破戒僧が魔物をおしおきする話。1

1
江口フクロウ@眠み @knowledge002

破戒僧ってかっこいい。ワルでもなんか目立つことができれば許される選手権代表。魯智深とか。許されてはないか。

2021-01-12 08:12:32
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「というわけで、回復魔法は使えませんがどうぞよろしくお願いいたします」 「いや…その…ちょ、ちょっと待ってね」 「?はい…?」

2021-01-12 08:14:46
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「ちょっ、戦士こっち来て」 「むう?なんだというのだ勇者よ。待望の美人僧侶だぞ」 「そうじゃなくて!…あの、回復魔法使えないって知ってて連れてきたの?」 「うむ」 「なにゆえ???」

2021-01-12 08:17:31
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「僧侶は美人がいいと言っていたではないか」 「言ったけどぉ…でも回復はさ…」 「それに、あの目を見よ。厳しい鍛錬を積み揺るぎなき心を得し強者の目だ」 「糸目だからわかんないんだけど…」

2021-01-12 08:19:37
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「んん…魔法使いはどう思う?」 「んー…僧侶さん、強化魔法は使える?」 「そちらは問題なく…回復ができないぶん、道具の扱いには自信がございます。支援でもって貢献できれば、と」 「いいんじゃない?元々私たち出遅れ組がひっぱりだこの純回復職と会えるなんて思ってないし」

2021-01-12 08:30:40
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「僧侶って言うか斥候拾った気分だなぁ。でも、自分でワケアリって言うんだから悪い人じゃないか。よろしくね、僧侶さん」 「はい!こちらこそ」 「優しく咲くような笑顔…美人だ…いてっ」

2021-01-12 08:33:31
江口フクロウ@眠み @knowledge002

勇者。戦士。魔法使い。僧侶。 彼らが往くのは長ーい旅路。世を乱す魔物と魔王を退治する、聖なる伝説の再演。 果たして若き一行は行く手に立ち塞がる運命を超えて未来を掴むことができるのか。 古き良き英雄譚の、幕開けである。

2021-01-12 08:42:02
江口フクロウ@眠み @knowledge002

んなわけねぇだろこんな時代に。 あんまり深く考えずに奇を衒い虚を突く素人戦法で俺は語って行くんだ!

2021-01-12 08:45:36
江口フクロウ@眠み @knowledge002

特別な力を持つ人間を伝承になぞらえて勇者とかいい感じの名前をつけて徴用しだしたのが二年前。命知らずの冒険者と共に魔王領侵攻の最前線に立たせて、望みのありそうな奴らで深く切り込み前線基地を作りながらいずれ直接魔王を討つ。 国家連合の立てた戦術はまあまあ無謀に見えたが何分勇者は強い。

2021-01-12 08:54:29
江口フクロウ@眠み @knowledge002

強い奴はほんとに笑っちゃうくらい強いので実は人的損耗もそれほどではないが、しかし戦争は戦争。いくらでも湧き出る魔物の数で質に対抗されているのが現実。さてどう転ぶものやら。

2021-01-12 12:09:43
江口フクロウ@眠み @knowledge002

我らが勇者たちも戦列に加わる。と言っても最初はそう拠点から離れずちょこちょこ討伐をこなす程度。認められるとだんだん敵地の深くへ置かれた基地へ送られる。 だから、ここ最前線の街は良くも悪くも賑やかだ。

2021-01-12 13:15:01
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「ヒールワーク完璧やん…」 「想像以上の腕利きであったな」 「あ、あんまり褒められると…」 「胸張りなって。勇者と戦士に集中した敵の後ろへ走り込んでケーンでぶん殴ったの、あれめっちゃかっこよかったよ」 「大人しそうな顔して大胆だなぁ僧侶さんは。破戒僧じゃなくて破壊僧だったりして」

2021-01-12 14:08:26
江口フクロウ@眠み @knowledge002

一日の終わりに打ち上げは大事。 日が暮れると今日も元気にぶっ殺してやったと大勢の冒険者や兵士が大衆食堂へ詰めかける。 なんとか席を確保して、彼らもデビュー戦の反省会といったところ。 ちなみに今日の相手は虫系の魔物。かったい甲殻をカチ割るのに僧侶の不意打ちが上手く決まった。

2021-01-12 14:46:07
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「魔法ほど効かない分、薬を使う手際のなんと迅速なことか。あれほど上手く投げるものを見たことがない」 回復薬にも種類がある。薬草、膏薬、飲用、そして手投げ玉。戦闘用に改良された錬金薬はついに頭上で勝手に炸裂し回復効果を撒く便利なお手軽アイテムとなったのだ。これも戦争による技術発展。

2021-01-12 14:52:22
江口フクロウ@眠み @knowledge002

褒められれば褒められるほど、僧侶は微笑を崩さないままに困惑して小さくなるばかり。 しかし忘れてはいけない。彼女は破戒僧。ヤバい女なのだ。

2021-01-12 14:54:54
江口フクロウ@眠み @knowledge002

明くる日。 割り振られた任務はまたも虫の討伐。弱いが数が多いので新人駆り出されがち。 でも油断してはいけない。虫でも魔物。人間を害するために生み出された尖兵である。

2021-01-12 20:48:30
江口フクロウ@眠み @knowledge002

人間領と魔王領を分断するように広がる大森林に生息するのを、定期的に深林内へ拓かれた基地側から人間領側へわざと追いやることで狩り出す。 最初に飛び出してきたのは三匹。受けるのは全身甲冑で固めた筋骨隆々の若武者。戦士と呼ばれる男だ。 人の頭ほどもある甲虫の飛来に対して

2021-01-13 06:18:57
江口フクロウ@眠み @knowledge002

力強い踏み込みと腕甲に取り付けた大楯を押し出す動作を合わせてまとめて叩き落とす。人の頭ほどもある虫を弾き飛ばして揺らぎもしない怪力だけではない、足元に転がったそれを一匹蹴り飛ばし手近な木の幹に叩きつけて殺し、残りを大斧で薙ぎ払い手早く片付ける素早さもある。

2021-01-13 06:27:48
江口フクロウ@眠み @knowledge002

筋力と勇猛の戦士に対し勇者の携える剣は細身で軽く、太刀筋もめちゃくちゃに見える。しかし速い。飛び出してきた甲虫に対し独特の踏み込みで肉薄しその勢いのまま流れるように斬り捨てては元の位置へ立ち戻る。 どこへ動くにも一歩しか踏んでいないように見える独特のステップはまるで地面の方が

2021-01-13 06:33:40
江口フクロウ@眠み @knowledge002

縮んでいるかのように錯覚するほどの見事な軽業。 容姿は整っているものの雰囲気が軽薄で、勇者らしからぬと言えばそう。 「反論できない…」 魔法使いはなんか見た目にツンデレそう。 「殺すわよ」

2021-01-13 07:12:07
江口フクロウ@眠み @knowledge002

なんでもない顔で一度に複数火球を飛ばし的確に撃ち落としているが、同時に複数の魔法を放つ多重詠唱は魔法学校の教壇に立つ人間さえ会得している方が少ない高等技術。田舎から出てきていきなり才能を見せつけた才媛であり、名家の子息から「おもしれー女」と言われたのは卒業後も魔法学校の語り草。

2021-01-13 07:20:33
江口フクロウ@眠み @knowledge002

なんとまあ可愛げのない新人たちだろう。 そんな連中の下支えもまた非凡である。

2021-01-13 07:28:01
江口フクロウ@眠み @knowledge002

僧侶。回復魔法こそ使えないもののその他のことはなんでもできると言っていい。 効果が途切れないように強化の魔法を挟み自分でも杖を振り回して迎撃するどころか勇者や魔法使いに息をつく猶予を作るほどの恐ろしく効率的な戦術構成と体力。 どう見ても素人じゃない。

2021-01-13 07:45:32
江口フクロウ@眠み @knowledge002

こんな並外れた連中の集まりだから前線への招聘も早かった。 そう。物語上の拠点っぽかった最前線の街はもう出てこない。大きな街だからとスポットを浴びるかどうかは別。拠点の競争も激しい時代だ。

2021-01-13 07:49:39
江口フクロウ@眠み @knowledge002

さて、四人が順調に小物を駆除していると背後の物見台で突然見張りの兵士が鐘を打ち鳴らし始めた。 「大物」が来るという合図だ。 程なくして甲虫の襲撃が止み、大柄な影が森から姿を現す。 人間より一回りも二回りも大きな身体を軋ませながら、さらに硬い甲殻を持つ大甲虫が這い出てきたのだ。

2021-01-13 08:01:10
1 ・・ 4 次へ