「まともな寿司屋は寝る時間がありません」ロナウドの専属寿司職人募集きっかけで新聞記者さんが連ツイした寿司職人のお話

お寿司も吉牛もとんこつラーメンもあるでよ
302
ライブドアニュース @livedoornews

【求人】C.ロナウド、月給70万円で専属寿司職人を募集 news.livedoor.com/lite/article_d… ポルトガルに1700万ポンド(約26.5億円)をかけて大邸宅を建築中。日本料理を作ることができる専用のキッチンが用意され、寿司だけでなく伝統的なポルトガル料理にも対応できる人材が求められているという。 pic.twitter.com/E7UvyoZyUX

2023-01-20 19:04:34
拡大
抜井規泰 @nezumi32

「ひが〜あしぃ〜」と、呼び出しが声を張り上げる国技館の「東」。でも実際の方角は、北。そんな相撲コラムを書いている新聞記者。元大相撲三賞選考委員。元ベストナイン&ゴールデングラブ賞選考委員。玉成会研究室の落ちこぼれ。朝日新聞で「角界余話」「広重が描いた江戸」連載中。趣味は芝刈り。ベストスコア79。「いいね」は付箋

asahi.com/sp/rensai/list…

抜井規泰 @nezumi32

まともな寿司屋は寝る時間がありません。 知り合いの寿司職人は、毎朝5時に自宅を出て豊洲へ。仕入れを済ませ、市場で食事をし、店に入るのは8時。仕込みを始め、11時にひと段落。11時30分からランチ営業で前日の売れ残りをさばく。14時にランチ営業を終え、仕込みを再開。16時に仕込みを終え、仮眠。

2023-01-21 09:18:33
抜井規泰 @nezumi32

1時間の仮眠。17時に起きて、開店準備。18時に開店。営業終了は23時。後片付けを終えると0時。自宅に帰り、夕食をとり、布団に入るのは1時過ぎ。4時間後には家を出る。 常に新鮮なネタを出す寿司職人は、寝る時間がありません。 僕の知り合いは、体が持たないのでランチ営業をやめたい。でもーー

2023-01-21 09:22:18
抜井規泰 @nezumi32

でも、辞めると売り上げも減るし、「アニキ」(前日に残ってしまったネタ)が無駄になる。 それでも寿司職人を続けているのは、「寿司職人ほど面白い仕事はないから」だそうです。 週休2日など夢のまた夢。家族旅行もめったにできないーーどころか、まともな睡眠時間すらない生活の何が楽しいのかーー

2023-01-21 09:25:03
抜井規泰 @nezumi32

こう言っています。 「お客さんとの対峙ほど面白いものはありません」 僕が知っている「寿司通」というのは、みなさん普段は野暮ったいです。寿司屋で寿司の知識をひけらかしたりなんて、絶対にしない。野暮ったくしています。しかし、味はよく分かっている。 そんな「通」がちょくちょく店に来る。

2023-01-21 09:28:25
抜井規泰 @nezumi32

どんな名店のオヤジでも、毎日極上のネタを手に入れているわけではありません。 海は本当に気まぐれで、台風が近づくと、世界一のフィッシュマーケットの豊洲でも、魚が消えます。素人目でも分かるほど激減します。 そんな日に、まさに豊洲で「これ1匹」みたいなマコガレイを手に入れたとしましょう。

2023-01-21 09:31:12
抜井規泰 @nezumi32

「豊洲一番のマコガレイ」「豊洲でこれしかない極上のマコガレイ」となれば、これは世界一のマコです。それを手に入れた。 市場で顔が効く寿司屋のオヤジなら、買った活魚は店の人間に任せずに、店の包丁を使って自分で活けジメにします。中骨まで頭を落とし、中骨に針金を刺して中枢神経を壊します。

2023-01-21 09:36:38
抜井規泰 @nezumi32

殺した活魚の中枢神経を破壊することを神経締めといいます。 重さを計り、代金を払うと、今度は内臓を取り出して店のゴミ箱へ。 これを店に置いておけば、市場を歩き回っているうちに、自分の車に積まれています。 豊洲市場の寿司屋の車は、鍵がかかっていないのはもちろん、キーも差しっぱなしです。

2023-01-21 09:42:31
抜井規泰 @nezumi32

車に積み込んでいるのは店の人間ではなく、「茶屋」という別業者なんですが、その話はここでは置いておきましょう。 ぐるっと買い付けを済ませて、朝食を済ませる。その間に、買い付けた魚は自分の車に運ばれているわけです。 ちなみに、朝食。 吉野家で食べたとしましょうか。

2023-01-21 09:44:23
抜井規泰 @nezumi32

かつて魚河岸は日本橋にありました。落語「目黒のさんま」に出てくる「日本橋の魚河岸」です。 吉野家は、その魚河岸で生まれました。 関東大震災で日本橋の魚河岸が壊滅し、築地に移転。この時、吉野家は築地市場の店を「第1号店」としました。 吉野家のキャッチフレーズは 《早い、安い、うまい》

2023-01-21 09:47:20
リンク 吉野家公式ホームページ 吉野家の歩み | 吉野家公式ホームページ 吉野家のこれまでの歩みを紹介しているページです。1958年に築地市場の一号店から始まった吉野家がどのように多店舗化して現在に至ったのかを当時の写真を交えて沿革を紹介しています。ぜひご覧ください。
抜井規泰 @nezumi32

魚河岸で仕事をしている人たちは、全員、時間と戦っています。 いま僕は寿司屋のオヤジの1日を紹介していますが、時間との戦いがご理解いただけるかと思います。 買い付けに来る寿司職人がそうですから、寿司屋に魚を売る仲卸も、仲卸に魚を売る大卸も、時間と戦っています。

2023-01-21 09:49:15
抜井規泰 @nezumi32

そんな魚河岸で働く人たちが仕事の合間にかきこむ朝メシですから、時間が求められます。 だから、 《早い、安い、うまい》 なんです。 魚河岸で生まれた「味」というのは、全部これですね。 《早い、安い、うまい》 九州の魚市場で生まれたのが、長浜ラーメンです。めちゃくちゃ早いでしょ、着丼が。

2023-01-21 09:51:29
抜井規泰 @nezumi32

長浜ラーメン(博多とんこつ)は極細麺で、軽くお湯にくぐらせるくらいで、もうゆであがるじゃないですか。 《バリカタ》 のさらに上の 《粉落とし》 なんてゆで具合もあるくらい、とにかく早い。 まあ、それはともかく… もう少し、吉野家の話をしましょうか。

2023-01-21 09:53:29
抜井規泰 @nezumi32

いまでは全国の吉野家で普通に頼める 《つゆだく》 《ネギだく》 《頭の大盛り》 これらは、すべて築地市場の1号店で生まれました。 魚河岸の衆たちの注文で生まれたのです。 で。 私は築地移転の際、魚河岸の話を長期連載しました。 吉野家も取材したんですが、驚いたのが、誰も注文しないんですよ。

2023-01-21 09:57:38
抜井規泰 @nezumi32

びっくりしました。 だって、魚河岸の衆や寿司職人、スーパーのバイヤーなんかが次々とやって来るんですが、ほとんど、誰も、注文しないんですよ。それなのに、並や特盛、つゆだく、ネギだく……違う丼が次々と客に出されるんです。 どーなってんだ、こりゃ⁉️ というのが、僕の疑問でした。

2023-01-21 09:59:42
抜井規泰 @nezumi32

客の全員が顔なじみなんですよ。全員、毎日同じ時間に同じものを注文しているわけです。で、店長が顔と注文を覚えているわけです。 自分が飲食店の常連客になったら… いつか言ってみたい言葉が、 《いつもの》 じゃないですか。 1号店は、《いつもの》すら言わなくても、《いつもの》が出てくる。

2023-01-21 10:03:53
抜井規泰 @nezumi32

そんな物語を書いたのが、こちら。 築地移転の際に連載しました 《魚河岸ものがたり》 の27回目の記事です。 pic.twitter.com/oq6HF6aZyK

2023-01-21 10:09:20
拡大
リンク 朝日新聞デジタル 92年、築地と歩み、消える 吉野家1号店:朝日新聞デジタル ■魚河岸ものがたり:27 魚河岸の衆のパワーの源になりたい――。そんな思いから生まれた丼がある。 「はやい、うまい、やすい」を志し、明治末に生まれた牛丼の「吉野家」。その1号店が、築地場内にある。市場…
抜井規泰 @nezumi32

話を戻しましょう。 時間との戦いの中、寿司屋のオヤジが朝食を済ませて車に戻ると、あちこちで買い付けた魚が届いています。 早朝の都心を抜けて、店へ。 超高級寿司店って、銀座でしょ? あれはなぜかというと、寝る時間もない寿司屋ですから。関東大震災後に、築地の隣の銀座に店を出したんです。

2023-01-21 10:13:45
抜井規泰 @nezumi32

さて。 店に戻った寿司屋のオヤジさん。 ここから仕込みが始まります。 すでに大多数の方がご存知かと思いますが。店に水槽があって、泳いでいる生きた魚をその場でさばいて出すーーなんてのがあります。 これは、40年以上前に「美味しんぼ」で描かれていますが、あんな魚は別にうまくないです。

2023-01-21 10:17:28
抜井規泰 @nezumi32

本当にうまいのなら、1人10万円取る銀座の最高級寿司屋には必ずイケスがあるはずです。

2023-01-21 10:18:19
抜井規泰 @nezumi32

ただ、九州では魚が熟成する前のタンパク質がグルタミン酸に分解される前の、死後硬直の最中の魚に「うまみ」を感じる味覚や文化があるのではないかと、個人的には思っています。 九州の人たちの「美味」の感覚に、 《コリコリ》 というのがあるからです。 コリコリというのは、死後硬直の最中です。 pic.twitter.com/Uu3dzumNWi

2023-01-21 10:24:01
拡大
抜井規泰 @nezumi32

まあ、それはともかく。 店に戻った寿司屋のオヤジ。 買い付けた魚を取り出し、仕込みに入ります。 僕が驚いたのは、豊洲市場で神経締めにしたマコガレイの「いきの良さ」です。 この魚は、数時間前に、死んでいるんです。しかし、神経締めすることによって、細胞は生きているんです。

2023-01-21 10:26:44