キタノ・アンダーグラウンド #4
「アバー……」老人は呻きながら、サバをコメに押し付けた。……スシになった。「やっぱムラノ=サンだ」イシモが言った。「近所のスシ屋なんだ。子供の頃、鍵っ子の俺にスシ食わせてくれたっけ。ゾンビーになっても生前の動きを……」「ゾンビーではありません、これはタノシイの薬物中毒で……」22
2020-11-06 22:07:45「アバー……。……。……」ギュッ。ギュッ。コメとサバを挟まれるたび、老人はスシを次々に作っていった。イシモは神妙な顔でスシを受け取った。次第に……老人の顔に緊張が戻り……目に光が戻った。「ワシは……スシを握っている」「ムラノ=サン!あんた、ムラノ=サンだよな?」「ワシは……」 23
2020-11-06 22:11:11老人はさらに力強くスシを握った。握りながら、話し始めた。「そうだ。ワシはスシ屋を立ち退きさせられ……路上に放り出され、どうにもならなくなり……タノシイに頼るようになった。それから先の事は、よく覚えていない……まるで悪い夢だ……」「でも、治りました」コトブキがスシを受け取った。 24
2020-11-06 22:14:47コトブキと中年男性達は、ムラノ老人が握るスシを持ち、フロアをうろつく他の住人たちの口に押し込んでいった。「アバー」「アバー……アッ……ア、アイエエエ!?」「ア、ア、ア……!」「スシ……」「ウマイ……」彼らの自我が研ぎ澄まされていった。「俺は一体……」「ここは……?」 25
2020-11-06 22:17:57「うまくいったみたいです」コトブキは言った。そして呆然とする彼らにチャを準備した。「皆さんはタノシイの薬物中毒状態に陥っており、おそらく飲まず食わずだったのでしょう……栄養素も欠乏していたんです。スシがその助けになりました」彼女は医療的にコメントし、そして再び表情を引き締めた。26
2020-11-06 22:23:37「しかし、残念ながらこのままスシ・パーティーとはいかないのです。ジアゲのヤクザが再び襲ってくるでしょう。あなた方を暴力で追い出した者達です。このピザタキを最後の砦にして、戦わなければ……!」「よ……よし」「クソが……!」彼らはバールや野球バット、鉄パイプ、モップを手にとった。 27
2020-11-06 22:26:05『オイ!どうなってンだ!平気なのか?』レジ横のモニタでタキが喚いた。コトブキは頷いた。「これだけ戦力があれば、どうにか時間を稼ぐことができるはず……!」28
2020-11-06 22:30:27「センパイ……もう帰りましょうよ……」「うるさい!」ピザスキの営業サラリマン、ノミタケとチャノ・センパイは、キタノスクエアビルの道路を挟んだ向かいの雑居ビルの非常階段から望遠ゴーグルで虚しく様子を覗っていた。彼らは本社に報告を入れたが一笑に伏され、より深い調査を命令されたのだ。30
2020-11-06 22:35:18「さっき入っていったの、ヤクザじゃないですか?メチャクチャ揉めてるんじゃ」「だ……だったら好都合だよ!」チャノは声を荒げ、虚勢を張った。「ヤクザに頑張ってもらって、放火でもしてもらってさ!灰にしてもらえばいい!よろしくやってピザスキが新規出店だ。ピンチをチャンスにしろ!」 31
2020-11-06 22:37:29「チャンスってさあ……なんだよそれ」ノミタケは舌打ちした。苛立ちによって、彼はシツレイを隠さなくなってきていた。センパイは職務上は同格で、上司ではない。ネンコに根ざした曖昧なリスペクト構造なのだ。「お前なあ!」「ハイハイ、わかりましたよ……あれ?クルマが……」 32
2020-11-06 22:42:00ゴゴゴ……轟音を伴い、黒漆塗りの無骨な車両がスクエアに進入してきた。路上駐車のバイクを容易く轢き潰し、キタノスクエアビル、ピザタキの前で、真っ黒の排気ガスを噴射して停止した。「何だ?さっきと様子が……」ノミタケはスコープゴーグルでよく見ようとした。KBAM!ゴーグルが火を噴いた。33
2020-11-06 22:46:26「グワーッ!」ノミタケは顔を焼かれ、苦悶して倒れ込んだ。「オイ、ノミタケ=サン!?しっかりしろ!」「アバーッ!」チャノは慌てて上着で火を叩き消した。ノミタケは瀕死!彼らには知る由もない事だが、それは実際、その黒漆塗りの装甲車両が備えた電磁波による防衛機構の為せるわざであった。 34
2020-11-06 22:48:46「い……一体……これは」チャノは身を乗り出し、再度、装甲車を確認しようとした。装甲車の横には、車内から降り立った謎めいた影が立っていた。影と、目が合った。「イヤーッ!」KA-BOOOOM!雑居ビル非常階段が爆炎に呑まれた!影が投じた投擲武器……ナパームスリケンだ! 35
2020-11-06 22:51:53……キュキュイイイ。影の……ニンジャのフルメンポの奥から、フォーカス音が響いた。彼は少し首を傾げたが、それは些事とばかり、キタノスクエアビルに向き直った。ニンジャがパチンと指を鳴らすと、黒漆塗り装甲車両の中から、エメツ含有ボディスーツで武装したクローンヤクザが降りてきた。 36
2020-11-06 22:56:45「御用……御用」「御用御用」爆発に反応したか、サイレン音が付近に鳴り響き、反重力バイクに乗った治安部隊が別々の方向から走りきた。彼らはホロ赤灯を空に投射した。「侵入禁止」「犯罪捜査中」。反重力バイクや乗り手の装備には「KATANA」と書かれている。カタナ社の治安維持パトロール部隊! 37
2020-11-06 23:01:21彼らは付近の道路を塞ぐように陣取り、そして……黒漆塗り装甲車両のニンジャに……会釈したのである。「現在、危険な立て籠もり犯罪が発生しております。近隣住民の皆さんは決して屋外に出ず、鎮圧アナウンスを流すまで、安全に待機してください」警告音声には白々しさがあった。 38
2020-11-06 23:03:47「何スか!」路地裏から派手なスーツを着たサラリマンが走り出て、ニンジャのもとにやってきた。サラリマンはカワザ社の社章をつけている。「何があったんです?カ、カワザCEOの指示と違うッスけど……!」「いかにも」ニンジャは腕組みをして、頷いた。「少し事態を複雑……いや、シンプルにする」39
2020-11-06 23:06:59彼はキタノスクエアビルのピザタキを見た。今や窓は横倒しのテーブルで塞がれ、バリケード化されている。「あ、アンタ……出向社員でしょ……?」「頭が高いぞ、チンピラ」ニンジャは言った。「地下鉄開通は一大プロジェクトだ。最初からそうだった筈だが?」「エ……」「イヤーッ!」「グワーッ!」40
2020-11-06 23:10:48ニンジャはサラリマンの顔に羊皮紙を叩きつけ、羊皮紙越し、彼の額に親指を押し付けた。シガーライターソケットめいて、焼印が刻まれた。「アババーッ!」悶絶して倒れ込んだサラリマンを蹴飛ばし、ニンジャは羊皮紙を裏返した。それはカワザCEOのハンコが用いられた契約書であった。全権委任。 41
2020-11-06 23:12:58『モシモシ?ブリムストーン=サン。動くことは可能ですか』オペレータのIRCメッセージに、ニンジャは頷いた。「いつでも良いぞ。たった今、略式の契約確認も済ませたところだ」『攻撃開始合図は……』「私によこせ」『ハイヨロコンデー』通信を終えると、ブリムストーンはハンドサインを出す。 42
2020-11-06 23:15:58ザッ。ザッ。ザッ。完全武装クローンヤクザがピザタキの周囲に展開した。スムーズにジアゲが達成できず、CEOに不測の事態が起こった場合……プロジェクト監督者として、カタナ社がこのプロジェクトの指揮権を獲得する。建設するのはアンダーグラウンド・キタノ駅。領有権の過半数はカタナに帰属。43
2020-11-06 23:19:15「遊びは終わりだ、キタノスクエアビルの皆さん」ブリムストーンは言った。彼が指を鳴らし、ジツを込めると、完全武装クローンヤクザのスーツが高熱を帯び、赤く光り始めた。 44
2020-11-06 23:20:56