食べると不死身になれる、って伝説がついてるレアなファンタジー生物を探す男の話。8

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江口フクロウ@眠み @knowledge002

「そこに人間の生贄などという別の信仰が加わるのは刺激が過ぎるのでなんとかやめさせたい。 …やめさせることはできなかったようだが、海に関する信仰が何某かの変異を起こす可能性を示唆している資料を信じるなら、伝承に存在しないはずの彼女の存在の解明に繋がる。 禁じられた海の巫女。

2020-12-22 20:27:43
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「変容した魂が求めるものは、本当に「歌」なのか?彼女がもし宝玉と一つになったとしたら、そこに何が生まれるのか。 少なくとも、人の手に負えるものではないはずだ」

2020-12-22 20:33:03
江口フクロウ@眠み @knowledge002

北の雪山地帯ではそう変わった様子はなかったが、確かに災厄は目を覚ましていた。 「…私はレイラ。最も多くの肉を賜った四守護聖の筆頭」 立ち向かう魔女はやはり三角帽に黒ずくめの幼形の女。 「私は他の未熟者とは違う…私はいつだって冷静に対処する」

2020-12-26 20:12:52
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「鍛錬も調査も欠かさない…各地で起きている異変について、私以上に知っているものはいない…」 事実だ。彼女はどんな災害かを把握して、その上で最も自分の利益になる相手を選んだ。 「私は氷の魔女…全て凍てつかせる私なら霧も津波も対処は容易い…でも、それではあまりに妥当すぎる」

2020-12-26 21:18:22
江口フクロウ@眠み @knowledge002

いつだって冷静沈着。四人の魔女の中で最も頭脳派であると自負する氷の魔女レイラ。 彼女の選択が正しかったのかどうかは後世に残らない。四守護聖はみな名もなき魔法使いだから。 神王が導く平和を乱す幻想生物を抑え込むためだけの小間使い。そんな哀れな彼女が相対したのは。

2020-12-26 21:24:45
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「だから…こんなの、聞いてない…」 人より遥かに巨大な体躯と、それを浮かせるためのさらに大きな一対の翼。支えるための長い鋭尾。 巌のような鱗が幾重にも重なり、身動ぎするたびにそれらが擦れる音が羽音に混ざる。 漆黒の中に眼球だけが爛々と輝き、暴力的に鋭い牙を備えた口元からは

2020-12-26 21:31:07
江口フクロウ@眠み @knowledge002

漏れ出る熱量が焔とちらつく。 爪、牙、鱗、熱。 人の持たざるいくつもの脅威を備えた災厄の名は、竜。 あらゆる伝承が時間と共に風化し形を変える中でこの世で唯一、意図的に封じられた存在である。

2020-12-26 21:35:09
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「封じられた、とするのが正しいかどうかはわからない。だが竜という存在を意図して後世に伝えなかった誰かはいた。それが二十八代目、エルフを妻に迎えついにこの血へ幻想生物のそれを取り入れた「俺」の見解だが、果たしてこの先答えが出るかどうか。だって、既に竜はこの世界から姿を消した。

2020-12-26 21:40:47
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「とっくの昔に、聖教が唱える神話の時代よりさらに昔に竜は栄えそしてこの世界を去っている。あいつの言うことが確かなら人どころか聖教の神が生まれるよりさらに前のことなので逆にどうしてあいつが知っているのか不思議ではあった。 だから生き残りがいると聞かされた時は驚いたものだ。

2020-12-26 21:46:54
江口フクロウ@眠み @knowledge002

竜。とてつもなく大きく、強い生き物。そして、その血を浴びることで不死を得られるとされる。 あいつが熱心に探し回っていた理由もそれを聞いてようやく得心が行った。実際連れてきたのはまさに溶岩蜥蜴といった風な小さくて弱そうな生き物だったが…なにぶん伝承の途絶えた存在だ。

2020-12-27 07:29:36
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「気長に研究するとしよう。何せ、溶岩に落ちても蘇るというのだから一度くらいは見てみたい」

2020-12-27 07:36:36
江口フクロウ@眠み @knowledge002

と。 長年に渡り集積された外道研究者の資料にもつい最近登場した謎の生物、竜に関する情報はあまりに少ない。全てを知っているのは幻想狩人のみ。 その資料すらない状態で脅威度の高さを見抜き雪山地帯を氷の魔女たる自分の独壇場と踏んだまでははっきり言って賢かったのだろう。

2020-12-27 07:44:03
江口フクロウ@眠み @knowledge002

しかし相手が悪かった。明確に。 海に潜む無人の潜水艦ならばいずれ人にも仕留められよう。 人の血をすするとされた吸血人種の不滅性は遥か過去に人知れず絶滅させることで克服した。 同じように、溶岩を泳ぐ程度の蜥蜴なら当初の予定通り皮を剥いで肉をかじり血を浴びることもできただろう。

2020-12-27 07:54:58
江口フクロウ@眠み @knowledge002

しかし相手が悪かった。 竜なるものの強大さが世界の理に匹敵するものだと誰も知らなかったのだ。手を出す危険を案じ善意から伝承を禁じた誰かのせいで。 今、世界の滅びに値するものが産声を上げる。

2020-12-27 08:02:27