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「と、言ったはいいがすまん。覚えがない」 「そうか…いや、それならそれでいいんだ!そ、それだけだから!」 「…なんだったのだ?」 「僕はお前がなんでピチピチの肌着だけで行動してるのかが不思議だよ」 「肉体美はあえて見せることで磨かれる。他者の視線で己を意識することから始まるのだ」
2021-01-29 19:15:08劣化しぼろぼろに錆びた装備を纏う骸骨に遠慮なく大斧の一撃を見舞えば、風に吹かれたように浮き上がり、岩肌、もとい岩のように固まった皮肌を骨が砕けながら転げ落ちやがて見えなくなる。 戦士は一瞬だけ黙祷をして慎重に踵を返す。
2021-01-29 22:58:19部位としては首に登りかけ、まだまだ町を見下ろす程度の標高ではあるが既に勇者は下山している。 散々貧弱と煽り散らしたのもあってか元気そうではあったが、しかし戦士(じぶん)に比べれば弱い。 戦士は生まれながらに強かった。
2021-01-30 02:05:48時にはそれを傲慢と非難され孤立することもあったが周囲の人間の脆さが目につかないほど強かったので特に問題なく、筋肉を鍛えて育った。 協調性が身についたのは軍へ入ってから。鍛えたり暴れたりするにも効率があることを覚える。
2021-01-30 02:12:09未だに仲間と対等だとも思わない。特別な力があろうと肉体が脆弱なら命として弱い。 だから、守らなければならないと思う。 守らなければならないと思える命に出会えた以上は守ってみせる。
2021-01-30 07:05:37無駄な思考だった。 「戦士?」 「…魔法使いか」 僧侶は勇者に付き添って山を降りた。土地勘のない場所へ二人残るのを心配されたが自分の身体のことは自分が一番よくわかっている。彼女も同じく問題なく適応を進めているらしい。
2021-01-30 07:14:35と言うか。 自分より高いところから浮遊しながら降りて来た彼女の口には細い筒のようなものが咥えられていた。 「魔法使い、お前…」 「…は?煙草じゃないわよ。薬草」 戦士には違いがいまいち理解できなかったが魔法使いは勝手に説明を始めたので黙っておく。
2021-01-30 07:17:38「私たち魔法使いは生命の反作用で生み出す内在魔力で魔法を使うから、外部からの魔力干渉が強すぎると魔法が使えなくなるのよ。当たり前に流れてる血の流れがおかしくなる感じ。それを緩和するためにこうやって薬草を」 「わからん」 「転がすわよ」
2021-01-30 07:25:39二人して山を降りていく。足場が悪い中僅かに浮いている彼女を内心羨みながら、 「いやちょっと待て」 「その点あの占い師はいんちきだわ。あいつは外部の魔力で魔法を…何よ」 「魔法使い、お前そんなことできたのか」 「はぁ?」
2021-01-30 07:28:06目は舌より雄弁である。できていたらしい。 「箒がないと飛べないとでも思ってたワケ?そうね、魔力管理なんて面倒な設定があるんだから飛ぶのにもアイテムが必要だと思うでしょうね」 「いや何故そこで怒る。そんな便利な魔法があるならこっちにもかけてくれ」
2021-01-30 07:31:50「は?魔女が箒貸した奴が空飛べたのを今まで一度でも見たことあるワケ?」 勇者以外にはどうも辛辣でやりづらいが他人に適用できる類のものではないらしい。 後から僧侶に聞いたがかつて同じパーティにいた魔法使いにすらできなかった極めて高等な技術であり、
2021-01-30 07:35:16彼女に限って言えば現時点ですらその魔法使いを上回る力の持ち主である、と。 数多くの未知を切り拓いた先人をすら容易く凌駕する圧倒的な才覚。 「魔法使いよ」 「何?」 「お前も俺と同じだな」
2021-01-30 07:43:34空中で巧みに身を捻って放たれたハイキックは危うくうなじを刈り取り損ない後頭をかすめながら風圧を残しながら通り過ぎて行った。 避けはしたが殺意を感じる。 「筋肉と一緒にするな」 「ふっ。だが俺の方が強い」 挟み込むように前後から炸裂した両脚蹴りは避けられず最悪の足場で膝を
2021-01-30 07:52:28折らされる。 導かれる結果は当然、岩肌からの転落である。 結果的に怪我はしなかったものの山から筋肉が転がり落ちて来たとしばらく怪奇現象扱いされたりもしたが、やはり。 「ガブガブキックは常に成果を出すのだな…」 「なんで生きてるのよ…」
2021-01-30 07:56:23またまたある日には、会話を通して仲間同士親交を深めたりもした。 「あの、戦士さま。地域によっては薄着であればあるほど同性を誘惑していると解釈されるそうなので、その」 「…あれは本当にそういう誘いだったのか…」
2021-01-30 07:59:03勇者からは散々誘い受けと煽られたが無邪気に笑う彼を慈しむような表情で見守る魔法使いがいたので我慢した。 わざわざ獣の尻尾を踏みに行く必要はない。
2021-01-30 08:45:27過ぎる時間は有意義で、それでいて穏やかに流れていく。 仇敵との決戦を控えているとは思えないような蜜月であった。 ただ、そんな最中でさえ。
2021-01-30 15:46:13やはりと言うか、気付いたのは勇者が最初であり最後である。 良くも悪くも仲間を平等にしか見ていない戦士と最初から勇者しか見ていない魔法使いには気付きようもないと言えばそれまでだが、逆にだからこそこの旅は成立していた。 理由さえ付けられれば誰相手にも苛虐を行う壊れた女の同道など。
2021-01-30 16:06:21「うえぇ…」 「勇者さま、お気を確かに」 屍山病、と呼ばれるらしい。 「死」に引かれる、と言えば大仰だが魔法使いのように環境の魔力に影響を受けて起きる不調の一種だ。かつて聖地と呼ばれた場所でも似たような現象が起きた結果神の声を聞いたと言う認定のために聖職者が詰めかけたとか何とか。
2021-01-30 18:36:44