ハイヌ-ン・ニンジャ・ノーマッド #5

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【今回のエピソード】 ・「ニンジャスレイヤーPLUS」に掲載の過去編エピソード ・時系列は戦国時代のどこか ・ニンジャスレイヤーはネオサイタマだけでなく、過去にもさまざまな時代、さまざまな場所に存在した ・ニンジャスレイヤーとなった主人公「キルジマ」は、薬師の「ユフコ」に命を救われた

2020-10-22 19:50:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【これまでのあらすじ】 ・街道街オミノロシは、冷酷な代官の支配下にあった。 ・キルジマはユフコに別れを告げ家を出た。 ・次の日の正午、キルジマは代官の伝令がニンジャであると見抜いており、庄屋屋敷の前でこれに挑み、殺した。 ・一方、密告を受けたユフコのもとには謎の虚無僧が現れ……。

2020-10-22 19:55:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サムライニンジャスレイヤー【ハイヌーン・ニンジャ・ノーマッド】 #5

2020-10-22 20:00:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あッ」と叫び、斬り掛かったはずの足軽の首が高く飛んだ。切断面から血が噴き上がり、残った体は帯を引かれた芸者のように回転し、刀を構えたまま後ろに倒れて大八車の上に転がった。醜く荒っぽい切断面だった。 1

2020-10-22 20:03:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

直後、数十の叫びと怒号が大通りを満たした。キルジマのニンジャ聴力は、その奥で塗り潰されるユフコの悲鳴を確かに捉えていた。歯軋りし、キルジマの額と脛から血が滴り落ちた。 2

2020-10-22 20:06:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「奴は手負いだ!」「ヨツヤノクニの紋にかけて!」「落武者を殺せ!」オカミへの熱烈な忠誠心で目をぎらぎらと輝かせ、なお立ち塞がる足軽部隊。「聞け! 奴を討ち取った者には、代官様より米二〇俵が贈られる!」 3

2020-10-22 20:09:00
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「おい、聞いたか!」「やるぞ!」「殺せ! 殺せ! 殺せーッ!」目の色変える若者連中、ヤクザ、戦闘花魁、相撲取り崩れ。掲げられる槍、刀、鍬、鎌、仕込み扇子、金棒。家々の二階から射掛けられる退役浪人たちの矢の雨、あるいは投網、石飛礫! 4

2020-10-22 20:12:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤッー!」キルジマは群がる敵を右へ左へと斬り捨てながら、無慈悲に突き進んだ。「「グワーッ!」」絶叫と血が飛ぶ!「イヤッー!」キルジマは宿屋の二階から射掛けられた弓矢を刀で斬り捨て、そのまま回転斬撃。目の前の足軽を逆袈裟に斬り上げた。「グワーッ!」血飛沫、返り血! 5

2020-10-22 20:15:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

目の前の死体を蹴って、キルジマは大八車の上へ。両足に力を込める。鋼鉄面頰から黒い蒸気。高く回転跳躍。「イヤッー!」屋根瓦へと着地。骨が軋み、脚が悲鳴をあげた。顔を歪め着地。再び走り出す。ユフコの家がある職人通りの方向へ。そしてもう一人のニンジャの気配に向かって。 6

2020-10-22 20:18:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キルジマは凡庸な男ではない。確かに感じ取っている。いまやオミノロシの大気はオカミへの狂った忠誠心と欲望、そしてニンジャの邪な気配が混ざり合い、異様なアトモスフィアを醸していた。それに呑まれた足軽や町人らが罵り声を上げ、憎悪とともにキルジマの後を追う。残忍なる鮫の群れの如く。 7

2020-10-22 20:21:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

正午。ニンジャ。流れ者。空には輝かしい太陽と、雲ひとつない青空。だが銀山から吹き下ろす乾いた風に乗るのは、死せる怨霊どもの無念の声。いまやその声無き声は、ニンジャを殺せ、ニンジャを殺してくれと、キルジマに囁きかけていた。 8

2020-10-22 20:24:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

頭の中でノイズ混じりに響き渡る。その中、ひときわ鋭く、錐のように突き刺さる声。……ユフコを。あの宿場町に残してしまった。拙者の妻を。悪意から。ニンジャの暴威から。救い出してくれと。……その声はナラクの哄笑と混ざり合い、キルジマに力をもたらす。 9

2020-10-22 20:27:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

己の声ではない。これは断じて己の心ではない。これは己の復讐だ。何者にも操らせはせぬ。己自身の家のための復讐だ。ただ地獄へと続く復讐だ。誰も背負って行く気など無い。誰をも巻き込む気など無い。だが今は、流れ込んでくるニンジャへの憎悪が己の力となる。 10

2020-10-22 20:30:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

心臓が憎悪の力で脈打ち、視界が真っ赤に染まってゆく。全身に力がみなぎってゆく。ニンジャを殺すための力が。もはや引き返す道は無し。たとえ永遠に呪われようとも。己はあの日のニンジャを殺す。妻子を虫けらの如く殺めた憎きニンジャを……! 11

2020-10-22 20:33:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「Wasshoi!」ニンジャスレイヤーは回転跳躍し、長屋の屋根から飛び降りて井戸の横へと着地。職人通りの入り口を睨んだ。既に足軽たちが守りを固め、槍の穂先を彼に向けていた。今日オミノロシにやってきた足軽隊は初めから二手に別れ、片方は庄屋屋敷へ、もう片方は職人通りへと向かっていたのだ。 12

2020-10-22 20:36:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「磔にしろ」虚無笠の男が戸を開け、家の中からユフコを通りへと転がした。その帯をぐっと引きながら。「ンアーッ!」ユフコは独楽のように回転し、足軽と町人の群がる通りに半裸で転がった。真昼の太陽の下、白い胸元や太腿が顕となった。 14

2020-10-22 20:42:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

恥辱のあまり、ユフコの顔から更に血の気が引いていった。手は無意識のうちにセプクのための刃物を探し求め、無いと解るや、舌を噛んでセプクを試みた。「まだ死なせるな」と虚無笠の男が手で指図すると、すぐに足軽が猿轡を噛ませて彼女のセプクを阻止した。 15

2020-10-22 20:45:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「勿体ねえ……」「ナムサンポ……」足軽たちはゴクリと生唾を飲みながら、ユフコの体を磔台に固定していった。「イッヒヒヒ! 罪状は如何いたしましょうか」書道筆と木板を持った老人が虚無笠ニンジャの横に駆け寄り、下卑た笑みを浮かべながら、頭を深々と下げて問うた。 16

2020-10-22 20:48:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「罪状など決まっておろう、『この女、オカミに対して反逆を企てた疑いにより、辱めののち処刑いたし候』……」虚無笠の男が云いかけた。その時、大通りの側から片腕を斬られた足軽が失禁しながら走ってきた。「たッ、大変です!ツネオ=サンが落武者の手に掛かって……!庄屋の家も潰されッ……!」17

2020-10-22 20:51:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おい、あれは……!」別の足軽が声を震わせ、その後方を指差した。じゃり、じゃりと小石を踏み砕きながら職人通りを歩いてくる、邪悪な人影があった。それは刀を右手に握り、全身を返り血で真っ赤に染めた、怪物じみた落武者であった。 18

2020-10-22 20:54:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

鋼鉄面頰からは黒い蒸気。その落武者の一歩一歩には凄まじいまでの執念と憤怒が篭り、通りの土に草履の型が押し付けられるほどであった。「ほう」虚無笠の男は、笠の奥で目を細めた。落武者は傷を負った片足を庇い、走ることもできぬほど憔悴していると見えた。 19

2020-10-22 20:57:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンアアアーッ!」家の前で磔にされたユフコは、猿轡を咬まされたままもがき、叫ぼうとした。「この数では勝てませぬ。お逃げください!」と。だがその言葉はキルジマには聞き取れなかった。否、聞き取れたとて、キルジマは止まらなかったであろう。 20

2020-10-22 21:00:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

落武者はユフコに向かってゆっくりと歩を進めた。これを罷り通らせてはオカミの名誉に泥を塗る。足軽が何人か挑みかかった。すぐに斬り捨てられた。町人や足軽は左右に分かれて道の端に引き、阻む者はいなくなった。落武者からユフコの磔台まであと畳二十枚の距離であった。 21

2020-10-22 21:03:00