鰻怪談
鰻というのは、鯰様と同じように他の鰭物とは違った各の生き物で御座います。菩薩様の御使いとしてお慕い申し上げている村もあるだとか。そこのところをよく覚えておかねばなりません。一昔ほど前のことでしたか、そのことで随分と手ひどく懲らしめられたものたちがおりましてね。
2011-07-21 18:50:54その村はもうあと二月でなくなってしまう運命にありました。ダムの工事で、沈むことになっていたのです。そのような中で、村の若者の出来の悪いものたちが不埒なまねをしでかしましてね。村の奥にひっそりとある沼の、大鰻をとっていただこうとしたのですよ。
2011-07-21 19:00:26年寄りたちは恐れ多い沼、恐れ多い鰻様といって近づくかぬように言い聞かせておりましたが、痴れもの共はどうせ沈んでしまうのだから、もう村はお終いだからと沼に鍬やら通しやらを突き入れましてね。三刻ほど粘ってか、ようやく捕らえまして、御尊体を村一番の料理上手に預けたわけでございます。
2011-07-21 19:07:04大鰻はたいそう脂が乗って旨く、その上村の皆に行き渡るほどの量だったと聞きました。しかし、莫迦者たちを除いては誰も口をつけようとしせず、結局余らせて捨ててしまったのです。さて。
2011-07-21 19:11:50夕刻に始まった、その鰻を食す宴もお開きになり、おのおの家に帰リまして、夜。大騒ぎになりました。腹の痛みを訴えるもの達で、医者の家がごったがえしたがためです。医者がとりあえずはと。、着物を脱がせて診てみると、彼らの腹がぐにゃぐにゃと形を動かしていたのです。これには医者も驚いて、
2011-07-21 19:19:42大年寄りたちに知恵を借りることとなりました。年寄りたちは、食した者達に下し薬を飲ませること、捨てた余りを池へ返すこと、池に供えと許しを請う祈祷を行うこと、このすべてをおこなうべし、と言いましてそれから万事誤ることなくこなしたところ、丑の刻を過ぎた頃には収まった次第でございます。
2011-07-21 19:29:01二月して村が沈むその前に、人々は沼にもう一度祈祷をし大鰻を讃える祝詞を奏じました。すると、水底で何か大きな物が身じろぎして、水煙が立ち込めるのがはっきりと分かったのです。村が沈んでも大鰻はきっとその場所にいるに違いなく、村人達は畏敬の意を忘れなかったということです。
2011-07-21 19:34:04