破戒僧が魔物をおしおきする話。1

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江口フクロウ@眠み @knowledge002

まあ可愛げのない連中なのであっさり叩きのめしたが。

2021-01-13 08:04:20
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「皆さま、お見事でございます」 「いやあ僧侶さんのおかげだよははは。いてっ」 「調子乗らない。虫退治くらいなら田舎でもやってたけど、本番はこれからよ?」 「はっはっは。魔法使いは良い女房役だな」 「小うるさいだけだよ…いてっ」

2021-01-13 08:10:53
江口フクロウ@眠み @knowledge002

さてさてそれから数日。 なんだか意味深なことを言う先達や親切な駐屯兵士と絡むお決まりをこなしつつもあっさりお呼びがかかった彼らが向かうのは大森林内の基地。ここに呼ばれれば新人卒業、みたいな場所。

2021-01-13 08:33:05
江口フクロウ@眠み @knowledge002

深林内の基地は敵地に踏み込んでいるとは言え、立派な砦と言える出来だった。 「先人の奮起の結果であるな」 「ほんとよね…周りが全部森、つまりそのもの敵地で領土としての占領ができない以上物理的に切り開かれた血路よ。とてもベッドが硬そうだなんて言えないわ」 「ふぁっふぁっふぁ!」

2021-01-13 15:16:56
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「言うてくれるのうお嬢さん!」 響く高笑いと共に砦の大門が開いた。 中から進み出てきたのは軍服に身を包んだ老人だ。副官らしき若い軍人を従えて、浮かべる笑みは年齢不相応に不敵で挑戦的。 「よく来た勇者ども。ワシのことは少佐と呼べい!」

2021-01-13 15:42:34
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「よろしくお願いします!少佐!」 いかにも歴戦の強者といった覇気を持つ「漢」の出迎えは、勇者の心を震わした。魔法使いはそうでもなかった。 「ちなみにベッドは固い!保存用のパンが詰まっとると思え!」 「はい!」 「いやはいじゃなくない?」 「いいのだ、魔法使い」 「意味わからん…」

2021-01-13 16:03:20
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「…あれ?」 ふと正気に戻った勇者があたりを見回す。 僧侶がいなかった。

2021-01-13 17:08:43
江口フクロウ@眠み @knowledge002

が、すぐ再会できた。 砦の地下空間。物資の保管庫と兼ねた駐留商人の小さな「商店街」で。 「広いなぁ…」 少佐は副官を案内にと置いてふぁふぁふぁと笑いながら去っていった。置いていかれた彼も彼で仕事があるだろうに、理不尽には慣れていると言わんばかりに凪いだ表情で平然と案内に移り、

2021-01-13 17:50:59
江口フクロウ@眠み @knowledge002

彼らの前を歩く。 「ある勇者が放った一撃で空いた大穴を地下として利用するためにここへ砦を建てたそうです」 「地下ってそういう作り方しちゃいけなくない…?」 「魔法使いよ」 「何?」 「いいのだ」 「何が???」

2021-01-13 17:53:41
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「みなさんは地下ありきで家を建てようとしてはいけませんよ。陥没しますので」 「やっぱりダメなのね」 「ダメかぁ」 「にしても、随分賑わっている。酒保とは思えんな」 「おや、元軍人ですか?まあ、言ってしまえば少佐の指示です。壁の内側は「家」とせよ、と」

2021-01-13 18:07:47
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「かぁっこいいー…!」 「勇者、すっかり少佐の虜ね…」 「かっこいいからな…」 「戦士もかぁ…雰囲気が汗臭い…ん?」 魔法使いが暑苦しい「漢」の世界から目を逸らした先に、見知った背中を見つけて指差した。 「ねえ、あれ」

2021-01-13 18:11:24
江口フクロウ@眠み @knowledge002

清楚が滲み出る僧衣の背中を見つけた時は思わず清風を浴びたような心地だったが、隣に兵士が歩いているのを見ると急いで撤回 「あほんとだ。僧侶さーん!」 しようとしたが、先に勇者が見つけてしまった。 能天気な大声を聞いて女が振り返ると、兵士の方はぎょっ、として走り去る。

2021-01-13 18:21:10
江口フクロウ@眠み @knowledge002

僧侶はちらとその背中を見たが、すぐ目を離しこちらへ微笑みを向けて、控えめに手を振った。 「うーん今日も僧侶さんは美人だなぁ。仲間になってもらってよかったよかった。いてっ」 「声かけるにもタイミングがあるでしょ、アホ」

2021-01-13 18:31:20
江口フクロウ@眠み @knowledge002

僧侶が小走りで駆け寄ってきて、無事合流。 「申し訳ございません。知っている顔を見つけてしまい、つい…」 「ああそうだった、探してたんだよ僧侶さん」 「本気で忘れてたの…?」 「勇者のそういう大らかなところ、俺はいいと思う」 「あんたが全肯定するから勇者がアホになるのかしら…」

2021-01-13 18:36:56
江口フクロウ@眠み @knowledge002

大森林の砦の任務は多岐に渡る。最前線の街と行き来する商隊の護衛から今日の晩飯の調達、果ては無認可冒険者の捜索まで。 他のパーティと共闘することもある。森に慣れるため、そして森に潜む数多くの敵に対応するために。

2021-01-13 20:00:20
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「よろしくお願いしまーす」 とは言え、連携も上手く行かなければ隙でしかない。 組むことになったのは勇者に斥候、騎士、占い師のパーティ。男所帯で、どうも女性陣に向ける目がねっとりしている連中だった。 それでも森の先輩、同じ冒険者。 勇者は務めて友好的に手を差し出した。

2021-01-13 20:29:03
江口フクロウ@眠み @knowledge002

相手方の勇者は差し出した手を取ることなく後輩を睨め付け言った。 「…お前らのパーティには役立たずがいるそうだが。そいつの介護まで含めての挨拶か?」 「…え?」

2021-01-13 20:31:42
江口フクロウ@眠み @knowledge002

誰が止める間も無く放たれた悪意。 そして、誰が止める間も無く放たれた前蹴りに悪態を吐いた勇者はなす術なく吹き飛ばされた。 「…えっ」 「仲間内での禍根は早々に断つのが良い。円滑な連携の為けじめをつけさせてもらった」 手、ではなく足を出したのは戦士だ。 「てめぇこの」

2021-01-13 20:34:55
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「むん!!」 「がはぁ!?」 次いで殴りかかろうとした斥候も蹴飛ばす。 激昂した騎士が剣を抜こうとすれば先んじて背中から大斧を抜き放つ。 「人間同士のやり方は心得ている。仲良くする方法も、仲良くしない方法もだ」

2021-01-13 20:39:44
江口フクロウ@眠み @knowledge002

応じようとした騎士の肩を占い師が抑えた。 「参ったよ。「けなされてもその場では波風立たせず済ませる」なんて、読者に嫌気を遺すありがちな展開をこんな形で解決していくとはな」 「さっきも言ったが禍根は望まん。そちらは頼めるか」

2021-01-13 20:46:27
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「ああ。だが伸びちまってるのがいるから手を借りていいかい、僧侶さんよ」 「え、ええ…勿論です。ですが」 「アンタが回復できないのは知ってるよ。何せうちの勇者からアンタにフラれた愚痴を聞かされた身さ」 渋る騎士を小突いて勇者を拾いに行かせながら占い師はこともなげに言った。

2021-01-13 20:49:59
江口フクロウ@眠み @knowledge002

魔法使いが眉をひそめる。 「…ちょっと。それって引き抜きをやろうとしたってこと?」 「そうなるなぁ。何せ前線へ出てくる僧侶なんてもういないも同然だ。代わりに俺がクビになったろうがね」 「…呆れた。止めなくて正解ね」 「俺もそう思う。俺の席を守ってくれてありがとうよ」

2021-01-13 20:53:28
江口フクロウ@眠み @knowledge002

僧侶の手当てはやはり的確で慈しむような手際の良さで、勇者と斥候はじきに目を覚ました。 「美人に手当てしてもらって羨ましいねぇ、リーダー?」 「ッ、お前…覚えてろよ」 「けけけ。俺に言うセリフじゃねぇでしょ。ほら、とっとと起きてくださいよ」

2021-01-13 21:13:34
江口フクロウ@眠み @knowledge002

一方、我らが勇者と言うと。 「…戦士。ありがとね」 しょげていた。 「すまん。先に手を出した」 戦士もなんだか萎んでいた。 「いやあんたはスッキリした側でしょ」

2021-01-13 21:24:16
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「魔法使い…」 「何?」 「違うんだよ…」 「何がよ…」

2021-01-13 21:24:49