勝負師🦋さんと組長🦋エさんのお話

うみねこ。 @sea_cat_777

負けた方には約一億ほど借金を背負わすと言ったのだ　私には到底返せない額、しかもあの金利だ　雪だるま式に増えていく だから、お前の全てをよこせって言われたのか 計画的な犯行だと理解し、唇を噛んだ 調子に乗って同じ系列で遊びすぎた私の責任 もう、賭けは始まっている　逃げることは、できない

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私は渡されたペンを取りサインをした　朱肉を手渡す彼女を制し、尖ったペンの先で親指の腹に傷をつけた　痛みにぐっとたえる 滲む血を朱肉代わりにぐりぐりと押し付け、目を見開く相手に放った 「これで、いいでしょう？」 「だめよ、自分の身は大事にしなくちゃ！　絆創膏を、」 「結構です」

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服の袖で包みぎゅっと握りしめながら、断った　優しさを破滅に追いやろうとしている相手に向けるな　中途半端な善人面は見苦しいわ 組長ははぁとため息をつき、付き人に視線だけ送って、チップ変換された3500万を私によこした 「現金じゃない方がいいんでしょう」 「わかっていただけてなによりです」

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「ゲームの続きといきましょうか、ディーラー、」 「私も、降りません。絶対に」 「いいの？」 「ええ、でないと、フェアじゃないでしょう？」 そう言い放てば、組長は目を細めた 「取り消せないけど、大丈夫？」 「もちろん。なので、2枚一気に配ってください」

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札を変えずとも、この手札なら勝てる可能性が高い　そして何より、この人に舐められたままではいられなかった 「ふふ、そういうところ、好きよしのぶ」 心から言っているとでも言うような甘い囁きを鼻であしらう ディーラーが出したカードは、3、Q 私はフルハウス、相手は 「あら、負けちゃったわね」

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Qと3のツーペアだった 気にした様子もなく、私へチップを寄せる　まずは勝てたことにほっとする 同時に自分に運が向いていると感じた 思い切って再度1000万分、チップを差し出して、畳み掛ける なぜ組長が後出しのように金貸しを提案したのか、考えもしないで ーーそこからが、始まりだった

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運とは巡るもの　最初に勝てたからと言って、次も勝利をもぎ取れるとは限らない 「今度は、私の勝ちね」 私はツーペア、相手はスリーカード 仕方ないとチップを向こうへ寄せた まだ焦るときじゃないとその時は思った　振出しに戻っただけだと　 降りることが出来ない以上、粛々と受け入れるしかない

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しかし、次も、その次も、組長が勝利を収めた 内容はフォーカード、ストレートとかなり強い手　だから、イカサマを疑った　どれだけ運がいいからと言ってそんなにきれいに集まるとは思えない　ディーラーと共謀しているのでは、と だけれど、見る限りでは、彼らがコンタクトを取り合う様子はない

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毎回ディーラーがカードを切り直し、組長、私の順で好きな回数切って手渡している 組長がイカサマを仕掛けた場合、私にバレてしまう可能性は高い　そもそも、私がどれだけ切るかわからないのだから、事前の仕込みは意味をなさない　であれば、次点で考えられるのは、ゲームの最中に仕込んでいる可能性

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その線も正直薄いのではと思っている　というのも、組長は絶対に両手を場に出すようにし、腕まくりをした状態でゲームに挑んでいたからだ　イカサマはしないという意思表示ともいえる　ずっと目を光らせていても、怪しい動きはない ……組長自身の運と実力で勝っていると、認めざるを得ない

うみねこ。 @sea_cat_777

本当に、札を取り換えるタイミングが神がかっている 最初に2枚取り換える時もあれば、場に4枚揃った時点で1枚だけ取り替えることもある　その判断が素早く、的確だった そういえば、札を確認するとき、必ず指先で机を叩いている　 その回数が何を意味するのか　これが、勝ちを拾う鍵になるかもしれない

うみねこ。 @sea_cat_777

「ふふ、随分と考え込んでいるわね、しのぶ」 「こう何度も負けると、凹んでしまうのですよ」 軽口を叩きながら、手持ちのチップを確認する　現在の額は元手の1500万円に戻ってしまった　ここからは相手の動向を見ていく必要がある　500万円分差し出すと、組長は微笑んだ 「自信がなくなっちゃった？」

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安い挑発には乗らない　にっこりと笑いながら答える 「こんなに楽しいゲームを簡単に終わらせるなんてもったいないじゃないですか。もう少しゆっくりしても、いいでしょう？」 「嬉しいなぁ、私も終わったら嫌だなって思っていたところなの」 また、思ってもいないことを……！　小さく拳を握った

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だめよ、冷静になりなさい　この回であの行動の意味を理解できなければ、負けるわ　もう二度と、誰にも奪われない、そう誓ったでしょう、しのぶ！ ふー、と息を吐いて、手札を取る　エースと2、何とも微妙なカード 相変わらずあの人は微笑み浮かべている　今にも鼻歌を歌いそうな雰囲気があった

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相手の差し出したチップは同額の500万　先ほどから同じ額分出してくるのも、足並みをそろえると言いたげでちょっとイライラする 場に並んだ最初の三枚は２、７，５　それも、すべてスペード　自分の手札に目を向ける、前に、組長の様子を見る　手が、動いた！ とん、と一度だけ、机を叩いた

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現在の状況で一度だけ、というのを頭に入れながら、次の一枚が場に出るのを待つ　自分の手札はワンペア、だけれど、2はスペード　次の手札次第では、いい役が取れそうだった ディーラーが一枚提示する　ハートの7 ここは勝負に出るべき、と考えながら、また組長の指先に目を向けた　とんとん、と動いた

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なんとなく、理解できたかもしれないと思いつつ、手札の交換を申し出た　一か八か、エースをディーラーに手渡す 祈るような気持ちで差し出された手札をめくり、口の端が自然と上がった 「あら？　ご機嫌ね。これは負けたかしら？」 「さぁ、どうでしょうね？　組長さんは手札はもういいんですか？」

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「ええ、これ以上はいい手は生まれないと思うから」 そう言って微笑んだ 出された手札を見て、確信する 私はスペードの絵柄で揃えてフラッシュを決め、組長は場の７と手持ちのQでツーペア フォーカードの時は四回、ツーペアは二回、ストレートは五回　揃ったカードの枚数分、指を動かしている！

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単純すぎるし、癖のようなものだろう　でも、この場では致命的　次の手次第では一気に畳みかけてもいいかもしれない 「方針が決まったみたいね」 「ええ、勝つと気分が晴れるものです。次も、決めてみせます」 あくまで謙虚に500万差し出す　気づいたと悟られてはいけない　慎重に足場を固めなければ

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手元にやってきた札は6と7　どちらもダイヤ ディーラーが並べた三枚はなんと、同じマークのダイヤで８，９、A こんな奇跡あるのかと思いながら、組長の手元を見た　何も動かない　これは、冒険してもいいかもしれない 残りの金額のチップをすべて前に出す 組長の表情が初めて微笑み以外に変わった

うみねこ。 @sea_cat_777

目を丸くして、驚いた顔をしている 「大丈夫？　今なら戻してもいいわよ」 「勝負をかけるタイミングは私が決めます。組長さんはそのままでもいいですけれどね？」 ダイヤの10が出なければ、負ける可能性の方が高い 馬鹿のやることだと笑う人もいるだろう でも、私はその奇跡にすべてを賭ける

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そうやって、私はここまで進んできたのだから！ 組長さんはじぃっと私を見た後、一つ頷いた 「しのぶがその気なら、私もすべてを賭けましょう」 そう言って、すべてのチップを場に乗せた　何を狙っているのかわからない　でも、その目は真剣そのもので、酔狂でやっているわけではないと悟った

うみねこ。 @sea_cat_777

組長がワンペアを取って、私が負けるか　私がストレートフラッシュを引き当ててすべてを手に入れるか　二つに一つ！ 意を汲んだディーラーが二枚一気に並べ、同時に開いた 「よっし！」 勝利を確信して、自分の手札を場に放った 「これで、」 「私の勝ちみたいね」 「……え？」

うみねこ。 @sea_cat_777

一瞬言われた意味が分からず、頭が真っ白になった 場に出ているのはすべてダイヤ、8、9、A、10、Q 組長は……ダイヤでJ、Kを持っていた 「ロイヤル、ストレート、フラッシュ……？」 たったの 0.00015％という確率をものにしたというの？ まさに勝利の女神が味方したとしか思えない手札だった

うみねこ。 @sea_cat_777

「まさかしのぶもダイヤを持っていただなんて、そんな奇跡もあるのね」 なんて楽しげに笑う組長を前に何も言えずにいた この瞬間、私の敗北は決まり、すべての未来が奪われたということになる 打ちひしがれる私へ、組長は言った 「これで、あなたは私の物。一緒に来てくれるわね、しのぶ？」