塗られた毒が体内へと侵入する前に、これを焼灼せしめたのだ。39

2020-10-22 21:57:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「や、奴を殺せ! 女も殺せ!」コッカトリスは叫び、連続側転を打ってトライアングル・リープを決め、足軽隊の中へと無様に逃げ込んだ。「「アイエエエエエエ!」」その猛毒の血飛沫を浴び、数名の足軽が悲鳴をあげた。ユフコは己の死を悟り、目を閉じ、南無阿弥陀仏と唱えた。 40

2020-10-22 22:00:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キルジマは血に餓えた猟犬の如くコッカトリスを追おうとし、寸前で踏み留まった。側転を打ちユフコの磔台へと向かった。足軽の槍の穂先がユフコの腹を障子戸めいて突き破る寸前、キルジマの刀が背後から足軽の首を刎ねた。返す刀で、キルジマは彼女を拘束する荒縄と猿轡をもろともに断ち切った。 41

2020-10-22 22:03:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サムライニンジャスレイヤー【ハイヌーン・ニンジャ・ノーマッド】 #5終わり 明日の最終セクション #6へ続く

2020-10-22 22:06:00