茂木健一郎さん連続ツイート 『「衆智」(wisdom of crowds)』

茂木健一郎(@kenichiromogi)さん連続ツイート
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茂木健一郎 @kenichiromogi

しち(1)2年前、バイロイトでカタリーナ・ワグナーの『マイスタージンガー』を見た。その際、彼女が、ゲーテやシラーなどのドイツの古典的知性のあり方と、ナチズムが結びついているということを直覚しているということが伝わってきた。そこに、深い芸術的感動があった。

2011-07-22 07:50:51
茂木健一郎 @kenichiromogi

しち(2)昨日増田健史と話していて、カール・シュミットが人気があるのは、民主主義の限界が彼の思想に託して語りやすいからでしょう、ということを議論した。民主主義は、常に「衆愚」の批判と隣り合わせにある。しかし、プラトンの賢人政治が理想かと言えば、それも怪しい。

2011-07-22 07:52:36
茂木健一郎 @kenichiromogi

しち(3)民主主義は、衆智(wisdom of crowds)を信頼する制度である。一人ひとりを見ると、それほど賢くは見えない。むしろ愚かにさえ見える。しかし、集まると、そこに知性が現れる。「衆愚」の批判をする側の知性の方が、むしろ脆弱なのかもしれない。

2011-07-22 07:54:33
茂木健一郎 @kenichiromogi

しち(4)動物界のswarm intelligenceの例として、しばしば取り上げられるのはアリやハチである。これらの社会性昆虫が集団として示す「賢さ」は、明らかに個体のそれを超えている。アリ一匹をとらえて観察してもそれほど賢く見えないが、群れとしては賢いのである。

2011-07-22 07:56:27
茂木健一郎 @kenichiromogi

しち(5)Swarm intelligenceを支えているのは、個体間のコミュニケーションである。ふるまいや化学物質、空間的計算を通した共同作業によって、個体としてはそれほど賢くなくても、集団として賢く振る舞う。それが、人間の社会でも起こっていないとは、誰が言えよう。

2011-07-22 07:57:40
茂木健一郎 @kenichiromogi

しち(6)人間は、個体として十分に賢く見えるため、思考の機能も個別脳に還元しがちである。しかし、人間もまた社会的な動物であり、人間の築き上げた文明が、ハチやアリのようなswarm intelligenceの結果である可能性は高い。集団としては、個体よりも賢いのだ。

2011-07-22 07:59:03
茂木健一郎 @kenichiromogi

しち(7)ナチズムを推進した将校たちが、一方では文学や音楽などの古典的な文化に触れながら、他方では残虐な行為に荷担した。そのことが矛盾としてしばしば語られる。実際には、個別の「知性」には、ほの暗い秘密があるのかもしれぬ。そのことをカタリーナ・ワグナーはとらえた。

2011-07-22 08:00:47
茂木健一郎 @kenichiromogi

しち(8)むろん、集団として「ヒステリー」状態になったり、愚かな振る舞いをすることもあるかもしれない。しかし、一人ひとりを観察して結論付けられるよりは、人間集団は質的に賢い。そんな信頼が、大衆民主主義の背景にあるのだろう。

2011-07-22 08:02:17
茂木健一郎 @kenichiromogi

しち(9)結局、人間の文明をより賢いものにするためには、多人数の「共同」が不可欠である。一人ひとりの智恵など、たかが知れている。個体としての知性には、むしろ脆弱性があることを直視して、私たちは麗しい共同作業にこそ、いそしむべきなのであろう。

2011-07-22 08:03:38
茂木健一郎 @kenichiromogi

以上、「衆智」(wisdom of crowds)についての連続ツイートでした。

2011-07-22 08:04:15