#3 思い立ったが吉日

殺させ屋【公式】 @korosaseya

死んだらもう締切に追われることも、クソみたいな担当にストレスを覚えることも、批判を受けて落ち込むこともないんだ。

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そう考えると自然と涙が溢れてきた。

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｢……何か思うところがありそうですね。私で良ければお話をお聞きしますよ｣

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｢えっと……じゃあ少し、僕の身の上話を……といってもそんなに大層なものでは無いのですが｣

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幼い頃から本が好きだった。

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こんなに小さいのに、それの何倍ものたくさんの世界が詰まっている。たくさんの想いが詰まっている。 限られた文字の組み合わせでこんなにも素敵な物が作れる。

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僕もこんな世界を作りたいと夢見た。

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努力して努力して、小説家という肩書きを得た。

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話題の新星、なんて言われたりして。幼い自分のように、僕の小説を見て感動してくれる人がいればいい、なんて願いながら。

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でも現実は非情だった。

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有名になるに連れて増える心の無い感想、批判。 何故か僕の目は、好意的な感想よりもそういうのをよく拾ってしまう。

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確実に変わったと思えるのは担当が変わった時。 そいつは俺の作品を否定した。僕の望む文章ではなく、世間の望む文章を作れと、そう言ってきた。

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何故かと問うと、｢俺の評価に関わるから｣だと言った。

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たった1人の他人の人生のために、僕の思いは殺されたのだ。

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でももう、それに怒りを覚えるのも疲れてしまった。

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心も体も追い詰められた僕は、ネズミ捕りに捕まって死を待つだけの灰被りのネズミなんだ。

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｢………なんて、少し仰々しく話しすぎたでしょうか｣

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｢いえいえ！素敵なお話でしたよ！さすが作家先生ですね！｣

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幼稚に拍手を送られる。 納得した様子のラキさんは書類を持ってきた。

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｢こちらの書類は……この店の利用者の方に必ず書いていただくものです。もちろん、書かずに立ち去っていただいても構いません。どうされますか？｣

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これを書けば、自分は死ぬことになるのだろう。 不思議と恐怖はなかった。

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それ以上に、このまま生き続けるのが怖かった。

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｢……書きます｣