日本の統計学導入と唯物弁証法

7
Tarotan @BluesNoNo

(1/9) すべてではないが,初等統計学の教科書やハウツー本での説明は,無歴史化・匿名化されているものが多いと私は思う.例えば,「母集団 vs 標本」という枠組みを,いつ誰がどうやって使ってきていたかについては,ほぼ触れられていないと思う.しかし,日本でも,戦中~戦後まもなくぐらいまでは,

2020-12-20 09:40:09
Tarotan @BluesNoNo

(2/9)(戦前に主流だったドイツ社会統計学だけではなく)推計学/推測統計学/数理統計学/統計数理においても,増山元三郎・北川敏男などによって統計学史が語られていた. そこで語られた統計学史は,私なりに劇画化すると,次のようなものである(以下は増山元三郎によるもの).

2020-12-20 09:40:09
Tarotan @BluesNoNo

(3/9) <高度な数学を用いた推計学は,大量観察に基づく古い記述統計学とは違う.古い記述統計学はKarl Pearsonが使っていた手法だが,新しい推計学はR.A.Fisherによって作られた.推計学では,母集団-標本という枠組みで事象を見る.推計学は,唯物弁証法に基づいている.>

2020-12-20 09:40:09
Tarotan @BluesNoNo

(4/9) のちのインタビューで,増山元三郎は,<推計学は唯物弁証法に基づいている>という説は,当時の社会主義系の学者にも統計学(推計学)に興味を持ってもらうために述べた,と回想している.

2020-12-20 09:40:10
Tarotan @BluesNoNo

(5/9) また,おそらくその当時は(今も?),<Karl Pearsonの『科学の文法』は,レーニンによって批判されている>という解釈が主流だったと思う.Karl Pearsonが標本/母集団という枠組みを既に整備した(...と私は思う)のだが,

2020-12-20 09:40:10
Tarotan @BluesNoNo

(6/9)レーニンが批判したとされているKarl Pearson を「推計学の祖」とするのは都合が悪かったのだろう(なお,Karl Pearsonを記述統計家とみなしているのは日本だけではないだろうか).増山元三郎らはR. A. Fisherが右寄りなのも知っていたとは思うのだが,

2020-12-20 09:40:10
Tarotan @BluesNoNo

(7/9) なぜか,戦後の一時期,<推計学= R.A. Fisher= 唯物弁証法>という宣伝を(増山元三郎は)行なった. 戦後日本の統計学者によるこのような統計学史は,(おそらくは,根拠が薄いし,本当であっても嘘であっても数理的性質の議論自体には関係ないので)現在ではあまり語られなくなった.

2020-12-20 09:40:10
Tarotan @BluesNoNo

(8/9) ただ,(日本では)Karl Pearsonを記述統計家に分類するのは,上記のような黒歴史の名残りじゃないかと私は思っている(エビデンスなし). なお,竹内啓(編) 1976『統計学の未来–推計学とその後の発展』が,その後の人達が過去の推計学を回顧・批判している書物になっていると思う.

2020-12-20 09:40:11
Tarotan @BluesNoNo

(9/9) 私はまったく知らないが,コミュニティの中では様々な統計学史が口承で伝えられているかもしれない. 以上の呟きは,私個人だけに責任があります.

2020-12-20 09:40:11
Minaka Nobuhiro 〈みなか食堂〉店主 @leeswijzer

農学分野では第二次世界大戦前のアンチ統計学的な「精密農業」学派が幅を利かせていて,敗戦後になってGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の方針により,推測統計学を積極的に導入せよとの命令が下されました.奥野忠一や畑村又好が全国の農業試験場を “統計行脚” するようになった背景です. twitter.com/BluesNoNo/stat…

2020-12-20 09:55:15
Minaka Nobuhiro 〈みなか食堂〉店主 @leeswijzer

続)一方で,敗戦後の時代は日本共産党指導の “民科” が大きな勢力をもっていて,さまざまな科学分野に影響を及ぼしていたわけで,増山本三郎の書きぶりは “民科寄り” かなあとも感じられるのですがどうなんでしょうか.いずれにしても,「GHQ vs. 民科」という対立図式がありそうなのが興味深いです.

2020-12-20 09:58:47

関連

石部統久 @mototchen

社会統計学の伝統その継承 4 推計学批判 blog.goo.ne.jp/anritoshio1214…

2020-12-20 22:21:26
リンク 4 推計学批判 - 社会統計学の伝統とその継承 4 推計学批判 - 社会統計学の伝統とその継承 社会統計学は数理統計的手法を社会経済現象の認識に適用することに,慎重である。それは社会経済現象そのものの多様性,複雑さを考慮にいれれば当然のことである。少なくとも,この手法の無批判的な活用は行わない。本章では,数理統計的手法に対する過大評価をいさめた社会統計学の領域での批判的研究について,その成果を紹介し,その意義を確認する。とはいえ,数理統計的手法の全般を検討の対象とするのではなく,ここでは推測統計学に関わる部分に限定する。その主な中身は統計的仮説検定論と標本調査論(「母集団―標本」理論)である。ただし

「戦後の科学界では弁証法に脚光があたっていたので,推測統計学論者もそれを援用した。しかし,多くは弁証法の勝手な解釈であった。推測統計学が唯物弁証法の利用と考えられたり,「帰無仮説」が弁証法の「否定の否定」の法則と結び付けられたりした(増山元三郎)。笑い話のようではあるが,ある意味,まじめに語られていたのである。(その後の研究では,推測統計学派の哲学的基礎は,プラグマティズムないし論理実証主義であることが明らかにされた)」

社会統計学の伝統その継承
4 推計学批判

https://blog.goo.ne.jp/anritoshio1214/e/28cdaee86979a7ab17c9a1a5bb0b4322

石部統久 @mototchen

J-STAGE Articles - 経済統計研究会編, 『社会科学としての統計学-日本における成果と展望』, 産業統計研究社刊 内海 庫一郎 1978 年 20 巻 3 号 p. 60 DOI doi.org/10.20633/tochi… pic.twitter.com/3R5aPHs8pf

2020-12-20 16:34:42
拡大