小倉美惠子『諏訪式。』(亜紀書房)を+Mさんが読むスレッド

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+M laboratory @freakscafe

聞いたことに答えてくれるわけでもないのだが、その人のように聞いてくれる人はいない。 自分のことを特に心配してくれるわけでもないが、いつも気にかけてくれているようにも感じる。 なんであれ、その人がその人のように存在するこの世界は、まだ大丈夫だと安心する。

2020-10-31 10:38:45
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小倉美惠子『諏訪式。』(亜紀書房)。 名著『オオカミの護符』に次ぐ、作家・映画プロデューサー小倉美惠子の新著。 前著も本作も、江戸或いは縄文の昔からつい最近まで、身体から身体へと引き継がれてきた人びとの非-言語的な記憶を掘り起こしたい、という強い動機に引かれて書かれているように思う。 pic.twitter.com/Gw7WdwTPWS

2020-10-31 12:18:17
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+M laboratory @freakscafe

諏訪という土地の中心、諏訪湖は、「中央構造線とフォッサマグナの交わるところであり、建御名方神と洩矢神の対峙に象徴される稲作と狩猟採集の文化がせめぎ合い、融合してきた場であり、東と西がぶつかり合い拮抗してきた日本列島のヘソであり、“空”でもあるのだ」。

2020-10-31 12:24:08
+M laboratory @freakscafe

つまり、諏訪は、二つの共同体の生理がぶつかり合う「あいだ」の時空であった。 小倉は、「人間だけが集う場所には上下が生まれ、利害が生じる。しかし、諏訪湖に意識を向けて、神や仏を宿らせることで諏訪は結び合ってきたのではないか」と書く。

2020-10-31 12:29:42
+M laboratory @freakscafe

「あいだ」の時空に暮らす人々は、単一の共同性に包摂されない、独立独歩の気風を育む。 諏訪圏内には、二千社を超える「ものづくり企業」が存在するという。人口二十万だから、百人に一人は精密機械企業の経営者という勘定だ。異常値である。

2020-10-31 12:34:46
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そのうちの一つ、オルゴール生産で世界の八割に上るシェアを占める三協精機の創業者、山田正彦は、社史『オルゴールの詩ー東洋のスイス物語』のなかで、「原点は百姓です。背広を着てどんなにいい格好をしても百姓は百姓です。それを忘れてしまったら挫折します」と書いている。

2020-10-31 12:38:28
+M laboratory @freakscafe

ここで、「百姓」というのは、農民ということではなく、歴史家の網野善彦が説いたように、まさしく「百の姓」、人間が暮らしをたてていくにあたり必要とされる技術一般を身につけた、総合的な人間像のことを指すのだろう。

2020-10-31 12:41:06
+M laboratory @freakscafe

諏訪は、勾配が激しく、冬にはすべてが凍てつく。自然が厳しい土地柄だ。諏訪人は、その厳しさに向き合って、自力で工夫して生き延びてきた。温暖な土地であれば、四季を通じて野良仕事に精を出せばよいが、諏訪ではそうはいかない。例えば、冬にはその寒さを逆手にとった寒天づくりが考えだされる。

2020-10-31 12:48:56
+M laboratory @freakscafe

物の理を多方面から考えるには、対象を立体的に見ていかなければならない。そこに「科学的」な発想が要請される。単に決まったことを決まったようにやっていては、すぐに行き詰まってしまう。普通に考えれば厳しい状況でも、それを逆手にとれば、「普通」以上の何かぎ引き出せるかもしれない。

2020-10-31 12:53:26
+M laboratory @freakscafe

諏訪は、大資本のチェーン店が少なく、諏訪から発した世界的な企業も「地生え」の企業が多い。縄文の昔から育まれてきた諏訪人の気質が、そのまま近代の殖産興業の要請にも対応している。だから、諏訪という土地は、近代になって根こそぎ再開発された工業地帯などとはまったく違う雰囲気が残っている。

2020-10-31 12:59:00
+M laboratory @freakscafe

「独創性に富んだ発想には、自分の足場に引き寄せて考える「強い引力」が不可欠だ。引き寄せる力の強さは、「根」の深さに比例する。厳しい風土に向き合ってきた先人の姿こそ、「諏訪人」の本当の強さの秘訣なのではないだろうか。」

2020-10-31 13:04:03