勝負師🦋さんと組長🦋エさんのお話

うみねこ。 @sea_cat_777

勝負師として生きご飯を食べてきた🦋さんが、すごい美人で笑顔が素敵な胡蝶組の長に賭け事を挑まれ、🦋さん得意なゲームでボロ負け、多額の借金を背負わされ、煮るなり焼くなり好きにしてくれとヤケになってたら、何故か温かいご飯を食べさせられふかふかお布団で寝かされてスペ猫になる話も考えてた

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「あなたね？　最近うちのカジノを潰して回ってる子は」 机の上のチップをかき集めていると、そう話しかけられた スーツを着こなした美人秘書とでもいうような女性がにこにこ笑っていた　後ろに二人、厳つい男が控えているところを見ると、ここの女主人なのだろう 私はにっこり笑ってみせた

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「あら、そんなつもりはなかったんですが。ルールに則って、楽しく遊んでいただけですよ？」 そちらがイカサマを使ってもなお、弱いのが悪いのでは？と言外に匂わせておく　生意気とも取れる言葉に彼女は気を悪くした様子はない むしろ、楽しげに笑って私に問いかけた 「あなたのお名前は？」

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「普通、先に名乗るのが筋ではありませんか？」 そういうと目をぱちくりとさせ、「確かにそうね！」と納得したように頷く　ごそごそとスーツの内側を探り、名刺を取り出し私に差し出した 「はじめまして、胡蝶カナエといいます。よろしくね？」 ほわほわとした名乗りを聞いた後名刺を見て、固まった

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胡蝶組、組長！？ 思わず二度見する　お花が舞うようなゆるふわなこの人が、組長？ 「どうかした？」 「……いえ、何でもありません」 私は小さく息を吐き出す　相手がなんであれ構わない　賭け事の前では皆平等、身分なんて関係ない 笑顔を浮かべ名乗る 「しのぶです。苗字なんて、捨てました」

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そう口にすれば、大抵の人間は薄汚い鼠を見る蔑みか、哀れな小娘への同情の眼差しをくれる でも、この人は違った 「あら、それは好都合ね」 にぃっと笑ったのだ　獲物を見るような目でゾクっとした うるさく騒ぐ親がいないから簡単に命が屠れると思ったのか 警戒心を強め、一挙一動を見守る

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「別にあなたを殺そうなんて思ってないわ」 両手をひらひらと揺らし、苦笑するように言ったが、警戒は緩めない いつだって人は嘘をつく　油断した瞬間、様々なものを奪われるの　命だって例外じゃない 女はふむ、と考えるように顎に手を当てる 「まぁ、カタギじゃない私が言っても説得力はないわよね」

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ディーラーの方に声をかけ、私の正面に座る　机の上にあるトランプを手慣れた様子でシャッフルする 「シンプルにいきましょう？　今からかけるのは互いの未来。あなたが私から全てのチップを奪い取れたなら、なんでも一つ言うことを聞きましょう。その代わり、」 私の前に積み上がったチップを一つ取る

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「もし、私がそのチップを全て取ったなら、あなたの全てをいただくわ」 「それでは、私が不利じゃないですか」 「わかってるわ？　だから、新たに1000万、あなたにあげる」 ぱんぱんと手を叩けば、女の付き人の一人が動き、ジュラルミンケースを持ってきた　開けて見せられた札の束に眩暈がした

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「それを崩してもいいし、崩さなくてもいい。それこそ、使う前に私に勝てば勝った分も含めそのお金もあげる」 「それで、あなたに得はあるんですか」 「ふふ、勝利条件として伝えたと思うのだけれど」 にこにこと女は告げる 「あなたのすべてが手に入るのなら、それでいい」 どうする？　やってみる？

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聖母のような、あるいは、悪魔のような笑みを浮かべて問いかけられ、私はごくりと唾を飲んだ 手元のチップはざっと試算して500万、女の前に並べられたチップは1500万　勝てば3000万と願いが一つ叶えてもらえる 本当に、悪魔の誘いみたいね 小さく笑い、宣戦布告の代わりに早速1000万丸々チップに換えた

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自分自身を失うとしても、賭けに乗らずして何が勝負師か！ 自らの生き方を示すつもりで、1000万分一気に前へ押し出した 「あら、まだ手札も配ってないわよ？」 「負ける気、しませんから」 挑戦的に笑い、そばに控えるディーラーに視線で促す 人生において最もひりつく戦いが始まった

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選んだのはポーカー　運と駆け引きが試される、私が一番得意とするゲームでもある どういうわけか、この手のゲームでは運が上手く回る　別に、自分の持っている札が弱くとも、強いものだとうまく誤認させて降ろして賭け金を巻き上げてもいい 要は、相手をどれだけ騙せるか　それにかかっている

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そして、戦いはもうすでに始まっている　こうして、1000万円分のチップを賭けたこの時点から、だ　さすが組の長をしているというべきか、彼女の面白そうな表情は揺るがない 内心の動きを悟らせないのはいいギャンブラーの証拠 ……これは、手の内を読むのは難しそうね 私の演技力で誤魔化すしかない

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ディーラーから配られた2枚のカードに目を通しながら、相手の反応を窺う　彼女は手札を眺めていたが、すぐに視線に気づいて目を合わせてきた　微笑みかけられ、慌てて逸らす 視線に敏感なのね、あの人　綺麗な輝きを灯す桃色の瞳に私の考えが吸い込まれていきそう って、調子を崩されてどうする！

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大きく深呼吸をして、心のさざ波を落ち着かせる　初手を決めなければ、この先のゲームにもかかわってくる　強気に2/3の額を差し出したのだから、それだけの成果を取らなければ 手札はどちらも2　ワンペアは確実だ　だが、それでは勝てない 彼女はまだチップは賭けないらしい　ディーラーに次を促した

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ディーラーは頷いて、一番上のカードを捨てた後、三枚ゆっくりと場に並べた　 ２、Q、３ よし、と心の中で拳を握った　3カードは確定！ 顔にはちょっと困ったふうを乗せておく　ここで逃げられてはたまらない　ここは賭けてもらわなければならないところだ　できれば大きい額を

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相手はというと、微笑みから表情は動かない　とんとん、と軽く机を叩いて、私の方へ顔を向けた　 「どうだった？」 ただ一言、そう聞かれた　反応を見られているとわかっている　だから、私は素知らぬ顔で答える 「正直まだわからないです。まだ二枚、残っていますしね？」 「そう」

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あの人はニコッと笑って、自分のチップから同じ額、1000万円分差し出した　そんな額、出しても大丈夫ですか、と言いたくなった　もしかして、私よりもっと強い手を持っているの？ 「どうしたの、しのぶ？」 「いえ、よほど自信があるんだなぁと思いまして」 「勢いって大事でしょう？」

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そんな風に笑うのは余裕か、それとも、仮面か 「それから一つ、宣言しておくけれど。私は、どんな手であろうと、降りたりしないわ」 「は？」 「札の入れ替えは利用するけど、弱くても強くても、その札で勝負をします」 なんのつもり？ 微笑むあの人の裏が全く読めない

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降りないということは、必ず賭け金を支払い続けると言う宣言であり、様子見もしないという損益を無視したものだ 降りることは悪いことじゃない 普通、降りることも含めて作戦であり、負けのリスクを回避する方法なのだから この人にとってこのくらいのお金は端金なのかもしれないけど

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「もちろん、しのぶにそれを強要するつもりはないわ。もう一つ、これは提案なんだけど」 そう言って、あの人は懐から紙を取り出した　見れば借用書とあり、上限金3500万で貸し付ける旨が書いてあった　しかも、法外な金利がかけられている 私が負けるとでも？ 怒りを覚えたが、なんとか押さえつける

うみねこ。 @sea_cat_777

「……わざわざお金を貸し付けてくれるだなんて、お優しいですね、組長さん」 「うーん、あんまり響きが好きじゃないから、組長より、カナエさんって呼んで欲しいんだけれど」 少し困った顔をしながら、組長は人の良さそうな笑みのまま言った 「私も借りるの。ほら、サインしたものもあるわ」

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渡された紙には惚れ惚れとするほど綺麗な筆跡で名前が書いてあった 「ここ、見て？　『勝者が借り上げた金額の返済も負う』とあるでしょう？　つまり、あなたが勝てば総額1億手に入り、負けた私は7000万円と金利分、この場合……2100万ほど補填しないといけないかな？」 大損益だわと笑った ぞっとした