『バイオプロテクター・マイク』

りばすと @Dash_Kojima

とある星。地球から遠く離れたその星の環境は、当時バイオギャング達によって破壊され尽くしていた。森という森は枯れ果て、人々は砂漠の間に潜むわずかな洞穴や日陰をたよりに生きていた。かつての話だ。 26

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「おねえちゃん、ぼくもいく！」少年に裾をひかれ、少女は振り向く。「大人しくしてなさい。ちょっと井戸まで水をもらいに出かけるだけなんだから」少女は微笑んで少年の頭を撫でた。27

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「すぐそこの街角まで行ってくるだけじゃないの」「だってぇ」「だってじゃないの。お菓子屋さんでアメ買ってきてあげるからね」「やったあ！」少年の顔がぱあっと明るくなった。 28

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「それじゃあ、行ってくるからね！」「気をつけて行ってくるのよ！」「お母さんもやめてよ、水をもらってくるだけって言ってるでしょ」少女は笑いながらそう言い返すと、元気よく大通りを駆け出していった。 29

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第三話：完

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カメに連れられ、ウラシマは深い深い海の底へと潜っていく。 「ちょっと待ってくれ」ウラシマがカメを呼び止めた。「なんですか」「空気はどうなっている」「空気？」この人間は何を言っているのだろうか。今まさに水中で明瞭に言葉を発しているというのに、急にそんなリアリティを出されても困る。 1

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「そうだ、空気だ。空気がなければ我々人類は生きていけないではないか。その点、その、なんとかという城は……」「竜宮城？」「そう、その竜宮城というやつはどうなっているのだ」「はあ。今までに何人か人間の方はいらっしゃいましたが、別段困るということはなさそうでしたよ」 2

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「つまり城の中に空気はあるということか？」「そうなりますかね」「そうなりますかねとはなんだ。生きるか死ぬか、まさに死活問題なんだぞ」これはめんどうな事になった。どうやらこのウラシマという人間は相当に”気にしい”のようだ。ちょっと助けられたくらいで連れてくるんじゃなかっただろうか。 3

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「そんなに不安ならこれを差し上げますよ」甲羅の内側からダイビング用のタンクを取り出すと、ウラシマに渡してやった。「酸素ボンベか、用意がいいな。ありがたく受け取ろう」「ダイビング用なので中は空気です。酸素ボンベというのは間違いですね。」「やかましい」ウラシマはボコボコと一蹴した 4

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カメはさらに深く潜っていく。「なあ」「今度はなんですか」「竜宮城はこんなに深い場所にあるのか」「まだまだかかりますよ」「そうなると水圧はどうなる」水圧。空気の次は水圧。「水圧に何か問題でもあるのでしょうか」 5

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「そりゃああるだろう。いいか、海というのはだな。深く潜れば潜るほど水圧が高くなる。それはもう人間が耐えきれないほどの圧力だ。何もかもペシャンコになってしまうほどだ」「そうなのですか」本当に細部のリアリティにこだわってくる人間だ。心底どうでもいい。 6

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「そうなのですか、だと？このままだと俺もむぎゅっと潰れてしまうということだぞ。君は水族館などで小さくなったカップラーメンの容器を見たことがないのか」「はあ、まあ、カメなので。水族館というのはちょっと。」「そうだったな、すまない。」ウラシマも今のは軽率な発言だと気づいたらしい。 7

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「とにかくだ、このままだと俺もシルバニアの一員になってしまうのだ」「あの」「なんだ」「それ、嘘ですよ」「なんだって？」ウラシマは目をまんまるとしている。「私も水族館のことは聞き及んでいるのですが、あれなる容器の類はいずれも人の手によって小さくされているようなのです。」 8

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「つまりインチキということか？」「そうなりますね。エビデンスもあります」甲羅の内側からiPadを取り出すと、次のページを見せてやった。 dailyportalz.jp/kiji/Make-the_… 「ばかな、ばかな。これは単なる狂人の実験ではないか。俺は信じないぞ」 9

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流石に騙されないようだ。「すいません、冗談です。ですが水圧についてはご心配なく。この後潜水艦に乗り換えますので。」一応ぺこりと頭を下げてやる。「こんなへんてこな実験にこの俺が騙されるとでも思ったか。やはり水圧はあるのだ。」冗談を見破ったことが嬉しかったらしくウラシマは得意げだ。10

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「えっ、今潜水艦と言ったか？」「はい」「そんなものまであるのか！水生生物も捨てたものではないな。」今度は口を開けてあんぐりとしている。表情が豊なやつだ。「……しかし、それならばお前の背に乗らずともよかったのではないか？」そして意外と聡いやつだ。「まあ、これは風情ですので」 11

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カメとウラシマの旅は続く。 12