【2021年1月】1日1SSセルフまとめ

すべてフィクションです
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小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

時は止まらず、営むことはなにひとつ変わらず、なのに今日がとくべつなのはきっと、カレンダーのせい。  無くてもよかったのに──なんて、斜に構えるのも、もったいないから。  ──明けましたね。まあ、おめでとう。  壁に掛けたカレンダー、赤く刷られた「1」に向かって呟いた。 #TwitterSS

2021-01-01 09:46:11
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

なんでこんなことをしてるんだろうなあ。 毎年、テレビの向こうで戦う彼らの姿を見る度、思う。 彼らにしか辿り着けない、見えない世界。 それを目指して懸命に腕を振り走り続ける彼らが羨ましくて眩しくて。 だから毎年、彼らを見てしまうのだろう。 がんばれ、がんばれ。 ……って、ね。 #TwitterSS

2021-01-02 14:19:39
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

誕生日おめでとう、開けてみて? くるくるリボンで飾られた箱を差し出された。受け取って中身を見て「わあうれしい、ありがと!」ってニッコリすればいいのかな。きらきらの瞳でめっちゃ「ありがとう待ち」してるし。 でもごめん、あたし、そこまでやさしくないや。 「誰と間違えてるの?」 #TwitterSS

2021-01-03 10:04:50
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

「……ナントカ」 言ったら彼女は手にした花束を投げつけてきた。ナントカ言えって言ったのに。 突っ立ったまま彼女を見送る。直後、耳の奥に声。 「戻って来い。実験は失敗だ」 戻る。 一歩踏み出す。何かを踏んだ。 花束。拾えとは言われていない。 脳内のマップ、目的地にピンを立てた。 #TwitterSS

2021-01-04 10:23:08
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

知り合いの知り合いの伝で、と、かつての級友からメッセージが届いていた。 近く故郷で恩師を招いて同窓会をするという。 迷惑でしかない。 万人がそれらを懐かしむ──無言の前提。ああ、羨ましいことで。 メッセージは削除した。返事などしない。 それで察して、というのは我儘だろうか。 #TwitterSS

2021-01-05 10:53:27
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

僕の肩には小さな神様が住んでいる。たまたま目についた石ころを蹴ったらぱかんと割れて出てきた。住まいがないと泣くから僕の肩に引き受けた。 神様はいつもひとびとの幸運を祈る。聞いているだけでご利益がありそうだ。僕には目に見えるご利益をぜひ。便乗して祈る。 バチが当たるかも。 #TwitterSS

2021-01-06 13:00:02
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

特効薬が開発された。充分に行き渡るまで十年はかかるそうだ。 「なんだよそれじゃあ意味ねーじゃんてゆーか十年経ったらもう要らなくなってんじゃね?」 笑う彼女のフェイスラインは前よりしゅっとしている。 「はーもう起き上がるのもしんどいし。それ、明日ウチに届けてくんないかな?」 #TwitterSS

2021-01-07 09:55:57
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

初めて彼女が怒った。 それは僕のせいだし謝る、なのにすぐには謝れなかった。 怒る彼女があまりにも綺麗で見惚れてしまったんだ。もう少し見ていたい、けど、胸が痛いから止そう。 ごめんって頭を下げたらいいよって返事。顔を上げた僕が見たのはいつもよりうんと綺麗に微笑む彼女だった。 #TwitterSS

2021-01-08 10:27:21
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

グランドデザインと違う? や、そう言われてもこっちは仕様書通りっす。だいたいそのグランドデザイン? 後出しもいいとこでしょ。ちゃんと修正して──あーはいスンマセンやりますやります。 くっそまた残業かよ口出すだけのやつはいいよな。 神様ってのはつくづく、身勝手だよな……。 #TwitterSS

2021-01-09 10:04:29
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

予定どおりに転居した。言われた時間に連絡がきて、やがてもうひとりがやってきた。今日からこれがわたしの番。三番目だ。一番目と二番目の番とは子どもを作れなくて、この番とも子どもが作れなかったら廃棄される。しっかりと妊娠しなくては。 番が手を差し伸べる。 ぎゅっと握り返した。 #TwitterSS

2021-01-10 10:45:59
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

ずいぶん一緒にいるのに誕生日を祝ったことがない。尋ねると、きみはもにょもにょと口許を歪めた。じっと待つ。ようやく答えた。 「……今日」 言いたくなかった理由はいいや。 今日までの一生分よりもたくさん、おめでとうをあげる。 もちろんこれからも。 生まれてきてくれてありがとう。 #TwitterSS

2021-01-11 10:11:46
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

小さな窓に向かって愚痴を吐く。慰めてくれたり宥めてくれたり、代わりに怒ってくれて、それで少しは気が晴れる。 明かりを消してベッドに潜る。 明日もがんばれるかな。もうがんばりたくないな。 今にも切れそうな細い糸、窓の向こうの誰かが繋いでくれるから、どうにか、ここにいられる。 #TwitterSS

2021-01-12 13:23:57
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

顔を上げたら思ったところと全然違う場所にいた。ここに来るつもりはなかったんだけど? ぐるっと辺りを見回す。 ため息をついて本来の目的地に向かって歩き始めた。一時停止していた動画の続きを観ながら。 衝撃に目を上げたら歩き去るおっさんの背中が見えた。 ぶつかったんなら謝れよ。 #TwitterSS

2021-01-13 12:45:08
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

強く指を絡めたのは不安だからだ。どれだけたくさん愛を囁かれても強く手を握って貰っても満たされることがない。好きになるほど不安で不安で、まるであたしはモンスターだ。 手を強く握り返されて見上げたらニコニコしてて。 まだ足りない。 もっと愛して。 このモンスターをやっつけて。 #TwitterSS

2021-01-14 10:16:32
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

おしまいにしよう。 永遠を誓ったはずの私たちはその一言で終わった。 しようか、でもなく、したい、でもなく、しよう、と言った彼の顔は、今振り返っても思い出せない。 見過ごしてきた綻びを繕う努力をしたなら──なんて。 考える訳がない。 永遠の終わりを、ずっと願っていたんだから。 #TwitterSS

2021-01-15 10:12:17
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

自分の祖父母と同年代の二人連れが手を繋いで歩いていた。仲が良いからじゃなく、そうすると歩きやすいんだそうだ。 その片方はぶつくさ文句を言い募り、もうひとりはそれを宥め続ける。しんどそう、と、思いかけてやめた。 それも含めての繋がりだろうから。 少し早足で二人を追い越した。 #TwitterSS

2021-01-16 10:09:01
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

彼女は素敵だ。美人ってタイプじゃないけど、髪はさらさらで派手すぎないおしゃれをしてて、ふんわり控えめにいい匂いがして、気遣いもできていつも笑顔で。 あんなふうになれたら。 でも、私には無理。 だから、彼女が大っ嫌いだ。 ああいうタイプのせいで、私みたいな女は損をするんだ。 #TwitterSS

2021-01-17 10:07:41
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

いやいやいや。 待って待って待って。 いきなりそう言われて「はい解りました!」って言える訳ないっしょ? 十六になったばっかだし他にやりたいことあるし。 えぇ……拒否権はないの? マジか。最悪。 解ったよ、行けばいいんでしょ行けば! 行くけどさ。 世界の平和は保証しないからね! #TwitterSS

2021-01-18 10:59:11
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

あなたのため。 何度言われたか解らない。振り返って思うのは、それはほんとうはちっとも「僕のため」ではなかったってこと。 だからこうなっちゃうんだよ。自業自得ってやつでしょ? これでゆっくり休めそう。とりあえずシャワーが先か。 握り締めていた真っ赤なナイフをシンクに放った。 #TwitterSS

2021-01-19 11:57:13
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

「今夜の星拾い、一緒に行こう」 返事に詰まっていると、少し怒ったような調子で繰り返された。 「……私とでいいの?」 「それを聞く?」 「うん」 「君と行きたいから誘ってる。行くの行かないの?」 星拾いには行きたいけど、あの子からのお誘い待ちなんだよね。さあ、なんて答えよう。 #TwitterSS

2021-01-20 12:06:37
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

彼は困った顔でいう。 「そういうのよく解んねェ」 その度に答える。 いいんだ、言いたいだけだから。 自分にも、この感情の正体は解らないし思い込みかも勘違いかもしれない。 でも、ことばにしたらこうなっちゃうんだもの。 応えてほしいなんて思ってないよ。 ただ、言わせてほしいんだ。 #TwitterSS

2021-01-21 11:06:30
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

まほうのくすりがほしい? 何に──ああ、彼女に──ねえ。 さて、どうしようかなあ。僕にはもう使い途はないんだけどさ。はいどうぞー、って譲ってあげるほど、僕は親切じゃないしねえ。 は? 僕の言うことを聞く? 何でも? 解ったよ。 じゃあ──どんな言うことを聞いてもらおうかな。 #TwitterSS

2021-01-22 11:09:33
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

君はまるで世界の秘密を暴露するみたいに、至って真剣な表情で嘘をつく。 最初は嘘と知ったときには憤ったものだけど、近頃は、さてどんな嘘をつくのだろうと楽しみになっていた。 「あのさ、今まで黙ってたんだけど」 深刻な様子に吹き出すのをこらえて先を待つ。 今日はどんな嘘だろう? #TwitterSS

2021-01-23 09:57:41
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

神様から招待状が届いた。自覚はなかったけれど泣いていたらしい。それくらい嬉しかった。ずっと、ずーっと待ってたから。 沈んだ表情で僕を見つめる君を残して往かねばならないことは少し心配だけど。 身勝手な僕を、いっそ憎んでくれたらいい。 先に往くね。君はあとからゆっくりおいで。 #TwitterSS

2021-01-24 11:00:39
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

つやつやの黒い目が赤く光る。お小言モード発動。怒涛のお小言を聞く振りでやり過ごした。いつしか赤い光は失せて、メイドさんは何事もなかったかのように掃除に戻る。 なんで発動するんだお小言モード。何度もリセットしてるのに。 次はちゃんと、見た目じゃなくてスペックで選ぼう……。 #TwitterSS

2021-01-25 11:21:11