マグロ初セリの歴史

抜井規泰氏の一連のツイートをまとめました。
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抜井規泰 @nezumi32

豊洲市場のマグロの初セリ。 最高値争いから、「すしざんまい」が撤退? 「やま幸」が“王座“奪還。 「やま幸」は、ここ数年、「すしざんまい」に競り負け続けてきました。 ちょっと、このマグロ初セリの歴史をご紹介します。

2021-01-05 07:41:27
抜井規泰 @nezumi32

2年前に半年ほど、移転する築地市場を取材しました。 マグロの初セリに「異変」が起きたのは、個人的には2008年だと思っています。この年、大間の本マグロに607万円の値がつきました。 「すしざんまい」を破ったのは、築地の仲卸「やま幸」。きょう、すしざんまいを破ったのも「やま幸」です。

2021-01-05 07:53:06
抜井規泰 @nezumi32

初セリの本マグロを売りさばいたところで、絶対に利益は出ません。 少し話がそれますが、ある銀座の最高級すし店では、最上等のマグロの、しかも腹側の一番頭に近い、「腹カミ一番」という部位を仕入れています。値段は、だいたい、1キロ8万円程度。この8万円という数字を覚えておいてください。

2021-01-05 08:07:35
抜井規泰 @nezumi32

生の本マグロは、頭を落としたら、頭から尻尾まで脇腹の「側線」に沿って切り込みを入れ、さらに正中線で二つに切り、全部で4本に切り分けます。 この4本の身肉の、背中側を「背一丁」。腹側を「腹一丁」と呼びます。 天然本マグロの背一丁に、トロはほとんどありません。

2021-01-05 08:11:47
抜井規泰 @nezumi32

トロは、腹側にあります。 その腹一丁も大きく三つに分けられ、頭側を「カミ」。真ん中を「ナカ」。尻尾側を「シモ」と言います。 トロが集中しているのは、頭側の「カミ」です。その「カミ」の最も頭に近い部分が、「腹カミ一番」。 これを、銀座のある高級すし店はキロ8万円程度で仕入れています。

2021-01-05 08:15:13
抜井規泰 @nezumi32

キロ8万円で仕入れたマグロの、すし1貫分の切り身は、原価いくらになると思います? ざっと、4千円です。 飲食店の食材原価は3割がセオリーです。セオリー通りの値をつけると、トロ1貫1万3千円。2貫で2万6千円。いくら銀座でも、この値段では売れません。では、どうしているのか。

2021-01-05 08:19:26
抜井規泰 @nezumi32

他のネタで利益を出しているんです。1人7万円といった値段の中に、トロ2貫が入っているわけです。 高級すし店にとって、トロは売れば売るほど赤字が出る店泣かせのネタなんです。トロは店の看板ですから、銀座の大将は気合と根性と意地で、最上等のマグロの、その「腹カミ一番」を仕入れています。

2021-01-05 08:24:08
抜井規泰 @nezumi32

さて。 築地・豊洲の初セリに話を戻します。 個人的に、マグロの初値に異変が起きたのは2008年だと思う--という話は、冒頭に書きました。 この時、「すしざんまい」に競り勝ったのが、「やま幸」です。 しかし、「やま幸」は単体で初セリに参戦することはできないはずです。それは、なぜか--

2021-01-05 08:28:19
抜井規泰 @nezumi32

やま幸は仲卸です。仲卸というのは、言うなれば市場の中にある魚屋さんです。自分の目利きで魚を仕入れ、それを顧客に売ることで稼いでいます。 そのマグロを分割して売り切って利益を出している「やま幸」が、銀座の最高級すし店すら尻込みをする値段のマグロを買い付けても、商売になるはずがない。

2021-01-05 08:31:12
抜井規泰 @nezumi32

では、なぜ「やま幸」は初セリに参戦できているのか。それは、バックがついているからです。 マグロに限らず、市場のセリに参加するには、資格が必要です。銀座のすし屋さんがセリに参加することはできません。そこで、やま幸に頼むわけです。「初セリで最高のマグロを落札してくれ」と。

2021-01-05 08:34:22
抜井規泰 @nezumi32

2008年の初セリ。 やま幸が、その依頼を受けました。 依頼主は香港資本の「板前寿司」。 やま幸は276キロの本マグロに607万円の値をつけ、「すしざんまい」を振り切りました。 翌2009年。 「やま幸」に、さらに大きなバックがつきます。 オバマ大統領も舌鼓を打った名店「久兵衛」。

2021-01-05 08:38:04
抜井規泰 @nezumi32

板前寿司と久兵衛がタッグを組みました。 このタッグで、2009、10、11年と3連覇を果たします。 と同時に、初セリの落札価格がハネ上がります。 08年:608万円 09年:963万円 10年:1628万円 11年:3249万円 価格の狂乱から、マグロ初セリは新春の風物詩となりました。

2021-01-05 08:41:33
抜井規泰 @nezumi32

敗れ続けてきた「すしざんまい」が反撃に出たのが、2012年です。 11年3月に起きた東日本大震災。その年明けの12年の初セリは、異様でした。 「すしざんまい」が勝つわけですが、「香港の寿司屋から世界一のマグロを奪還した」と拍手喝采する人が大勢現れるという、異様な空気が漂いました。

2021-01-05 08:46:30
抜井規泰 @nezumi32

「すしざんまい」は、269キロの大物に、5649万円の値をつけ、落札しました。注目すべきは、1キロ単価です。キロ21万円。 先ほど、「8万円」という数字を覚えておいてほしい、と言いました。 銀座の高級すし店は、「腹カミ一番」を赤字覚悟のキロ8万円で仕入れています。

2021-01-05 08:48:55
抜井規泰 @nezumi32

トロのない、「背一丁」、しかも、尻尾まで含めた価格が、キロ21万円。 築地のマグロのセリで、1キロ10万円を超えたのは、この時が初めてです。しかも、一気に、キロ21万円。 もはや、何の値段なのか分からないような数字です。 そして、ここからすしざんまいが勝ち続けます。

2021-01-05 08:53:42
抜井規泰 @nezumi32

ひとつ紹介しておきたいのは、「やま幸」が「ざんまい」に敗れた2012年、そして13の本マグロ。あのマグロを、やま幸が落札していたら、どうするつもりだったのか。また、その舞台裏です。

2021-01-05 09:03:46
抜井規泰 @nezumi32

震災翌年の12年。香港資本の「板前寿司」の代表リッキー・チェン氏は、最高値で落札後、そのマグロを被災地・気仙沼で振る舞う夢を描いていました。 翌13年。 板前寿司をバックに、「やま幸」は再び初セリに挑みました。リッキー・チェン氏から託されたのは、1億2千万円でした。

2021-01-05 09:09:12
抜井規泰 @nezumi32

狙った本マグロは、222キロ。キロ当たり54万円が上限です。 本マグロのセリは、キロ千円単位で上がっていく。だが、一定の水準を超えると、キロ1万円単位でセリ上がる。託された54万円を超えたが、「やま幸」はセリを降りようとしませんでした。

2021-01-05 09:11:03
抜井規泰 @nezumi32

リッキー・チェンから託された1億2千万円を超えた分は、自らかぶる覚悟です 「これが最後」と、「やま幸」はキロ68万円をつけました。222キロで、1億5096万円。差額の3096万円は、「やま幸」がかぶる覚悟です。しかし、「ざんまい」が即座に69万円に更新。セリから降りました。

2021-01-05 09:14:11
抜井規泰 @nezumi32

今年の初セリは「すしざんまい」が降りる形で、「やま幸」が王座を奪還しました。 もはや食べ物の値段ではなくなっている、本マグロの初セリ。 しかし、舞台裏は、まさに名勝負。ツイッターで四の五の書いてもなかなか伝わらないとは思いますが、その一端をのぞいていただけましたら幸甚です。(終

2021-01-05 09:19:53
抜井規泰 @nezumi32

補遺) 香港資本の「板前寿司」が、初セリで最高値のマグロを落札したのは、2008年が最初です。 この時、批判が起きました。 「世界一のマグロを中国が持っていった」--と。 実際に、一部は香港に運んだそうですが、大部分は日本国内の「板前寿司」で振る舞われたそうです。しかし--

2021-01-05 10:53:25
抜井規泰 @nezumi32

しかし、批判がわき起こった。 この時、「板前寿司」と、それを率いるリッキー・チェン氏、さらに、マグロの初セリそのものに関心を抱いたのが、名店「久兵衛」でした。 久兵衛の大将は、江戸っ子ですからね。一夜にして、「マグロ王」ともてはやされた「板前寿司」に、我慢ができなかったそうです。

2021-01-05 11:02:55
抜井規泰 @nezumi32

「俺が、落札する」--と。 「久兵衛」は、仲卸「やま幸」からマグロを仕入れています。そこで、話し合いの結果、「板前寿司」、それに「久兵衛」のタッグで、翌2009年の初セリに挑むことになりました。 これは、板前寿司、久兵衛ともに、メリットのあるタッグでした。 というのも--

2021-01-05 11:06:35
抜井規泰 @nezumi32

先ほども書きましたが、もはや何の値段だか分からないような狂乱価格でセリ落としたところで、利益は出ません。あるのは、広告効果と名誉だけです。 「板前寿司」や「すしざんまい」には広告効果が期待できても、久兵衛は名だたる名士・食通が愛し続けた老舗中の老舗。いまさら宣伝など必要ない。

2021-01-05 11:08:47
抜井規泰 @nezumi32

久兵衛が求めたのは、「最高額のマグロを落とした」という満足感というか、名誉のみです。 しかし、金銭的なリスクが伴う。それを、板前寿司と折半できるのは、大きなメリットです。 板前寿司には、さらに2つのメリットがあったと思います。

2021-01-05 11:11:37