勝負師🦋さんと組長🦋エさんのお話

勝負事の世界で生きてきた🦋さんを組長🦋エさんが捕まえて大事に大事に愛を注ぐ話。
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うみねこ。 @sea_cat_777

拒否権などあるはずがなかった 何も言えない私の手を掴んで、組長は外へ向かって歩き出した これからどうなってしまうのだろう いや、そんなこと考える資格はない 私の生死はこの人の思うがまま そういう契約を交わしてしまったのだから 目の前が真っ暗になるように感じながら、組長の車に乗った

2020-12-02 00:28:49
うみねこ。 @sea_cat_777

*** 「はずなんだけどなぁ」 間の抜けた声が出ても仕方がないと思う 今、私がいるのはコンクリート造りの牢屋ではなく、ふっかふかのベッドの上なので 本当にふっかふか 枕すらもふっかふか まるで綿の上に寝ているみたいで、ちょっと落ち着かない 渡された寝巻も生地が滑らかで……気持ちいい

2020-12-02 00:31:25
うみねこ。 @sea_cat_777

命を取られると思っていたのに 見たことのないくらい大きなお屋敷に連れ込まれたと思ったら、温泉と見紛うようなひっろい浴槽のあるお風呂に連れていかれ、組長と一緒にゆっくりと湯あみをし、組長手ずから丁寧に髪を乾かしてくれて、お布団の中に押し込められたのである ちょっと意味が分かんない

2020-12-02 00:35:28
うみねこ。 @sea_cat_777

後でご飯にしましょうねぇ、なんてにこにこ言われたら、思わず宇宙に投げ出された猫みたいな顔になっても仕方がないと思う 私は、いったい、何を求められているのだろう 命ではなく、我が身の貞操の危機なのかもしれない お金を払ってでも人生を買おうとするってことは、もうそれ以外になくないです?

2020-12-02 00:38:34
うみねこ。 @sea_cat_777

違った悩みに悶々としているうちに、ふかふかのお布団に意識が吸い込まれ、眠りについてしまった 夢は見なかった 忌々しいことに今までの人生の中で一番良い睡眠をとったことは間違いなかった

2020-12-02 00:39:54

新生活

始まりから大波乱に……

うみねこ。 @sea_cat_777

意識がふわりと浮上してくる ふかふかと身体を押し返してくる感触を楽しみながら、寝返りを打ち手を横に伸ばす ふにゅ、と先ほどとは違う感触がした しかも、ちょっと暖かい 「ん……、大胆ね、しのぶ」 照れくさそうな女性の声がして……ん??? ぱちっと目を開けると、顔のいい女性がはにかんで

2020-12-02 08:37:03
うみねこ。 @sea_cat_777

瞬時にすべての記憶を取り戻した 音速で布団から飛び出し、部屋の壁に背中を引っ付ける 待って待って待って!? 思わず自分の身体に手を這わす 服は、着てる大丈夫! 大丈夫!? 「おはようしのぶ。朝から元気いっぱいで何よりだわ」 くすくす笑う女性、否、組長はベッドから優雅に降りてきた

2020-12-02 08:39:12
うみねこ。 @sea_cat_777

なんで同じお布団、いやいや、何で普通に熟睡しているのよ私! ここ、敵陣! 借金を無理やり背負わせ、有無を言わさずここへ連れ込んだ女の本拠地なのに! 「もう少し、寝顔を見ていたかったんだけどなぁ」 残念そうに言いながら、私の方へ歩いてくる せめてもの抵抗として、目いっぱい威嚇した

2020-12-02 08:42:43
うみねこ。 @sea_cat_777

さすがというべきか、当然というべきなのか 組長は全然気にしてない むしろかわいらしいなぁとでもいうように相好を崩し、あろうことか、私の頭を撫でてきた なっ、気安く触らないで! 撫で方上手いのもむかつく! 「よしよし、いい子ね。ご飯にしましょうねぇ」 私は! 幼児じゃ! ないです!

2020-12-02 08:46:08
うみねこ。 @sea_cat_777

お腹が空いているからぶちぎれているわけじゃないですふざけんな! 意に介していない様子でどこかへ電話した組長は、私の手を引いて椅子に座らせた 「まずは、その寝癖を綺麗にしましょうか。触ってもいい?」 「……どうぞご勝手に」 許可を取らなくてもいいです もう私は貴方の物なんでしょう?

2020-12-02 08:49:05
うみねこ。 @sea_cat_777

私の気持ちをすべて理解している、というように苦笑して、髪に櫛を通し始めた 本当に丁寧な手つきで、慈しむように優しい わからない、この人の考えていることが一つも 自分の系列のカジノを潰して回った人間に対する扱いではないと思う 本物の偽善者か、あるいは、人間を愛玩する趣味があるのか

2020-12-02 08:56:45
うみねこ。 @sea_cat_777

意図がわからない以上、油断はできない 気を引き締めないと、と思っていると、組長がぽんっと肩を叩いた 「できたわ。うん、かわいい」 「へ?」 鏡の向こう側の私に目を丸くする いつも下ろしていた髪は綺麗にまとめられていて、後頭部に紫の蝶が止まっている 組長がしているのと似た形状の蝶が

2020-12-02 08:58:57
うみねこ。 @sea_cat_777

「これは、」 「え、嫌だった? それとも、きつく縛りすぎた? もう少し緩める?」 「別に大丈夫です、じゃなくて」 口を開きかけて、止まる だって、どうして、なんて聞いても仕方がないじゃない 黙り込んだ私に組長は微笑んだ 「この蝶はね、胡蝶組の象徴なの」 「はい?」

2020-12-02 09:04:10
うみねこ。 @sea_cat_777

「この蝶飾りもね、私の継承が決まったときにもらったんだ」 そう言って自分の髪飾りに触れて笑う つまり、そのレプリカ、ということ? 「そんな大事なものなんで私に」 「この蝶があなたを守ってくれる。これをつけている限り、胡蝶組の子たちはもちろん、外の悪い大人たちにも狙われることはないわ」

2020-12-02 09:07:21
うみねこ。 @sea_cat_777

つまり、自分のものという印をつけただけか 理由がわかって、ちょっとほっとした 理由のない優しさよりはいい 「ああ、そうだ。もし、例外的に傷つけられたら、遠慮なく言ってね? 処理するから」 「しょり」 「ええ、処理。二度と会わないようにしてあげる」 組長はいい笑顔で言った こわい

2020-12-02 09:10:05
うみねこ。 @sea_cat_777

……処理の具体的な内容には触れない方がよさそうだ ぶるっと身震いをして、そっと目を逸らした 「それと、しのぶに渡したいものがあるんだった。ねぇ、どっちがいい?」 「どっち、って」 差し出されたのは、黒い紐と頑丈な黒皮のチョーカー え、っと、どっちも嫌な場合はどうすればいいでしょうか?

2020-12-02 09:13:43
うみねこ。 @sea_cat_777

「わんちゃんみたいに頑丈なのもいいかなぁって思ったんだけど、しのぶって猫っぽいでしょう? だから、紐も用意してみたの。サイズは大きめだから、苦しくはないと思うわよ?」 やっぱり私って愛玩動物枠で買われたのかも 当然拒否権はないので、紐の方にした まだアクセサリーっぽいし、健全っぽい

2020-12-02 09:16:02
うみねこ。 @sea_cat_777

「とっても似合うわ!」とはしゃぐ組長の様子を死んだ目で見つめる この人、ほんっとうにわからない! 「あ、迷子札も……」 「いりません!」 断固として拒否します!!! 本当に犬猫になったみたいで、惨めな気持ちが増すので! ちょっと残念そうな顔しないで!?

2020-12-02 09:18:21
うみねこ。 @sea_cat_777

なんとか迷子札とリードは回避した ほっと息つく間もなく、ノックと一緒に女の子が入ってくる 凛とした青い瞳が特徴的な二つ結びの子 使用人なのだろうか 同い年か、歳下のように見える 「カナエ様、用意しました」 「ありがとう、アオイ。あとは私がやるわ」 「では、机に置いておきます」

2020-12-02 09:58:33
うみねこ。 @sea_cat_777

彼女もまた小ぶりではあるが、青い蝶飾りがついていた きびきびと動く姿を観察していると目があった やや剣呑な瞳、小さく鼻を鳴らされた 「では、失礼します」 私からさらっと視線を外し、綺麗な一礼 そそくさと立ち去っていった まぁ、組長が変なだけで、あの子の反応が正当なものでしょうね

2020-12-02 10:02:15
うみねこ。 @sea_cat_777

やはり、この屋敷内のわたしの立場はあまりよろしくないらしい だからこそのこれか 蝶飾りに軽く触れ小さくため息をついた 変なトラブルに巻き込まれないように気をつけよう 「しのぶ、おいで?」 組長に手招かれ大人しくついて行く 椅子に座らせられる あの子が持ってきたのは、卵粥だった

2020-12-02 10:06:41
うみねこ。 @sea_cat_777

ほかほかと湯気が立ち、ふわりと優しい出汁の香りがする くーと鳴ったお腹を慌てて押さえる くすくすと笑われ、顔が赤くなるのがわかった 「食べていいのよ?」 そう言われましても 何が入ってるかわからないという思いが匙を握らせない 人からの施し物にいい思い出がなかったもので

2020-12-02 10:10:03
うみねこ。 @sea_cat_777

と、組長が匙を取る ひと匙掬うと、息を吹きかけ、口に入れた 呆気に取られる私を残し、ふわりと微笑んで「おいしい」と言った 部下が変に気を利かせる可能性もあるはずなのに、組長はなんの躊躇いもなかった 信頼してるから? でも、だとしても! 組長はもう一度掬い、優しく息を吹きかけ冷ました

2020-12-02 10:15:56
うみねこ。 @sea_cat_777

「はい、あーん?」 私の口の前に差し出されたそれをじっと見つめる 組長は首を傾げた 「口移しの方がいい?」 「自分で食べますッ!」 組長の手から匙を奪い取り、口の中に入れた …………おいしい 優しくて、温かい食事は、初めてかもしれない ぽろ、とこぼれ落ちかけた涙を気合いで押し留める

2020-12-02 10:19:57
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